2009年10月4日日曜日

IT 企業A 社の事例 PartⅠ ~Web マーケティングが成功しない7 つの理由~

2009 年10 月
エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社
小島美佳

■サマリー:

本書は、Web マーケティングの典型的な「陥りがちな失敗ポイント」を
ご紹介し、そのようなことが起きないために予め実施しておくべきことを
記述した。
事例としてIT 企業Aに登場していただいている。
本稿(PartⅠ)では、はじめの4 つの失敗要因について記載した:
失敗要因その一:強みをアピールできていなかった
失敗要因その二:弱みを記載してしまっていた!?
失敗要因その三:どこへ誘導したら良いのかわからない
失敗要因その四:五月雨式に新しいことを試してしまう

Web マーケティングでは、自社商品の強みをアピール、弱みは
記載しないということが重要だ。当たり前のことなのだが、実は
できてないケースが多い。

次に、営業的に最も勝率の高いはずのパスへの誘導がない
ケースが見られる。例えば、セミナーに出ていただくと勝率が
高くなるのであれば、できるだけセミナーに誘導すべきである。

最後に、成果を急がず、きちんと計画を立てて実施すべきである
ところを、忍耐力が続かずに早い段階で諦めてしまうケースが多い。

我々の経験から言うと、Web マーケティングの成果が本当の意味で
見えてくるのは半年後だ。早く成果を出すためにやみくもに投資を
すべきでは決してない。

■本稿を読まれる方へ
なかなか問い合わせが増えない…。問い合わせは増えてきたが、
商談につながらない、どうしたら良いのだろう…。

Web マーケッティングの始めた担当者の方なら、このどちらかの
悩みを抱えているだろうと思う。

本稿ではこれまでに我々がクライアントに対してご提供してきた
支援の中から、もっとも典型的な「陥りがちなポイント」をご紹介し、
そのようなことが起きないために予め実施しておくべきことを記述した。

特に我々の実績は(ソフトウエア販売やそれらと組み合わせたハードの
提供を行う)IT企業が多いため、こういった企業のビジネス特性上、
抱える典型的な課題なども踏まえて記述した。

少しでもWeb マーケティング効果の向上に寄与できれば幸いである。

なお、本稿はPartⅠとPartⅡと分けて記述した。PartⅠは主に問い
合わせの増加を主眼におき、PartⅡでは商談化について触れさせて
いただきたい。


・失敗要因 その一: 強みをアピールできていなかった
我々がお客様への支援を開始する際、まず始めに確認するのは
Web マーケティングを行いたい
①サービスや商品のターゲット顧客
②ターゲット顧客が抱える課題
③ターゲット顧客に訴求したいメッセージ
である。

多くの場合、これがWeb サイトへ反映されていないことが多い。
どのようなメッセージを打ち出すべきか、本当は、わかっていることが
多く、この宝の持ち腐れが起こっているケースが多いのだ。

-小島:
このサイトはどのような人をターゲットにして構築されたものですか?
つまり、誰を意識して作成されたものでしょう?
-担当者:
それは経営者ですね。やはり営業的にも上位者が出てくると意思決定が
早く済むことが多いんですよ。
-小島:
そうなのですね。では、このサイトに経営者が訪れたとして、何か
惹かれるものがあると思いますか?全体的に商品カタログのような
感じになっていますが…
-担当者:
いや、これは当社製品の内容がわかるような事例や内容をたくさん
盛り込んでいるので、これは外せません
-小島:
なるほど。ところで、御社の顧客であるX 社様は、なぜ「御社の商品を
選んだ」とヒアリングの際、おっしゃっていましたっけ?
-担当者:
それは、コスト削減につながるから、ですね。他社と比較した際に、
最も評価されたんだと思います
-小島:
そうですか。ただ、そのようなメッセージは今のサイトのどこにも
書いてないように見えるのですけど…
-担当者:
…確かにそうですね

IT を始めとするサービス商材であれば、なおのこと「わかりやすい」
メッセージの発信が重要となる。少々大げさな話になるが、初めて
eコマースが浸透した際に最も売れた商品は「本」であったといわれる。

今では、おなじみのamazon.com であるが、「本」が最も適切であった
理由は、何が届くのか「わかりやすく」、「信頼性」が高かったからだ。

特定の本をオーダーして新聞紙が送られてくる可能性は低い。
ごく普通に考えて、やはり「わかりづらい」ものはインターネットで
買おうとは思わない。

ソフトウエアを始めとするIT 商材やハード機器の場合、それが
「どのようにメリットがあるのか?」をわかりやすく訴求することに
エネルギーを注ぐのがよい。

もし、御社のサイトの問い合わせ件数が少ないようであれば、
是非ともメッセージを再考することを推奨する。

・失敗要因 その二:弱みを記載してしまっていた!?
とかく、IT 企業の場合には他社とのスペック比較表を作成し、
それをもとに顧客と議論することが多い。それもあってか、
Web サイトでもスペック表が掲載されている場面をよく見る。

