2009年11月15日日曜日

Web マーケティングの効果を高める3つの原則 ~ Web 先進国アメリカから学ぶ ~ Part Ⅲ:成果につながる改善活動で 「問い合わせ」を「商談」につなげる

2009 年11 月
エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社
Steven Kelley
小島美佳


本書を読まれる方へ (サマリー)
米国先進事例やノウハウから学ぶ、というシリーズで続けてきた本レポートは、
これで最後となる。PartⅠで、商品や顧客の特性を踏まえたWeb マーケティ
ング戦略があるべきと申し上げた。そしてPartⅡで顧客に見つけてもらい、
選ばれるアプローチの重要性について記述させていただいた。

最後となるPartⅢでは、主に収集したリード(問い合わせ)をどのようにして
商談化するのか、という点に絞って議論させていただいた。

簡単に説明させていただくと、リードを商談化するために考慮すべき点は
2つだ。1 点目は、商談化に至るプロセスを詳細に設計し、それに基づいた
行動を行うこと。これを行う理由は、うまくいかない時に要因を具体的に
捉えることができるからだ。

そして、2点目はリードの質を担保するための見極めを早い段階で行うこと
である。我々の経験によると、1点目をクリアする前に、2点目でつまずいて
いるケースが多い。最後にコスト対効果に基づく改善活動をしっかり行って
いく。

本文ではSMART(Specific, Measurable, Achievable, Realistic, Time)という
概念を活用してこの重要性を強調させていただいた。さらに、一部の活動を
容易にするためのツールもご紹介している。

■Web マーケティング戦略は本当に検討されたか?
さて、本題に入る前に。Web マーケティングの戦略、という点をもう一度確認
いただきたい。何度もしつこいようだが、この出発点が大変重要である。
結局のところ、リードを商談に結びつけるために必須なのが戦略検討である
からだ。

Web マーケティング戦略とは、全ての土台となる。これがお粗末だと、その他
施策の効果も発揮されない。もし、本レポートを始めてダウンロードされた方が
いらっしゃったら、是非ともPartⅠ、PartⅡも読んでいただきたく思う。

■どうすればWeb マーケティングのROI が上がるのか?
それでは、改めてWeb マーケティングの目的、という点に立ち返ってみたい。
当たり前のことではないか、と思われる方も多いだろうがWeb マーケティング
を行う目的は、最終的な売上を伸ばすためである。しかも、通常の営業
プロセスとは異なる方法で、より効率的に、だ。従って、Web マーケティング
を始める前に、
①どの状態に達すれば売上が伸びたと言えるのか。そして、
②どの程度のコストで成果を達成できていれば効率的であったと言えるのか、
という2つのゴール設定を行うことが肝心である。

我々がこれまでに拝見させていただいたケースをみると、この2つをしっかりと
定義して実施している企業は少ない。或いは仮に計画はあったとしても、
数字を見ながら行うべき施策を修正したり、計画自体を腰を据えて見直す
PDCA を実践できているケースは稀だ。

なし崩し的に数字が忘れられ、経営への報告を行う前にバタバタするという
のが最も典型的なパターンだ。

Web マーケティングの成果は、できるだけ少ない投資で、できるだけ多くの
売上を上げられるのが理想的である。従って、これらの2つの点を具体的にし
(Specific)、測定できるKPI を設定して(Measurable)、到達可能なゴールに
(Achievable)、現実的な施策を用いて(Realistic)、具体的な期限を設定して
(Time)進めていくことが重要となる(SMART)。

当たり前のことを申し上げて恐縮だが、実際にこれを、胸を張って「できている」
と感じられている皆さんは、おそらく本レポートのダウンロードはされていない
だろうと思う。

■企業Xにおける商談化の実態
ここで一つのケースご紹介しよう。企業Xは、かなり早くからWeb マーケティング
の取り組みを始めていた。Web マーケティングの先進事例を多く研究し、最も
効率的に問い合わせ(リード)を収集する仕組みを構築していた。この企業で、
最も多くのリードを集めることができていたのは、研究レポートのダウンロード
であった。

ホームページ上に研究レポートを掲載し、それをダウンロードするためには、
顧客は自分の情報を入力する必要がある。これを行うことによって、沢山の
顧客情報が手に入っていた。

さて、これらのコンタクト情報に対して企業Xでは営業チームがアポイントを
取るためのコールを行っていた。手に入った顧客情報に対して電話をかけ、
興味を持っていただいた顧客と商談を進めていくアプローチだ。

しかし、商談化率はあまり良くなかった。全体のゴール設定なども行っていた
ので、数値は確認できたのだが、アポイント取得率は1%に満たなかった。
だんだん営業はモチベーションが下がっていく。

「いつもの通りテレアポをしているのと何が違うのか?」
「全てのコンタクトへ電話をかける必要があるのか?」
という不満の声が漏れてきていた。そして、次第に営業は、ほとんどコンタクト
情報へのフォローを行わなくなっていった。

■原因その①:顧客が「買う」タイミングを掴めていない
この企業X のような実態は多くの企業を見られるもので、決して日本企業に
限ったことでもない。米国のInTouch, Inc によると、Web マーケティングによって
得られたリードのうち、約80%は営業によってフォローされていないという事実
がある。

衝撃的な数字だが、事実だ。それでは、一体何が理由でこのようなことが
起こってしまうのだろう。冒頭のSMART に戻って考えてみよう。

ここで最も考えるべきは、現在行っている施策がどこまで現実的なのか
(Realistic)、ということである。

次項の図を見ていただきたい。


これも米国のデータ(Sirius Decisions)であるが、すぐにアポイントが
取れない、いわゆるアクティブでない顧客が、24 カ月以内に競合から同様の
商品を買っていた、という事実を示している。

