2011年11月22日火曜日

売れない時代に売るための営業改革

6回:営業改革の成功に向けて
エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩

ITは営業改革の大事なツール>

前回のコラムで、営業プロセス標準化は営業改革の中核であることを述べたが、この標準化された営業プロセスに合わせてITを導入することも営業改革においては有効となる。

その理由のひとつには、経営レベルでの営業戦略に合致したIT化が推進できることであるし、逆にIT化により営業戦略の実現が下支えされるからである。
これまで述べてきた通り、市場・顧客戦略、商品・サービス戦略、チャネル戦略といった広義の営業戦略を策定し、これに基づき「あるべき営業活動」をデザインしたものが標準営業プロセスである。
よって、この標準営業プロセスを支えるIT化は、すなわち営業戦略という上位レベルの目的に直結する戦略的ITとして推進されることになるのである。言い換えれば、「IT導入ありき」で、戦略や現場の実態から離れたIT化による失敗という事態を回避できることになる。

ふたつ目の理由としては、IT化により「あるべき営業活動」を促進・強制するための媒介として活用できることである。
机上で定義されただけの営業プロセスを現場に根付かせることは難しい。第1回のコラムで紹介したA社事例では、営業プロセスに適合したIT化を図っており、IT活用を必須の前提とした営業マネジメントが実施されている。また、B社として紹介した事例では、「営業管理のためのSFA」ではなく、「営業に役立つSFA」を目指して成功している。
つまり、ITは、あるべき営業活動の強制ツールであると同時に、営業マンにとって役に立つツールとして利用促進を図ることで、成果をあげている。

三つ目には、IT化そのものから得られる効果の享受である。
IT化によって実現される営業活動の間接業務の自動化・省力化による効率化や、蓄積された情報の有効活用によるマネジメントや業務の品質向上・高度化は、営業そのものの生産性を高めるエンジンとなる。

<営業改革を支えるIT全体像>

営業改革を支えるITは、大きく分けて5つの領域を対象に、いかなるIT化を図るかの議論を経て構築されると想定している。
























(1) 営業マネジメント
営業管理者だけでなく営業マン自身も含めた、営業活動の進捗(熟度)や業績管理に関する情報のタイムリーな把握によるマネジメントの強化。

(2) 営業活動支援
標準営業プロセス活動に直結した営業マンの営業活動そのものの効率向上と品質向上。
また、在庫引当・受注登録などの基幹システムとの連携も自動化することによる更なる営業効率化もこの領域に含まれる。

(3) ナレッジマネジメント(営業スキル支援)
商品情報やカタログ・パンフ、提案書、売れ筋情報、事例集、トーク集等々の営業マンのスキルや知識の補完。

(4) マーケティング分析(BI
IT化によって獲得・蓄積された情報の一元的管理と多面的な分析による、マーケティング力の強化。

(5) システム基盤
IT部門の立場ではシステムの実装形態が大きなトピックとなるが、「営業改革」という切り口からは、「システム基盤による営業活動そのものの改革」が論点となる。
現在はモバイル環境の進展に伴い、社外・顧客面前でのIT活用機会は飛躍的に高まっている。さらには文字・図表だけでなく、画像やビデオなどのインターフェースも多様化している。これらの新技術を駆使することによる新たな営業スタイルを生み出せる可能性は高い。
「ユーザー要件をシステム化する」という旧来型スタイルではなく、「テクノロジーによってユーザー業務を変革する」という新たな軸でのIT化の可能性は、特に営業分野において飛躍的に高まっているのではないだろうか。


<営業改革の成功に向けて>

これまでに、今回を含めて6回にわたって営業改革の進め方やポイントになる事項に関してのコラムを掲載してきた。
まず、最初のステップとしてターゲットとする市場・顧客を見極め、これらの根源的なニーズに訴求する自社商品・サービスのウリを明確にする。そして、それを展開するための営業マンだけでなく、Web、コールセンター、DMなどを含めたチャネルを最適化する。(以上を総称して営業戦略と呼んだ)
これを前提として、あるべき営業活動を、標準営業プロセスとして定義、定着化させる。
そして、営業戦略と標準営業プロセスを推進するためのツールとしてのITを整備する。
さらには、今回は紙面の都合で割愛したが、営業戦略を最適に実行・実現しうる組織への再構築と、営業マンそのもののスキルや行動様式、営業教育・人事制度といったソフト面での拡充を図る。
こうした多岐に渡る領域での改革を図ることが営業改革の全体像となる。























一方で、これらの多岐に渡る領域すべてにおいて抜本的な改革アプローチを採ることだけが唯一の営業改革アプローチの解ではなく、初期段階で企業ごとの外部環境・内部環境の特性を把握・分析しつつ、最小の労力・期間で大きな効果を出すためにはどの領域でどのような改革にフォーカスすべきかを営業改革の実行計画として検討した上で、個別の改革の取り組みに着手することが必要である。





















最後に、営業改革を成功に導くための成功のカギを紹介して、今回のコラムのまとめとさせていただく。
みなさんの企業でも、是非とも営業改革の取り組みを行い、これを成功させ、昨今の厳しい経営環境の中での勝ち残りを図っていかれることを願っている。


¬  変革への危機感とビジョンの全社員での共有・徹底
¬  難易度の高い大きな改革であることの覚悟と投資への踏み切り
¬  効果創出までに長い時間がかかる前提での経営資源配置
¬  全社的取り組みであることを踏まえた役割・権限・体制構築
¬  トップマネジメントのコミットメントと最後までやり遂げる徹底力



