2009年8月17日月曜日

戦略立案のプロ 世界観なき人に戦略は立てられない では、どうすればいい?

さて、いよいよ今日からが本番です。前回の最後に、課題図書として上げたもの(『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』『課題先進国日本』)は、読んでいただけましたか?あえてグローバルと技術ということで、みなさんの中で多くの方が、日頃、目にしていない、もしくは関心が薄いであろう分野を取り上げました。

科学が進歩した結果、知識や技能はより専門的な分野に細分化されました。一方で、グローバル化やICTが進展し、より多くの人々や情報が瞬時にあらゆる壁を超えて行き交う世界が実現しています。そのような現代において、凡そ全ての事柄は、その多くが、本来の分野を超えて様々なところで関連し、連動しています。

■同じ目線から先は読めない

一例をあげましょう。地方において、空港から各地域に向けてどのような頻度でバスを走らせるか、これは地域の交通問題のように思われます。したがって、充分な乗客が確保できない路線では、バスはどんどん間引きをされ、場合によっては廃止されて行きました。

ところが、地域交通の便が悪くなると、地方住民の移動が減少し、結果、住民とコミュニティとの接点が少なくなります。特に、車のような移動手段を持たない老人においては、この傾向は顕著です。コミュニティとの接点が少なくなると、老化が早まります。その結果、介護や医療にかかる地域の負担は、より大きくなります。

一方で、車による移動の利便性を求め、駐車場や道路が多く建設されていきます。そのことは、さらに地域に負担を求めます。さらには、バス路線の廃止や減少は、結果的に地域の雇用を減らし、経済をより縮小させることになります。また、交通手段の減少による人口減は、耕作放棄地の増加をもたらし、食糧自給率の低下や国土保全の問題を引き起こします。

このように考えると、地域交通の問題は実は交通だけではなく、医療や福祉、経済、あるいは農業の問題までを含んでいることが、良く判ります。そのような複合的な問題を考えると、地域交通における路線の便数を決めるためには、単に路線の採算といった狭い観点ではなく、上記のような複合的な観点で広く捉えた上で、時間軸を加え、総合的な費用対効果を判断しなければなりません。

戦略を考える上でも同様です。そのような関連性を考えると、単に自らの会社や取引先、そして属する業界を見ているだけでは不十分です。そういった意味で、いきなり業界本や証券アナリストが書いた自社のアナリストレポートに飛びつくのは愚の骨頂です。

まずは目線を上げ、相場観を養う

目線を上げ、現代そして未来に対する相場観を養うためには、どうすればよいでしょう。

答えは簡単。様々なジャンルに関して、一流の人たちが語りそして書いているものを、とにかくたくさん見て読んで、自分の頭の中でつないでいく作業を行うのです。そして、それをなるべく多様な議論に足る人たちと議論していくことにより、自ずから「相場観」が生まれて来るはずです。

かつて武士の時代に、自らの道場で型を作った修行者が、他の道場に出かけて行って稽古をつけてもらうことにより、更に腕を磨いていったようなものです。

それでは、そのような出稽古の時間を忙しい中、どのように捻出するのでしょうか? 答えは、タイムマネジメントを徹底することです。

朝、起きてから出社するまでの間、何をしていますか? 電車の中では、何をやっていますか? 昼休みの余った時間、何をしますか? 夜はどのように使いますか? 風呂の中の時間は? 自分の1日、1週間、1カ月を通してみると、驚くほどに修行のための時間が、捻出できることに気がつくはずです。

また、通り過ぎる情報で真に時間を超えた価値を持つものは、ごく一部です。しばらくの間は、新聞、雑誌、テレビのニュースやネットサーフィンなどの通り過ぎる情報に接するために使う時間は、必要最小限の範囲に留めましょう。

こうして、1日2時間、週末の時間もあわせると約20時間が捻出できるはずです。この時間を、仮に読書と議論に充てるとすれば、1冊の本を読むのに3.5時間、議論に1.5時間使うとしても、1週間に4冊の書物を読むことができます。これを1カ月続ければ、合計16冊の書物を読んだ上で議論することが出来ます。

これだけやれば、頭の中で様々な事項がつながり、時代に関する「相場観」を持つことが出来るようになると思います。

相場観を養うためには、主要な分野を一通りカバーすることが必要です。しかも、時代のトレンド的な事柄や、自社の戦略を考える上で最も影響が大きいと考えられる経済や政治といった主題に飛びついてはいけません。

まずは、世界が、そして日本がどうなるか、ということを真剣に考えてみることから始めます。対象とする分野は色々と考えられます。

例えば、エネルギー、資源、食料、農業、科学技術、宗教、文化、高齢化、金融市場、そして経済。まずは分野として何をカバーするか、出発点を定めます。そして、一つひとつの分野に、自ら木を植え育てるのです。幹はこれまでの歴史や学問に基づくしっかりした理解、そして葉の茂る部分は現在、そして未来に関するところ、ここは、より創造力の羽を伸ばし、自らの理解を拡げるところです。