仮に企業X が持っているコンタクト情報が、将来の顧客に成りうる可能性が
高いのだとしたら、購入するタイミングではない段階でアプローチしてしまって
いる可能性が高い。

「今、この段階で興味を示してくれなかった」=「悪いリード」ではないのだ。

商品特性にも依存するが、これは どのような条件が整えば顧客が購入する
のかを前もって見極めておく必要があることを示唆している。一般的に
研究レポートを1度ダウンロードする程度の顧客は、おそらくまだ興味段階で、
購入に至るケースは少ない。

それと比較して、より顧客側にとって労力のかかるセミナーへの参加や無料
診断への申し込みなどを実施する場合には、購買欲求が高いと考えられる。
顧客の行動を管理し、それらのタイミングに合わせて営業からのコールを行う
ことが重要だ。

このように、リードを商談に結び付けていく活動をナーチャリング(Nurturing)
と呼ぶ。PartⅡでも触れさせていただいたが、この条件がどのようにそろえば
良いのかを見極めるためには、既存のWeb マーケティングを活用しない状態
で、どのような営業の「勝ちパターン」があるのかを徹底的に議論し、洗い出し
ておく必要がある。

例えば、セミナーに参加してもらえれば勝率が高い、ある課題に対する問題
意識が高ければ勝率が高い、経営者と話せれば負けることが殆どなかった…
など、既存の営業が持つ知見をしっかり把握することだ。

■原因その②:リードの質が悪い
もう一つ、考えられる要因として、そもそものリードの質が悪いというのがある。
本来、Web マーケティング戦略の段階で、ターゲットとしたい顧客が定義されて
いるはずだが、その顧客プロファイルではないリードが集まってきている
可能性があるのだ。

我々の経験的には、前述した顧客の購入タイミングを誤ってアプローチして
しまっているケースよりも、リードの質の問題が深刻なケースのほうが多い。
事実、こちらを最初に解決しないと、どんなに頑張ってナーチャリングの施策を
打ったとしても意味はないし、営業チームの信頼を獲得することも難しい。

まず、必ず忘れずに行うべきは、初期の段階で できる限り質の良いリードと
そうではないリードの選別を行ってしまうことだ。これは、マーケティング側の
勘や肌感覚で行うのではなく、具体的な条件に基づいて篩にかける。

さらに、この条件は予め営業とよく話し合って決めておくことが重要だ。

当社では、この「質の良いリード」を見極める条件を
ULD(Universal Lead Definition)と呼んでいる。直訳すると、包括的なリードの
定義、という意味で、あらゆる角度から質の良いリードが定義されたものを指す。

これがなぜ重要かというと、すぐにアプローチすべき顧客を初期の段階で
絞り込むことにより、実際にナーチャリングの段階できめ細かいフォローを
行う顧客を取捨選択できるからだ。

労力をかけたくない顧客を早期の段階で見極めたい。そうでないと、冒頭で
申し上げたROI が実現できなくなってしまう。

■ROI を測るには、コスト対効果で見ないと意味がない
このように紹介した各種施策はROI を追求する上での「売上」向上を目指した
内容となる。しかし、この手の施策推進には、当然のことながら投資が必要だ。
はじめに設計したプロセスが万全、ということはまずあり得ないし、競合の動き
や環境の変化によって影響を受ける可能性も高い。

一度成功したやり方で、継続的に成功するとは限らない。PartⅡでも申し上げ
たが、そのために必要となるのが目標と現状との乖離を確認し、一つ一つの
段階でどの程度のコストがかかっているのかを確認することだ。

要するに、冒頭のSMARTの視点に立ち、行われている活動を随時チェックする
ことである。

例えば、
 ランディングページへのヒット数は、1 件あたりどの程度のコストで実現
できているのか?
 顧客情報の取得に、1 件あたりどの程度のコストがかかっているのか?
 セミナーへの誘導にかかっているコストはいくらか?
 アポイント1 件あたり、いくらかかっているのか?

上記の実態を常に押さえておくことが重要である。これによって、パフォーマンス
(成果が出ている、というだけでなくコストパフォーマンスを含めて)下がっている
ところへ必要となる施策を打つことが可能となるのだ。

商談化のプロセスに入り、だんだんと活動が複雑になればなるほど、新しい
施策を打つ前に、分析を行うことが重要となる。

例えば、商談化に至る過程であまり行われていない議論として、アポイントに
つながらない案件、或いは失注した案件の分析がある。
-なぜアポイントにつながらなかったのか?
-アポイントにつながらない顧客に共通する点は何だろうか?
-次のアポイントの際に何に気をつけることができるだろうか?
こういったことを自問自答するのだ。

しっかり議論することで、ちょっとした工夫で追加の投資を回避することが
できるかもしれない。Web マーケティングは、賢くやることによってコストを
かけずに成果に到達することができる。多くの企業があきらめずにこの新しい
領域で成功を掴んでいただくことを願ってやまない。

著者紹介

■Steve Kelley
米国ノートルダム大学卒業、ケロッグ経営大学修士課程終了(MBA)。
アクセンチュアにてシリコンバレーの戦略テクノロジーセンターに勤
務、東京のネットイヤーグループに勤務後、サンディエゴWebsense に
入社。セキュリティーソフトウェアのマーケティングや事業開発部門の
幅広い分野をリードし、売り上げを35 億ドルから343 億ドルに伸ばす
と共に、SaaS テクノロジーのエキスパートとなる。2009 年にボーダー
レス・グループCEO。

