2011年10月18日火曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

第4回:あるべき営業活動=案件創出型営業力の強化に向けて
エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩


 
これまでのコラムでは、「自社の市場・顧客の求める根源的ニーズを見定め、このニーズに訴求する自社の商品・サービスの提供価値(=ウリ)を明確にすること」、および「ターゲットとする市場・顧客セグメントの特性、営業プロセスの特性を考慮して営業チャネルの最適化を図ること」を述べてきた。これはすなわち営業改革の大前提となる「営業戦略」を策定することに他ならない。これを図示すると以下のように整理できる。
今後のコラムにおいては、この営業戦略を前提とした、営業活動そのものに着目した営業改革のポイントについて述べていきたい。









  昨今の技術の進展や情報化の波によってもたらされる、商品・サービスの機能自体による差別化の困難さ、ひいては不毛な低価格競争の罠に陥ることを回避するために、前回は、営業改革の


<顧客の購買プロセスを考える>

営業改革を通じて実現すべき「あるべき営業活動」とはどのような姿であろうか。

顧客の立場に立った購買プロセスを考えてみると、大まかには次のような段階を経るのではないだろうか。

1.漠然とした問題意識:「売上がだんだん低下してきている」
2.明快な課題認識:「若手~中堅営業マンの生産性向上が不可欠」
3.ソリューション定義:「営業事務のIT化(自動化・省力化)による間接業務負荷軽減」
4.調達仕様定義:「『営業事務IT化』に関する詳細仕様の定義と入札依頼(RFP)」
5.選定・契約:「ベンダーからの提案評価、選定、契約」

非常に簡単な例ではあるが、イメージは持っていただけるであろう。さて、ここで着目していただきたい点がいくつかある。









<営業活動を展開する上での攻めどころ>

まずは4⇒5(「調達仕様定義」→「選定・契約」)である。この段階では、既に調達仕様が確定してしまっている。例え、自社製品の最も大きな強みが「顧客情報の統合管理」や「営業マンの活動支援・管理」であったとしても、「営業事務のIT化」が仕様である以上、これ以外の強みは強みではないし、場合によっては余計なコストアップ要因でしかなくなる。「顧客管理のやり方や活動管理の工夫でも生産性向上は実現可能」と息巻いたところで、後の祭りである。
このように、相手の土俵での勝負という制約を受けざるを得なくなることが、「入札依頼(RFP)が出てから動くのでは勝率は低い」と言われるひとつの要因である。

これを踏まえると、2⇒3(「明快な課題認識」→「ソリューション定義」)の段階で食い込むことがひとつのポイントである。これであれば、上記のように自社の強みを生かして、「営業マンの生産性向上を志向した顧客管理・活動管理の強化」といったように、そのソリューションに合理性・妥当性があるのであれば、案件のテーマを変えて、自社に有利な条件をベースに提案していくアプローチも可能となる。

更に言えば、12(「漠然とした問題意識」→「明快な課題認識」)への展開でも攻略すべき余地はある。「売上低下」に関して、「若手~中堅営業マンの生産性低下」がその本質的な要因なのか、また、仮に「生産性低下」が要因だとしても、その対応策が「IT化」であるべきなのか。
もし自社が教育研修会社なら「営業マンのスキルの問題⇒教育研修の充実」と言うだろうし、広告代理店であれば「ブランド力の低下⇒広告戦略再構築とこれに沿った新広告制作」、納入業者であれば「商品ラインナップの魅力度低下⇒納入商品の拡充」等々、より上流からの営業であればあるほど、様々な切り口での営業機会=案件が広がるのである。

<「案件創出型営業」と「案件マネジメント型営業」>

これらを踏まえると、1~3(「漠然とした問題意識」→「ソリューション定義」)までの顧客の漠然とした曖昧なニーズや問題意識から課題を明確化し、ソリューション(=案件)を定義するまでのプロセスに対する営業活動を「案件創出型営業」、4~5(「調達使用定義」→「選定・契約」)までの案件が明確化されニーズや仕様が明確な段階において、競合他社に比して優位性を確保し、いかにこの案件を獲得するかという営業活動を「案件マネジメント型営業」とに分類することができる。