1つの分野に木が1本、場合によっては2本以上、必要かもしれません。また、通常は1冊の本で1本の木を育てることが出来れば望ましいですが、場合によっては幹で1冊、葉でもう1冊が必要な場合があるかもしれません。そして最終的に、十数本の葉がこんもりと茂った木になる森が出来ると、それがあなたの相場観です。

■無料のセミナーを活用しよう

先ず書物の話をしましたが、それ以外に活用可能なものが幾つかあります。その中で、もしあなたが東京や大阪に住んでいるなら(特に東京は世界で最も良質な情報にあふれた都市であり、この優位性を活用しない手は無いでしょう)、最大に活用可能なのは各種の無料セミナーです。具体的には、以下のようなものが有ります。

日経新聞社などが催す各種シンポジウム
   
大学が行う公開講座、特に最近の東京大学をはじめ各大学が行う公開講座の充実ぶりは、目を見張るものが有ります
   
各種シンクタンクが行う公開講座、充実しているものには、RIETIや財経研究所など政府系、MRIやNRIなど民間系、その他多くあります。これは東京在住者の特権に近いかもしれません
インターネットは玉石混交だが情報の宝庫

インターネットはうまく使えば、素晴らしい情報の宝庫です。その中には、多くのテキスト情報が双方向で動いています。

しかも、質問が投げかけられるのを待ち構える、多くの専門家たちが居ます(××知恵袋など)。ちょっとした質問を投稿すると、びっくりするほど早く良質な回答が得られることに、あなたは驚くことでしょう。BLOGや大学の研究室HPなど、場合によってはオフラインでのアクセスで、より充実した議論の機会が、いともたやすく得られる可能性もあります。

良質な動画も、情報を効率よく獲得するためには大いに活用しましょう。前回も書きましたが、YouTubeでジャック・アタリのインタビューを100分見るだけで、世界や未来の見方がずいぶんと変わることも、充分にあり得ることです。

PODCASTで、参加が叶わなかった東京大学の学術俯瞰講義を見るのも良いでしょう。あるいは、英語にストレスが無いのなら、MITのNETに公開されている授業は、最新の科学世界へあなたを誘ってくれます。

■多様な人たちと議論する

いつもの議論仲間に、常に新しい議論のネタを提供して行くのも良いですが、それだけだと、固定的な概念の外に出ることができません。むしろこの期間は、いつもの仲間は止めて、なるべく多様な人たちと交わり議論するようにしましょう。

学校時代の同級生、かつての同僚、マンションの自治会、探せば沢山居るはずです。社内の著名人やネットコミュニティのオフ会も良いでしょう。

重要なのは、数が多ければよいというものではありません。「価値のある議論が出来る」人に絞り込み、ここからの議論の展開に活用をして行くのです。これは社交的でない人にとっては、少々骨が折れる作業です。ですが、自分にとってPricelessな新しい財産をつくるつもりで、頑張って取り組んで行きましょう。

■私の相場観

「相場観」に関するイメージが湧いて来たでしょうか?まだ十分に湧いてこない方に対する参考のため、私の相場観を一部抜粋して、以下に示します。

ただ、あくまでこれは私にとっての相場観であり、皆さんが単にこれを鵜呑みにするのは、意味が有りませんし、皆さんの事実解釈によっては、全く別の相場観も当然あり得ます。あくまで1つの例として、参考のために示したものであることにご留意ください。

資源とエネルギー
  1. 資源はいずれ概ね循環へ、エネルギーが課題
  2. エネルギーの主力は電気へ転換
  3. 原子力が主力だが太陽光・熱にも可能性
  4. 温暖化の影響は致命的ではないが大きい
   
宗教・文化
  1. イスラム世界は以下の要因で不安定
  ・ 人口増加に伴う貧困若年層の増加
  ・ 政治体制(王政、民主制、宗教制)
  2. インドネシアから東南アジア、インド、中近東までSMD(スーパー・メガ・デルタ)の秩序ある成長が未来にとって重要
  3. 生命科学の進歩が新たな倫理観を要求する
  ・ 再生医療
  ・ 遺伝子解析と予防医学
   
高齢化
  1. 先進国は押し並べて高齢化に向かう
  ・ アジアが牽引
  ・ 元々高いヨーロッパが続く
  ・ アメリカは最もゆっくり
  2. 日本の高齢化が世界をリードし、韓国がそれに続く
  3. 先進国の高齢化進展は、途上国との様々な利害対立をより大きくする危険性がある




0 件のコメント:

コメントを投稿