■小島美佳
慶應義塾大学を卒業。アクセンチュアに入社し、事業開発や営業分野
を中心とした戦略、プロセス、組織、人材の計画策定から改革支援まで、
数々のコンサルティング・プロジェクトを遂行。その後、エム・アイ・
コンサルティング・グループの立上げに参画し、自ら事業開発、営業を
展開する。現在は、海外における営業・マーケティングノウハウを日本
国内に展開する各種活動に従事。企業に対するコンサルティング支援を
する一方、営業トレーニングの講師としても活躍している。

以下は、少ない投資で成果が出るWeb マーケティングに関心のある方
のみお読みください。
レポートを最後までお読み頂きありがとうございます。
今回お読み頂いたレポートは、貴社のROI を急激に高める可能性を
秘めている強力な提案です。新しい方法論であり、ほとんどの企業が
実現できていないことが書かれています。

ここで提示させていただいた方法論は、早く始めるほど効果が出ます。
実行する時期をうかがう必要はありません。そのため、ライバル会社が
まだ着手していないと思われる「今」から実行することが何よりも重要です。

当社では、本レポートにてご紹介したWeb マーケティングを実践する
ための具体的な話を実践したいという方のために、手引書を無料で
プレゼントしております。入手した次の日から使える実践的な
ものとなっておりますので、ご興味のある方はご連絡頂ければと
思っております。

<<ご希望の方は今すぐメール>>
お問合せURL:http://salesroi.jp/webmarketing/contact.html
TEL:03-3500-4420
E-Mail:wakamatsu@micg.jp
担当者:若松・花田


2009年10月5日月曜日

俯瞰できれば、いかにあなたが“振り回されていた”か分かる 【最終回】戦略立案のプロは“流されない”

あらためて、今まで作成してきたものを眺めてみましょう。
A4のペーパー1~2枚の「これからの世界そして日本に関する相場観」
同じくA4のペーパー1~2枚の「自社の本質的な強みと弱み」、そしてそれに対する、A4のペーパー数枚の「10年刻みで世代毎の意識や価値観の違いに関する補足」
以下図表、および各シナリオ毎にA4のペーパー数枚で表現される「10年後の外部環境に関するメインシナリオそしてリスクシナリオX、Y」
A4のペーパー12枚の「これからの世界そして日本に関する相場観」


同じくA4のペーパー12枚の「自社の本質的な強みと弱み」、そしてそれに対する、A4のペーパー数枚の「10年刻みで世代毎の意識や価値観の違いに関する補足」


以下図表、および各シナリオ毎にA4のペーパー数枚で表現される「10年後の外部環境に関するメインシナリオそしてリスクシナリオXY



ボリュームは人により大きく異なるであろう以下のような項目を網羅する「10年ビジョン」


企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表


10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現


KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす


企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す


・ ビジョンを実現するために必要となるパラダイムの転換

 XXからYYへ、PPからQQへ、といったものを、3つくらい(多くて5つ)並べる。


・ 主要課題に関してその背景と現状の理解

 ビジョンを実現するための主要課題とその背景を、現状との対比で示す。


・ 企業活動の主要要素別ギャップ

 企業活動の主要要素別に目標と現状のギャップを、それぞれ上限5項目程度で示す。箇条書きレベルでOK


・ 事業戦略

 柱となる売り上げ、収益、事業分野の数字に関して、現状から10年後の目標値まで時系列で数字を示すとともに、前提となったその拡大と絞り込みに関する戦略レベルの方針や主要なイベントを記述。


・ 分野別戦略

 企業活動の主要要素別に現状から10年後の目標値まで、時系列的に示すとともに、前提となった戦略レベルの方針や主要なイベントを示す。一般的には、人材、組織、技術、製造、マーケティング・販売、物流、購買、経理・財務、ブランド、IT・・・これをある程度のまとまりに括るか、重点部分を取り出すか、押し並べて述べていくか、ここは好みと議論が分かれるところです。


・ 実行計画

 実行にあたっての体制、プロジェクト管理、投資計画、次フェーズ(直近1年程度)の実行計画、その他留意点、など。


ボリュームは人により大きく異なるであろう以下のような項目を網羅する「10年ビジョン」
企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表
10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現
KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす
企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す
・ ビジョンを実現するために必要となるパラダイムの転換
 XXからYYへ、PPからQQへ、といったものを、3つくらい(多くて5つ)並べる。
・ 主要課題に関してその背景と現状の理解
 ビジョンを実現するための主要課題とその背景を、現状との対比で示す。
・ 企業活動の主要要素別ギャップ
 企業活動の主要要素別に目標と現状のギャップを、それぞれ上限5項目程度で示す。箇条書きレベルでOK。
・ 事業戦略
 柱となる売り上げ、収益、事業分野の数字に関して、現状から10年後の目標値まで時系列で数字を示すとともに、前提となったその拡大と絞り込みに関する戦略レベルの方針や主要なイベントを記述。
・ 分野別戦略
 企業活動の主要要素別に現状から10年後の目標値まで、時系列的に示すとともに、前提となった戦略レベルの方針や主要なイベントを示す。一般的には、人材、組織、技術、製造、マーケティング・販売、物流、購買、経理・財務、ブランド、IT・・・これをある程度のまとまりに括るか、重点部分を取り出すか、押し並べて述べていくか、ここは好みと議論が分かれるところです。
・ 実行計画
 実行にあたっての体制、プロジェクト管理、投資計画、次フェーズ(直近1年程度)の実行計画、その他留意点、など。
ボリュームは人により大きく異なるであろう以下のような項目を網羅する「10年ビジョン」
企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表
10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現
KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす
企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す
・ ビジョンを実現するために必要となるパラダイムの転換
 XXからYYへ、PPからQQへ、といったものを、3つくらい(多くて5つ)並べる。
・ 主要課題に関してその背景と現状の理解
 ビジョンを実現するための主要課題とその背景を、現状との対比で示す。
・ 企業活動の主要要素別ギャップ
 企業活動の主要要素別に目標と現状のギャップを、それぞれ上限5項目程度で示す。箇条書きレベルでOK。
・ 事業戦略
 柱となる売り上げ、収益、事業分野の数字に関して、現状から10年後の目標値まで時系列で数字を示すとともに、前提となったその拡大と絞り込みに関する戦略レベルの方針や主要なイベントを記述。
・ 分野別戦略
 企業活動の主要要素別に現状から10年後の目標値まで、時系列的に示すとともに、前提となった戦略レベルの方針や主要なイベントを示す。一般的には、人材、組織、技術、製造、マーケティング・販売、物流、購買、経理・財務、ブランド、IT・・・これをある程度のまとまりに括るか、重点部分を取り出すか、押し並べて述べていくか、ここは好みと議論が分かれるところです。
・ 実行計画
 実行にあたっての体制、プロジェクト管理、投資計画、次フェーズ(直近1年程度)の実行計画、その他留意点、など。
 