そして、多くの企業は、「案件創出型営業」の能力を付けたいという意向を強く持っているようである。(もちろん「案件マネジメント型営業」においても課題・論点は多いし、この部分で改善すべき事項を抱えている企業が多いのが実態ではあるが)


<あるべき営業活動 ~ 案件創出型営業力の強化に向けて>

では、「案件創出型営業」とは何か、もう一歩踏み込んでみると、
·     戦略的に顧客企業との強固で親密なリレーションを創り、
·     顧客の戦略課題(根源的ニーズ)に合致した付加価値ソリューションを顧客と共に創り、
·     それを顧客内で正式案件化し、競争を排除したまま(または競争上の優位性あるポジションを維持したまま)に案件を獲得するという顧客との共創関係に基づき案件を構築・獲得するプロセス
であると考える。

「案件創出型営業」における初期段階で、顧客側もまだ漠然とした問題意識しか持っていない段階である。この段階から、キーマンとざっくばらんに広く顧客企業の経営課題を語り合い、その上で、自社の商品・サービスの提供価値をもってその経営課題を解決するためのソリューションを構築するアプローチ・能力が必要なのである。つまり、「深い顧客理解能力」が必要である。

そして、顧客の理解(顧客の根源的ニーズの把握)の次には、その解決策として自社商品・サービスの価値訴求・提案へと展開させることが必要である。その前提としては、営業戦略の最初のステップである「市場・顧客の求める根源的ニーズを見極め、このニーズに訴求する自社の商品・サービスの提供価値を明確にすること」が生きてくる。このように自社としての戦略の軸を明確化し、営業担当者に理解・徹底させることが、すなわち顧客理解から自社の営業案件創出への道筋・シナリオを理解・徹底させることにつながるからである。

このように自社の営業戦略を背景として、個々の営業担当者レベルでの深い顧客理解と戦略的な顧客との関係構築、これらを成しえて初めて案件創出型営業は実現できるのである。



 

2011年10月4日火曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

第3回:営業チャネルの最適化による生産性とコスト効率向上


エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩


昨今の技術の進展や情報化の波によってもたらされる、商品・サービスの機能自体による差別化の困難さ、ひいては不毛な低価格競争の罠に陥ることを回避するために、前回は、営業改革の第一歩として、自社のビジネスが顧客に対して提供する本質的な価値を定義し、その上で顧客の根源的なニーズに訴求する自社商品・サービスの「ウリ」を明確にしていくことの必要性を述べた。

営業改革の次のステップは、営業チャネルの最適化であると考える。営業チャネルの最適化は、「顧客セグメントと営業チャネルの最適化」と「営業プロセスと営業チャネルの最適化」の2つの視点が基本である。

まず「顧客セグメントと営業チャネルの最適化」について、みなさんの会社は次のような状況にないだろうか?

(1) そもそも明確な顧客セグメントという考え方がない
(2) 営業チャネルは全てが人的リソース(=高コスト化)
(3) 営業リソースの限界で、本来攻めるべき市場や顧客をカバーし切れていない
(4) 営業担当者はリレーションのある訪問しやすい顧客ばかりケアしている  など

こうした状況の中で、顧客セグメントと営業チャネルの最適化とは、概念的には以下のようなイメージになる。


<顧客セグメントと営業チャネルの最適化>










 自社にとっての重要度で顧客をセグメント化した上で(この例では、取引実績・期間などのリレーションと、将来を含めた潜在的な売上規模で、重要度を区分)、重要度の高い顧客には営業担当者によって手厚いフォローをし(B2C[注]で言えば、ロイヤルデスク/コンシェルジュ、顧客担当制営業等々が相当)、逆に相対的に重要度の低い顧客は、Web、電話、DMなどの低コストチャネルでカバーをすることで、営業担当者リソースの有効活用と、低コストチャネルによる幅広い顧客のカバレッジを実現することが、その戦略的意図である。