2011年11月7日月曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

5回:営業プロセス標準化は営業改革の中核



<営業プロセス標準化の目的・意義>

前回のコラムでは、顧客の立場での購買プロセスの最も初期の段階である、顧客の漠然とした曖昧なニーズや問題意識から課題を明確化し、ソリューション(=案件)を定義するまでのプロセスに対する営業活動を「案件創出型営業」と定義し、この活動が最も重要であることを提起した。
この段階においては、顧客自身が経営的な大きなレベルでの課題・問題意識を感じているものの、明確なソリューションレベルでのアイデアを持ちきれていない段階であり、このような段階であるからこそ、顧客の潜在的・根源的なニーズを掘り起こして自社商品・サービスを訴求することで、自社の土俵による営業活動を展開することを可能とする機会であるからである。
もちろん、それに引き続き実施される「案件マネジメント型営業」も、提案機会を獲得した案件を確実に受注に結びつけるため大切なプロセスである。

さて、みなさんの会社では営業プロセスは標準化されているだろうか。
「営業プロセスの標準化」と言ってもいろいろな定義があるし、また各企業ごとにその導入目的、範囲、内容等は異なっているが、概ね以下のようなものであると考える。

1.  顧客との初期コンタクト (場合によっては営業計画策定)からクロージングまでの営業活動を一定の業務単位に区切り、それぞれの業務において実施すべき活動内容、および実施主体(組織)を具体的に定義
2.  その活動において取得・明確化すべき情報や作成すべき成果物などの定型フォーマットの定義
3.  これら活動を効果的・効率的に実施するためのノウハウやアドバイス、事例など参考情報
4.  さらに、これらの営業活動を効果的に管理するための管理指標や管理ポイントの定義(営業マネジメントプロセス)

これらの営業プロセス標準化の目的・意義は、主として、成約に結びつく勝ちパターンを盛り込んだ標準的な営業活動を定義・浸透させることで、営業部門全体でのスキルレベルの底上げにある。また、営業管理をする上でも、営業活動とその管理ポイントが定型化されていることで、統合的・一元的な視点から営業活動の管理が可能となる。さらには、営業活動が標準化されていることで、営業活動の自動化の推進を容易にし(営業支援システム)、営業活動の効率化の達成も図りやすくなる。

これらのようなメリットを享受できる営業プロセスの標準化は、まさに営業改革の中核となるのである。












<営業プロセス標準化における要諦>

実際には、各社の業種・業態特性、商品・サービス特性などを含む営業特性によって変動するが、上図に標準的な営業プロセスを掲載した。
このような営業プロセスの標準化を図る際には、いくつかの大事なポイントがある。

1.徹底的な顧客理解
2回のコラムにおいて、真の顧客ニーズ(=根源的な顧客ニーズ)に訴求することの重要性を説いた。特に営業プロセスの前半においては、徹底的な顧客理解を志向し、顧客の視点で顧客の立場からの情報収集を徹底的に行う必要がある。真の顧客ニーズを無視して、自社商品・サービスの優位性を訴求しても、顧客には全く響かないからである。
特に「1. アプローチ」、「2. 顧客課題明確化」においては、自社サイドの思い込みを極力排除し、徹底的に顧客の生の声を聞くという「傾聴力」、および、表面的な言葉の奥に潜む根源的な問題意識やニーズを引き出す「質問力」が大事になってくる。

2.「機能」ではなく「効果」へのフォーカス
3. ソリューション定義」や「4. 提案」においては、顧客のニーズに敵かうに訴求できるソリューションを提案する。この時に重要なのは、「機能」ではなく「効果」を訴求することである。言い換えれば、「モノ」ではなく「コト」を売るのである。
やはり第2回のコラムでは「顧客はその商品・サービス自体が欲しいわけではない。本当に欲しいのは、商品・サービスを活用することによって得られる価値を求めているのである」と記載した。


例えば、「自動車」という「モノ」が欲しいのではなく、彼女と海辺を快適にドライブする「コト」を求めているのであるし、「食料品」という「モノ」を仕入れたいわけではなく、小売店にとっての売れ筋商品を提供することで売上を向上させる「コト」を求めているのである。
この視点に立脚して、ソリューションを構築・定義していく必要があるし、最終的な「提案」においては、自社の商品・サービスの機能ではなく、徹底的な顧客にとっての効果を訴求することが必要である。

3.競合他社との差別化
みなさんの会社の営業において、どの程度競合他社のことを研究しているだろうか。筆者のこれまでの経験では、意外に競合のことを知らないケースが多いように見受けられる。
競合他社が存在しない中で営業が展開されることはあり得ない。しかも、昨今の情報化の進展、技術の進展による新規参入の増加等々、競合環境は厳しくなってきている。よって、以下に競合他社に打ち勝つかは、大きな営業活動上のポイントとなってくる。
2. 顧客課題の明確化」がなされ、「3. ソリューション定義」を行う頃には、競合他社に関する十分な情報収集を行う必要がある。その上で、提提案書作成を企画する段階においては、十分かつ明確な差別化ポイントを識別し、これを訴求した「4. 提案書」へと結び付けていくことが必要である。
こうした競合他社の情報収集や、競合との差別化戦略を盛り込んだ提案書を作成するといったことを、標準化された営業プロセスにおいては必須の活動として盛り込むようにしたい。


紙面の都合上、これら主要なポイントの紹介に留めるが、このように自社にとっての「あるべき営業活動の姿」を定義し、これをビルトインした標準営業プロセスとして定義し、浸透・定着化させることの重要性・意義は理解いただけたと思う。是非ともみなさんの会社においても、自社の営業特性にマッチした効果的な標準営業プロセスの定義に着手してはいかがだろうか。


エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