ここまでまとまったものを書き記したあなたは、無事、「目線を上げて経営戦略を書いてみた」わけです。それでは、「俯瞰的な視点とぶれない機軸」は完成したでしょうか?
 残念ながら、これで解放というわけではありません。
 まず、未来という不確実性の中で仮説のもとに構築した、シナリオ、ビジョン、そして戦略は、作ったその瞬間から陳腐化が始まります。そして過去も同様に、整理した瞬間から陳腐化が始まるのです。なぜなら過去に関しても常に新たな発見がありますし、その解釈は常に新しい事実によって変わっていくからです。
 それでは、俯瞰的な視点とぶれない機軸に関してはどうでしょう。確かに、この一連の旅を終えたあなたは、以前に比べればはるかに俯瞰的な視点を持ち、そしてぶれなくなっていると思います。
 しかし、それらの変化はあくまで相対的なものであるし、作成したその日から、マイビジョンやマイ戦略は陳腐化していくことを考えると、基軸だって根元が緩んで来るでしょう。
 陳腐化を避け俯瞰的な視点を広げ、ぶれない機軸をより確固としたものにしていくためには、マイビジョンやマイ戦略を日々磨いていくしかありません。
 折角作成したものを人にパクられるのが嫌だとか、恥ずかしいだとか、そのようなことを考えては、折角ビジョンを作った意味がありません。オープンソースをはじめ、製品開発や技術開発ですら多くの人によるコラボレーションで進められていく時代、そのような閉鎖的な考え方とは決別しなくてはなりません。
 開放系で、日々マイビジョンを磨いていく、今回は、そのための方法を中心に説明していきたいと思います。

身近な人を活用する


 まずは同じ会社に所属する人たちとの議論が大切でしょう。同じ職場に働く者たちの間で、良いコミュニケーションの材料にもなるし、お互いの新たな面が発見出来るかもしれません。

日本経済新聞のコラム「春秋」(2009年9月27日号)で、最近は勝間和代や本田直之などの自己啓発本がブームだとか。記事曰く、彼らはバーチャル上司である由。「旬の人を選べ」とか、「自分の最適なコーチは自分」と説いているそうです。
 幸か不幸か、私は彼らの本を読んだことはありませんが、果たしてそのような内向きなスタンスで良いのかなあ、と素朴に感じてしまいます。もちろん、会社の看板だけで勝負してはいけませんが、利用するものはとことん利用する、良い上司も悪い上司も、全て自分を大きくしていくための修行である、というくらいに考えることは出来ないのでしょうか?
 無論、コンサルティング会社とか、投資銀行とか、同じ職場の人間はすべては本質的にはライバルか単なる同居人であり、決して仲間ではない環境で生きていくのであれば、彼らのような覚めたスタンスも必要悪ではあると思いますが。
 日本企業に勤める醍醐味は、やはり会社と一体化して仲間のリーダーとなり立っていくことを目指すところにあると、私は傍で見ながらずっとそう思っていました。したがって、そのような態度には、つい違和感を覚えます。
 もっとも、同僚にそのようなスタンスの人間が多いなら、逆にチャンス到来なのかもしれません。一昔前の熱いサラリーマンになって、思いきって暴れてみてはどうでしょう?

外部の人間と他流試合をする


 自社内部だけの議論ではなく、外部の目から見て評価を受けるのも重要です。率直な目で見て、正しくコメントしてくれるような人物を探し当てることが出来れば、その人はあなたの職業人生にとって良いパートナーとなるでしょう。
 企業の枠を超えた人材の交流は、意外と少ないというのが私の実感です。コンサルタントという商売柄色々な分野の方々と知り合う機会があります。時に相性の良さそうな初対面の方々を交えた食事、あるいは数人から十数人を集めた勉強会など、いずれも非常に盛り上がりますし、感謝されることが多いです。
 世の中には、異業種交流会や、SNSのコミュニティ、そしてそのオフ会といった、いくつかの機会があります。私も、過去そのようなものに参加したことがありますが、残念ながらあまり長続きした記憶はありません。
 やはり、「同じ釜の飯を喰った」経験や、「プロジェクトを共にした」といった共有体験を有することが、良いパートナーを得る機会であった気がします。そのためには、大学の同期や高校の同窓の中でネットワークを広げるのも良いでしょう。
 このような活動を長続きさせるコツは、自分が主催者になることです。異業種間で人の関係を取り持つような幹事役は中々いないので、通常感謝されますし、場を作ることがさらに価値につながり、その価値が人を呼び場の価値を高めるという、良循環を構築することが出来ます。
 1つのコミュニティに関して、いたずらに数を増やす必要はありません。例えば以下のように、タイプの違う、いくつかのカテゴリーに分けたコミュニティを持てばよいのです。
・ まじめ
・ チョイワル
・ ほのぼの癒し
・ 熱血
 等々、他にも色々と考えられます。
 ちょっと知りあった気になる人は、どしどし食事に誘いましょう。そこで相性が良いと感じたら、定期的に会う機会を設ける。そのうち、仲間を作ろうという話になり、コミュニティが生まれてきます。ちょっと脱線すれば、これは女性と知り合う機会を増やすテクニックと同じです。
 貴方のマイビジョンは、このようなコミュニティ活動における格好のネタになります。そのような機会を通じて、マイビジョンを進化させていきましょう。