また、営業担当者の割り当てにおいては、経験・スキルレベルによって、担当顧客の割り当てを考慮する必要がある。既出のイメージ図で行くと、例えば、右下の象限(潜在売上規模は大きいが、未だリレーション開拓中)が最も攻めるべきターゲットであり、第一線級の営業担当者を割り当てるとか、右上の象限の現時点で既にリレーションもあり取引規模も大きい顧客は、ベテランとこれから伸びる中堅若手を割り当て、ベテランのフォローの下で大口顧客との取引経験を積ませるといった戦略的な割り当ても、営業担当者の最適配置という観点では必要な対応となる。

もうひとつの視点は「営業プロセスと営業チャネルの最適化」である。これは、営業プロセスの各段階ごとに、その特性に応じた営業チャネルを割り当てるというものである。


<営業プロセスと営業チャネルの最適化>











一般的に、全てのターゲット顧客への全ての営業プロセスを営業担当者(人的リソース)でカバーすることはコスト的にも得策ではないし、そもそもそこまで潤沢な営業担当者を保持している企業は皆無に等しいであろう。「いや、我社は全ての顧客対応は営業担当者が実施している」という企業は、本来100あるターゲット顧客のうち、目の前に見えている70とか80の顧客に対応しているだけであり、残りの潜在的ターゲットたる20-30の顧客には手をつけられていないことが多い。(B2Cであれば、店舗に来てくれる顧客だけでなく、店の外を歩いている人を来店させることが営業対象)
いずれにしても、これが新規顧客開拓に悩む企業が多いひとつの要因である。

これに対しては、前述の「顧客セグメントと営業チャネルの最適化」に通じるが、営業担当者が対応すべき顧客およびプロセスを明確化し、相対的重要度が低い顧客であったり、営業担当者が担当する必要性が乏しいプロセスを、可能な限り、Webやコールセンターで代替することが解決策となろう。

さらには、特に初期の情報収集段階におけるWebの活用度合いは非常に高まってきており、顧客利便性という観点も考慮すべき事項である。
初期段階の情報収集や競合との比較検討などによる一定の研究や絞込みは自らで実施したいという顧客や、いきなり営業担当者が出てくると面倒なので簡単にWebや電話で済ませたいといった顧客層は存在する。また、興味を持ったら24時間365日いつでも即座に情報収集したいというせっかちな顧客もいるであろう。こうした顧客からすると、営業担当者以外の顧客対応チャネルがあることは非常にありがたいし、逆に企業からしても、顧客の購買意欲が高まっているときこそ、最も確度の高い売り時であり、これを逃さないことは大事なことである。

さらには、これらの営業チャネル(顧客接点チャネル)を多様化させる際には、その対応品質と、チャネル間の情報連携が非常に大切である。
せっかくWebや電話で問い合わせてきた新規顧客情報が営業担当者に引き継がれない・放置されているというもったいない話は結構よくある。また、同じ内容を何度も説明することなく、Webで問い合わせした内容は確実にコールセンターに引き継がれ、即座に必要な情報をきちんと提供してくれるなどの一貫性のある対応は、顔を合わせないチャネルなだけに余計に大切であるし、それが初期段階における顧客への企業イメージとして確立・固定化されるからである。

今回は紙面の都合があるので基本的な考え方の記載に留めたが、営業チャネルの最適化には検討すべき論点が多い。何故なら、営業コストの多くは人件費を含む営業チャネルに係るコストであると同時に、チャネルは実際の営業活動を行う主体であり、すなわち企業の売上を担うものであるからこそ、その営業ROI(=投資対効果)が重要な経営課題になるからである。