しかし、特に「わかりやすいパッケージ売り」を行っていないIT 企業の
場合には、むしろマイナス影響となることが多い。

仮に、御社が提供するソフトウエアやハード機器の「特別な機能が
最も大きな差別化要因」になっていると感じている場合には、
それはスペック表ではない形で宣伝すべきである。
(例えば、「マニュアルなしでも使える」ほど機能がシンプルに
できているのであれば、それを打ち出すべきだ)。

逆に、そうではない場合には記載する必要はなく、別のアピール
ポイントで攻めるほうがよい。

-小島:
これまで、営業の場面で商談が前に進まない、あるいは失注した
ケースについて教えてもらえますか?
-担当者:
よくあるのが、機能の細かい議論になってしまうことですね。
担当者レベルで話してスペックの話になったときは、ダメです。
「やっぱりこういう機能もほしい」「この業務が変わってしまうのは
ちょっとなぁ…」という議論になってしまい、結局カスタマイズが
必要になるので、コスト高。それを稟議にあげると経営から
「この金額はなんだ!?」となってしまうパターンですね
-小島:
そうなのですね。そうすると、あまり細かいスペックの話に持ち込まず、
うまく経営からアプローチしてコンセプトの説明だけで決めてもらうのが
一番良い、と。
-担当者:
そうですね。やはり、最初にデモ画面などを見せてしまったら、
「わかりづらい!」と言われてアウトです。当社の製品の場合は、
きちんとした管理ができることが強みで、その分デザインなどは
あまり良くないので…。
-小島:
そうなんですか?では、なぜWeb サイトには「画面デモを見る」
というボタンがあるんですか?
-担当者:
…確かにそうですね

わざわざWeb サイトで自社製品の悪いところを宣伝する必要は
ないのだ。この企業の例で、仮に商談の段階に入ったのち、
顧客からスペック表を求められたとしよう。

しかし、顧客はどの商材も万能ではないことを知っている。
そこまで期待する顧客はいないのだ。

彼らが気にしているのは「自分たちが抱えている課題を
解決してくれるか?」であり、それができる場合には、最終的な
弱みにフォーカスは当たらないはずだ。

強みにライトを当て、弱みには当たらないように工夫することは
大変に重要なことである。

・失敗要因 その三:どこへ誘導したいのかわからない
さて、どのような内容を盛り込むべきかを考えた後は、どのような
パスを通して最終的にお問い合わせにつなげたいのか、という点が
重要である。

それも「ただの問い合わせ」ではなく、「購買につながりやすい
問い合わせ」にしたい。では、「購買につながりやすい問い合わせ」
とはどういうものだろう。

これも、まずはIT 企業A 社でのやりとりを先に読んでいただくのが
わかりやすいだろう。

-小島:
 Web マーケティングを行う上で最も課題となっているのは
どういうものですか?
-担当者:
断然問い合わせ件数の足りなさです。これまでにいろいろな策を
講じているので、サイトへの訪問者数はかなり増えてきているのですが、
問い合わせにつながりません
-小島:
なるほど。では、ちょっとお聞きしたいのですが、これまでの営業に
おいて、最も勝率の高いアプローチってどのようなものですか?
例えば、セミナーにきていただくと勝率が高い、テレアポの後に
ある情報を提供する勝率が高い、などです
-担当者:
それだと診断ですね。営業が先方に伺ってチェックリストを使って
簡単な診断を行うのですが、それをやるととても満足度が高いのです。
これは自信ありますよ
-小島:
そうなんですか?では、Web サイトで顧客にそれを埋めてもらう工夫が
できるとよいということですね
-担当者:
 そうですね。今は、サイトでそれができるようにしています
-小島:
なるほど…。しかし、なぜサイトで診断をする前に顧客情報を
入力してから、というプロセスがないのでしょうか。これだとアプローチ
できませんよね。それから、診断をやってほしいのであれば、
なぜWeb サイトの上のほうでもっとアピールしないんですか?
ボタンも大きくしたほうがよいと思います
-担当者:
…確かにそうですね

この手の誘導ができていない事例は、IT 企業の特性に限らず散見される。
①顧客がほしいと思う情報を与え、
②しかし、それを手に入れるためには自社の情報を入力しなければならず、
③従ってコンタクト情報を入手できる
ということがWeb マーケティングの基本だ。