大学の先生や専門家との議論


 ある程度議論の範囲を狭めることが出来るなら、その道の専門家と呼ばれる方々と議論するのも有効です。その方法は、ホームページからの問い合わせエントリーです。それなりに著名な方々でも、キチンと自己紹介をして趣旨と目的を明確にしたうえで、訪問と議論のお願いをすれば、意外と受け入れられる確率が高いものです。

ちなみに私は単なる無名のありふれたコンサルタントですが、きちんとした内容のエントリーが、わが社のHPにあれば、お会いするようにしています。新鮮な情報への期待が第一で、仕事を期待するようなことは、特にはありません。ただ、礼儀として菓子折程度は持参したほうが良いでしょう。
 セミナーや講演会などに参加して、その後質問をぶつけるのも勿論OKです。「自らの話を聞いて、さらに話をしたいというきちんとした申し出を不快に感じる人物は居ない。もしそのような態度を取るようであれば、小物なので相手にするに足らない」。このようなスタンスで良いのです。臆せず、堂々と議論をしましょう。

ブログやSNSを活用する


 いくらマイビジョンとは言え、自社に関する検討結果を一般のネットワークに公開するのは、いささか抵抗が有るかもしれません。ですが、10年後の世界に関するシナリオであれば、汎用性もあるし、面白い議論になるかもしれません。
 インタラクティブに多くの人たちが書き込みを行っていくWEB2.0の世界を、実感として体感してみるのも、面白いとは思いませんか? メールで行う1:1のやり取りより、はるかにダイナミックな展開が待ち受けています。

「マイビジョン」の先にあるもの


 マイビジョンを作成したあなたは、俯瞰的な視点とぶれない基軸を手に入れました。そしてそれは、日々グレードアップして行きます。それでは、その先に何が有るのでしょうか?
 俯瞰的な視点を手に入れると、自分の周りや所属する組織に存在する壁に気がつくようになります。ぶれない基軸を手に入れると、周囲の人たちがいかに周りに振り回されているか、あるいは、無意識のうちに自分の意見を変えているか、気が付くようになります。
 そして、自分の周りにある組織の壁が、いかに無駄を生みだし新しい創造を阻害しているか、という古くて新しい問題にも。

“壁を超える”ビジネス・プロデューサーになる


 組織があれば壁が出来るのは当たり前です。小さな会社が大きくなる過程で、組織がどんどん増えていった場合は、もともと同じ釜の飯を喰っていた仲間意識があるのでまだ意思疎通が出来ますが(いわゆるOld Boys' Network)、初めから分かれていると、組織論理が育ち壁はどんどん高くなります。
 組織論理に関して、保守的で変わりたくなくなるのも当たり前です。言葉に出来ない人の意思を切り取った平均が組織なので、構成員の平均に比べ、組織論理はどうしても保守的になります。
 例えば日産自動車では、ずっと毎年CFT(クロス・ファンクション・チーム)なるものを多く組成し、トップダウンで有能な人材を充て、横串を推進しています。単一プロダクトの自動車産業において、これだけ横串への努力が継続的に必要ということは、壁や保守性が強いのは当たり前、ということに他なりません。
 欧米社会では、個人主義のベースの上に、組織の壁や組織論理の保守性を前提として、横串組織のマネジメントが構築されているので、それなりにうまくやる方法が公式化されています。
 一方、日本の場合、成長期に拡がっていった成功体験を持つ経営者(=団塊の世代まで)は、仕組みなどなくても何とかなると考える傾向が強いように見受けられます。
 現在の状況(日本経済の停滞期)が長く続けば、徐々に学習が進むものと思われますが、仕組みを元に公式化された成功体験を企業内で積み重ねていくには、それなりに時間を要することは想像に難くありません。
 欧米の場合、組織の地位は任命されたもの、与えられたものとの感覚が強いですが(その分ボスには忠実)、東アジアでは、組織と自分が一体化して帰属意識が強い分、それが全てとの感覚になる傾向がみられます(従ってより組織の論理に忠実)。したがって、理屈や個人の意思より組織論理が強くなる(=壁が出来る)傾向がより強いので、さらに根が深く厄介な場合が多くなります。
 いずれにしても、壁をなくそうとか、組織の保守性を改めようとか、重力の法則に逆らうようなことは、労多くて益少ないのではないでしょうか。むしろ、壁や保守性というものは、すべからくどのような組織にも存在するという前提で、どうやって、その弊害を少なくしていくのか、といった観点で取り組むことが重要であると思われます。
 すなわち、壁があるなら壁をすり抜けて行動する人をいかに増やすか? 組織の保守性が課題であれば、リーダーの変革マインドを如何に高めるか? といった対応策(いわば組織の行動様式)を取ることが、結局は問題への最善のアプローチとなると思います。