さらに、最も勝率の高いパスを通ってもらいたい(事例でいうと
「診断を受ける」ということ)。

これが営業ではなく、Web サイトでできるなら、それほど営業にとって
楽な話はない。

ちなみに、これまでの我々の経験でいうと、IT サービスの場合の
勝率の高いパスとして、セミナーへの参加(有料、無料含む)、
診断の実施、投資対効果のシミュレーションなどが挙げられる。

また、クライド系のSaaS ソリューションの場合には、期間限定の
アカウント開設、というのが勝率向上に役立っていると言えるだろう。

・失敗要因 その四:五月雨式に新しいことを試してしまう
Web マーケティングを実施する前には、どのようなパスを通すのか、
何にどの程度のコストをかけるのか、どの程度の効果を期待するのか、
などを決定し、きちんと計画をしてから始めることが重要である。

しかし、なかなかこれが実現できていないケースが多く、
担当者の皆さんは頭を悩ませておられる。

-小島: 
今回のWeb マーケティングにおいて目標としている数字は
ありますか?
-担当者: 
月間のお問い合わせ数が50 件というのが理想ですね。
-小島: 
なるほど、Web からきた案件の商談化率や、最終売上
目標などはあるのですか?
-担当者:
 それは今の段階では、ありません
-小島:
 では、経営からの期待は、とにもかくにも「問い合わせ」数の
向上である、と。
-担当者:
 はい。とにかく問い合わせ数を増やせと言われています。
-小島:
なるほど…。できれば商談化までを見たい気がしますが、
まずは良いでしょう。それで、経営の現段階での評価はどういうものですか?
-担当者:
いや、もうそれが厳しくてですね。早く成果を出せというプレッシャーが
すごいんです。なかなか成果が出てこないもんだから、サイトの
文言などにも口を出してくるんですよ…。もう、報告の時期がくるたびにため息です
-小島: 
お気持ちはよくわかります。それで、どのように対応して
いらっしゃるのですか?
-担当者:
成果がでないとお金をかけろ、と言われます。そうすると、少しは
効果が上がります。しかし、その効果がなくなってくると、もとにもどる
ような感じなのですよね。そのうち「もうやめたほうがいいのでは?」
という話にもなってきそうで
-小島: 
なるほど。もともとの計画として、では「いつまで」に問い合わせ50 件を
獲得できるようになるのか、という点はあまり議論がされなかった
ということでしょうか?
-担当者: 
はい。とにかくがむしゃらにやったという感じですね
-小島: 
そうすると極端な話、経営からすれば、サイトを構築したと同時に
問い合わせが集まってくると思っている可能性もあるということですね…
-担当者: 
確かにそうですね…

この図は、以前に当社が作成した別の研究レポートからの抜粋であるが、
重要なポイントなので再掲させていただきたい。

Web マーケティングは社内における注目も高い。効果がでなければ
ネガティブな意味でマネジメントの関心事となってしまう。

方々から「ああしろ、こうしろ」との指示が多くなり、チームメンバーの
士気が下がり、施策そのものに前向きなアイディアや活動が
なくなったケースも存在する。(この例もIT 企業のお客様であった)
我々の経験だと、Web サイトの構築が完了してから実際に手ごたえの
ある効果が出てくるまで、半年程度は見ておいたほうがよい。

この手の取り組みは、実際のところは地味なPDCA をひたすら回す
ということであり、それ以外に大きな効果を発揮することはできない。

昨今の経済事情から、経営から投資の回収を早い段階で迫られる
ケースも多く、ご担当者の皆さんの苦労は(著者自身も経営からの
プレッシャーの中でWeb マーケッティングを実施する身であるため)
よく理解できる。が、こればかりは魔法の方法というものは存在しない。

積み重ねがあるからこそ、他社がすぐに追随できない状況が作れる
というものだと感じる。

PartⅡでは、商談につなげる際にA 社がぶつかった3 つの壁について
ご紹介する。

■著者紹介
慶應義塾大学を卒業。アクセンチュアに入社し、事業開発や営業分野
を中心とした戦略、プロセス、組織、人材の計画策定から改革支援まで、
数々のコンサルティング・プロジェクトを遂行。その後、エム・アイ・
コンサルティング・グループの立上げに参画し、自ら事業開発、営業を
展開する。現在は、海外における営業・マーケティングノウハウを日本
国内に展開する各種活動に従事。企業に対するコンサルティング支援を
する一方、営業トレーニングの講師としても活躍している。
小島美佳


<<お問合せ先>>
お問合せURL:http://salesroi.jp/webmarketing/contact.html
TEL:03-3500-4420
E-Mail:wakamatsu@micg.jp
担当者:若松、花田


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