取り組みの具体的な例として、私がいま思いつく範囲では、以下のようなものがあります(きっと他にも沢山有るでしょう)。

● 共通のビジョン
 多くのカリスマ型リーダーはこれにあたります。例えば、ユニクロの柳井さんとか。あるいは、そのようなビジョンが組織としてしっかりしているところ、例えば、日本郵船や商船三井などの伝統的な企業が、これにあたります。

● 参加と信頼
 このケースが一番多いでしょうか。例えば、日産に代表されるCFTやトヨタの設計主幹制度です。面白いのは、日産は職務分掌で、トヨタは豊田家のお墨付きという形で、リーダーに権威を与えていることですね。
 オフサイトミーティングの開催による意識共有化や、富士ゼロックスのバーチャルハリウッドなどの自主的な提案活動、いわゆる改善活動委員会なども、このカテゴリーに入ります。

● 論理的対応
 人事ローテーションによる対応で、壁を超えた社員を作りだす手法があります。GEその他多くの欧米系会社による、選抜したコーポレートレベルで各事業会社をローテーションする社員、例えばHPLP、FPLP、SPLPなどといった存在は、比較的有名です。
 ジュニア・ボード等、企業の中でも、普段はなかなか接点がない次世代のリーダーが、同じ釜の飯を喰いながらじっくり議論する疑似体験も時には有効でしょう。

● 報酬と罰則
 例えば、コラボレーションのベストケースを表彰など、良くありますね。他には、KPIによる横串促進などもこれにあたります。例えば、業績管理に横串の指標を入れる、など、多くの会社で採用されているのではないでしょうか。

ぶっちゃけて言えば


 およそこのような手段は、他にも色々と考えられます。私は思うに、管理職同士がいかに人としてお互いを知る機会を増やすか、という目的を置いたこのような活動のほうが、むしろ、良く行われる個々人の意識改革より重要なのではないかと思います。
 XX-WAYにしろ何にしろ、結局は酒を飲み語ることで、形造られ伝承されて行ったものではないでしょうか。酒を飲まなくなった昨今においては、机上だけではない真実の共有体験を如何に効率よく作るか、といったことが重要で、それはコーポレートのマネジメントファンクションへ鍵となる部課長を参加させるとか、マイビジョンの討論会をやるとか、色々と工夫のしようがあるのではないかと思います。

マイビジョンの次は変革の旅


 最後は、長々と企業変革の途端について、述べさせていただきました。マイビジョンの次に来るもの、それは企業変革への挑戦です。
 ホワイトカラーの醍醐味と思い、皆さん、頑張ってください。
「10年シナリオ」のセッションご案内
 この連載の中で紹介した「10年後のシナリオ」を、皆さんと一緒に作成したいと思います。作成のプロセス、そして結果は、この日経ビジネスオンライン上でご紹介する予定です。内閣府副大臣の大塚耕平さんも参加(予定)して、皆さんと一緒に議論します。
  日時:2009年11月8日(日曜日) 15:00-20:00
  場所:エム・アイ・コンサルティンググループ事務所(南青山)
  人数:8名程度
  前提:事前に数冊の本を読んで来ていただく必要があります
  費用:無料
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2009年10月4日日曜日

IT 企業A 社の事例 PartⅠ ~Web マーケティングが成功しない7 つの理由~

2009 年10 月
エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社
小島美佳

■サマリー:

本書は、Web マーケティングの典型的な「陥りがちな失敗ポイント」を
ご紹介し、そのようなことが起きないために予め実施しておくべきことを
記述した。
事例としてIT 企業Aに登場していただいている。
本稿(PartⅠ)では、はじめの4 つの失敗要因について記載した:
失敗要因その一:強みをアピールできていなかった
失敗要因その二:弱みを記載してしまっていた!?
失敗要因その三:どこへ誘導したら良いのかわからない
失敗要因その四:五月雨式に新しいことを試してしまう

Web マーケティングでは、自社商品の強みをアピール、弱みは
記載しないということが重要だ。当たり前のことなのだが、実は
できてないケースが多い。

次に、営業的に最も勝率の高いはずのパスへの誘導がない
ケースが見られる。例えば、セミナーに出ていただくと勝率が
高くなるのであれば、できるだけセミナーに誘導すべきである。

最後に、成果を急がず、きちんと計画を立てて実施すべきである
ところを、忍耐力が続かずに早い段階で諦めてしまうケースが多い。

我々の経験から言うと、Web マーケティングの成果が本当の意味で
見えてくるのは半年後だ。早く成果を出すためにやみくもに投資を
すべきでは決してない。

■本稿を読まれる方へ
なかなか問い合わせが増えない…。問い合わせは増えてきたが、
商談につながらない、どうしたら良いのだろう…。

Web マーケッティングの始めた担当者の方なら、このどちらかの
悩みを抱えているだろうと思う。

本稿ではこれまでに我々がクライアントに対してご提供してきた
支援の中から、もっとも典型的な「陥りがちなポイント」をご紹介し、
そのようなことが起きないために予め実施しておくべきことを記述した。

特に我々の実績は(ソフトウエア販売やそれらと組み合わせたハードの
提供を行う)IT企業が多いため、こういった企業のビジネス特性上、
抱える典型的な課題なども踏まえて記述した。

少しでもWeb マーケティング効果の向上に寄与できれば幸いである。

なお、本稿はPartⅠとPartⅡと分けて記述した。PartⅠは主に問い
合わせの増加を主眼におき、PartⅡでは商談化について触れさせて
いただきたい。


・失敗要因 その一: 強みをアピールできていなかった
我々がお客様への支援を開始する際、まず始めに確認するのは
Web マーケティングを行いたい
①サービスや商品のターゲット顧客
②ターゲット顧客が抱える課題
③ターゲット顧客に訴求したいメッセージ
である。

多くの場合、これがWeb サイトへ反映されていないことが多い。
どのようなメッセージを打ち出すべきか、本当は、わかっていることが
多く、この宝の持ち腐れが起こっているケースが多いのだ。

-小島:
このサイトはどのような人をターゲットにして構築されたものですか?
つまり、誰を意識して作成されたものでしょう?
-担当者:
それは経営者ですね。やはり営業的にも上位者が出てくると意思決定が
早く済むことが多いんですよ。
-小島:
そうなのですね。では、このサイトに経営者が訪れたとして、何か
惹かれるものがあると思いますか?全体的に商品カタログのような
感じになっていますが…
-担当者:
いや、これは当社製品の内容がわかるような事例や内容をたくさん
盛り込んでいるので、これは外せません
-小島:
なるほど。ところで、御社の顧客であるX 社様は、なぜ「御社の商品を
選んだ」とヒアリングの際、おっしゃっていましたっけ?
-担当者:
それは、コスト削減につながるから、ですね。他社と比較した際に、
最も評価されたんだと思います
-小島:
そうですか。ただ、そのようなメッセージは今のサイトのどこにも
書いてないように見えるのですけど…
-担当者:
…確かにそうですね

IT を始めとするサービス商材であれば、なおのこと「わかりやすい」
メッセージの発信が重要となる。少々大げさな話になるが、初めて
eコマースが浸透した際に最も売れた商品は「本」であったといわれる。

今では、おなじみのamazon.com であるが、「本」が最も適切であった
理由は、何が届くのか「わかりやすく」、「信頼性」が高かったからだ。

特定の本をオーダーして新聞紙が送られてくる可能性は低い。
ごく普通に考えて、やはり「わかりづらい」ものはインターネットで
買おうとは思わない。

ソフトウエアを始めとするIT 商材やハード機器の場合、それが
「どのようにメリットがあるのか?」をわかりやすく訴求することに
エネルギーを注ぐのがよい。

もし、御社のサイトの問い合わせ件数が少ないようであれば、
是非ともメッセージを再考することを推奨する。

・失敗要因 その二:弱みを記載してしまっていた!?
とかく、IT 企業の場合には他社とのスペック比較表を作成し、
それをもとに顧客と議論することが多い。それもあってか、
Web サイトでもスペック表が掲載されている場面をよく見る。

しかし、特に「わかりやすいパッケージ売り」を行っていないIT 企業の
場合には、むしろマイナス影響となることが多い。

仮に、御社が提供するソフトウエアやハード機器の「特別な機能が
最も大きな差別化要因」になっていると感じている場合には、
それはスペック表ではない形で宣伝すべきである。
(例えば、「マニュアルなしでも使える」ほど機能がシンプルに
できているのであれば、それを打ち出すべきだ)。

逆に、そうではない場合には記載する必要はなく、別のアピール
ポイントで攻めるほうがよい。

-小島:
これまで、営業の場面で商談が前に進まない、あるいは失注した
ケースについて教えてもらえますか?
-担当者:
よくあるのが、機能の細かい議論になってしまうことですね。
担当者レベルで話してスペックの話になったときは、ダメです。
「やっぱりこういう機能もほしい」「この業務が変わってしまうのは
ちょっとなぁ…」という議論になってしまい、結局カスタマイズが
必要になるので、コスト高。それを稟議にあげると経営から
「この金額はなんだ!?」となってしまうパターンですね
-小島:
そうなのですね。そうすると、あまり細かいスペックの話に持ち込まず、
うまく経営からアプローチしてコンセプトの説明だけで決めてもらうのが
一番良い、と。
-担当者:
そうですね。やはり、最初にデモ画面などを見せてしまったら、
「わかりづらい!」と言われてアウトです。当社の製品の場合は、
きちんとした管理ができることが強みで、その分デザインなどは
あまり良くないので…。
-小島:
そうなんですか?では、なぜWeb サイトには「画面デモを見る」
というボタンがあるんですか?
-担当者:
…確かにそうですね

わざわざWeb サイトで自社製品の悪いところを宣伝する必要は
ないのだ。この企業の例で、仮に商談の段階に入ったのち、
顧客からスペック表を求められたとしよう。

しかし、顧客はどの商材も万能ではないことを知っている。
そこまで期待する顧客はいないのだ。

彼らが気にしているのは「自分たちが抱えている課題を
解決してくれるか?」であり、それができる場合には、最終的な
弱みにフォーカスは当たらないはずだ。

強みにライトを当て、弱みには当たらないように工夫することは
大変に重要なことである。

・失敗要因 その三:どこへ誘導したいのかわからない
さて、どのような内容を盛り込むべきかを考えた後は、どのような
パスを通して最終的にお問い合わせにつなげたいのか、という点が
重要である。

それも「ただの問い合わせ」ではなく、「購買につながりやすい
問い合わせ」にしたい。では、「購買につながりやすい問い合わせ」
とはどういうものだろう。

これも、まずはIT 企業A 社でのやりとりを先に読んでいただくのが
わかりやすいだろう。

-小島:
 Web マーケティングを行う上で最も課題となっているのは
どういうものですか?
-担当者:
断然問い合わせ件数の足りなさです。これまでにいろいろな策を
講じているので、サイトへの訪問者数はかなり増えてきているのですが、
問い合わせにつながりません
-小島:
なるほど。では、ちょっとお聞きしたいのですが、これまでの営業に
おいて、最も勝率の高いアプローチってどのようなものですか?
例えば、セミナーにきていただくと勝率が高い、テレアポの後に
ある情報を提供する勝率が高い、などです
-担当者:
それだと診断ですね。営業が先方に伺ってチェックリストを使って
簡単な診断を行うのですが、それをやるととても満足度が高いのです。
これは自信ありますよ
-小島:
そうなんですか?では、Web サイトで顧客にそれを埋めてもらう工夫が
できるとよいということですね
-担当者:
 そうですね。今は、サイトでそれができるようにしています
-小島:
なるほど…。しかし、なぜサイトで診断をする前に顧客情報を
入力してから、というプロセスがないのでしょうか。これだとアプローチ
できませんよね。それから、診断をやってほしいのであれば、
なぜWeb サイトの上のほうでもっとアピールしないんですか?
ボタンも大きくしたほうがよいと思います
-担当者:
…確かにそうですね

この手の誘導ができていない事例は、IT 企業の特性に限らず散見される。
①顧客がほしいと思う情報を与え、
②しかし、それを手に入れるためには自社の情報を入力しなければならず、
③従ってコンタクト情報を入手できる
ということがWeb マーケティングの基本だ。

さらに、最も勝率の高いパスを通ってもらいたい(事例でいうと
「診断を受ける」ということ)。

これが営業ではなく、Web サイトでできるなら、それほど営業にとって
楽な話はない。

ちなみに、これまでの我々の経験でいうと、IT サービスの場合の
勝率の高いパスとして、セミナーへの参加(有料、無料含む)、
診断の実施、投資対効果のシミュレーションなどが挙げられる。

また、クライド系のSaaS ソリューションの場合には、期間限定の
アカウント開設、というのが勝率向上に役立っていると言えるだろう。

・失敗要因 その四:五月雨式に新しいことを試してしまう
Web マーケティングを実施する前には、どのようなパスを通すのか、
何にどの程度のコストをかけるのか、どの程度の効果を期待するのか、
などを決定し、きちんと計画をしてから始めることが重要である。

しかし、なかなかこれが実現できていないケースが多く、
担当者の皆さんは頭を悩ませておられる。

-小島: 
今回のWeb マーケティングにおいて目標としている数字は
ありますか?
-担当者: 
月間のお問い合わせ数が50 件というのが理想ですね。
-小島: 
なるほど、Web からきた案件の商談化率や、最終売上
目標などはあるのですか?
-担当者:
 それは今の段階では、ありません
-小島:
 では、経営からの期待は、とにもかくにも「問い合わせ」数の
向上である、と。
-担当者:
 はい。とにかく問い合わせ数を増やせと言われています。
-小島:
なるほど…。できれば商談化までを見たい気がしますが、
まずは良いでしょう。それで、経営の現段階での評価はどういうものですか?
-担当者:
いや、もうそれが厳しくてですね。早く成果を出せというプレッシャーが
すごいんです。なかなか成果が出てこないもんだから、サイトの
文言などにも口を出してくるんですよ…。もう、報告の時期がくるたびにため息です
-小島: 
お気持ちはよくわかります。それで、どのように対応して
いらっしゃるのですか?
-担当者:
成果がでないとお金をかけろ、と言われます。そうすると、少しは
効果が上がります。しかし、その効果がなくなってくると、もとにもどる
ような感じなのですよね。そのうち「もうやめたほうがいいのでは?」
という話にもなってきそうで
-小島: 
なるほど。もともとの計画として、では「いつまで」に問い合わせ50 件を
獲得できるようになるのか、という点はあまり議論がされなかった
ということでしょうか?
-担当者: 
はい。とにかくがむしゃらにやったという感じですね
-小島: 
そうすると極端な話、経営からすれば、サイトを構築したと同時に
問い合わせが集まってくると思っている可能性もあるということですね…
-担当者: 
確かにそうですね…

この図は、以前に当社が作成した別の研究レポートからの抜粋であるが、
重要なポイントなので再掲させていただきたい。

Web マーケティングは社内における注目も高い。効果がでなければ
ネガティブな意味でマネジメントの関心事となってしまう。

方々から「ああしろ、こうしろ」との指示が多くなり、チームメンバーの
士気が下がり、施策そのものに前向きなアイディアや活動が
なくなったケースも存在する。(この例もIT 企業のお客様であった)
我々の経験だと、Web サイトの構築が完了してから実際に手ごたえの
ある効果が出てくるまで、半年程度は見ておいたほうがよい。

この手の取り組みは、実際のところは地味なPDCA をひたすら回す
ということであり、それ以外に大きな効果を発揮することはできない。

昨今の経済事情から、経営から投資の回収を早い段階で迫られる
ケースも多く、ご担当者の皆さんの苦労は(著者自身も経営からの
プレッシャーの中でWeb マーケッティングを実施する身であるため)
よく理解できる。が、こればかりは魔法の方法というものは存在しない。

積み重ねがあるからこそ、他社がすぐに追随できない状況が作れる
というものだと感じる。

PartⅡでは、商談につなげる際にA 社がぶつかった3 つの壁について
ご紹介する。

■著者紹介
慶應義塾大学を卒業。アクセンチュアに入社し、事業開発や営業分野
を中心とした戦略、プロセス、組織、人材の計画策定から改革支援まで、
数々のコンサルティング・プロジェクトを遂行。その後、エム・アイ・
コンサルティング・グループの立上げに参画し、自ら事業開発、営業を
展開する。現在は、海外における営業・マーケティングノウハウを日本
国内に展開する各種活動に従事。企業に対するコンサルティング支援を
する一方、営業トレーニングの講師としても活躍している。
小島美佳


<<お問合せ先>>
お問合せURL:http://salesroi.jp/webmarketing/contact.html
TEL:03-3500-4420
E-Mail:wakamatsu@micg.jp
担当者:若松、花田