2011年12月13日火曜日

Web解析業界で優先度が高いのはデータ統合とトレーニング・教育――WAAの調査から

2011年度 Web解析業界 見通し調査報告WAA Outlook Survey Report

WAA(Web解析協会)は2011年7月13日に、業界見通し調査の報告会をWebセミナーの形式で実施した。これは、WAAがここ数年毎年実施している調査で、今回は2010年11月12日から12月10日までにWeb解析関連サイト、電子メール、イベントでの呼びかけで協力した365人の回答結果を整理して、なかでも特徴的な結果について報告がなされた。
発表された調査結果の主な内容を、2011年の調査結果(2010年末調査)だけでなく2010年の調査結果(2009年末調査)とも比較しつつここで紹介したい。調査内容は大きく分けて以下の3つのパートから成る。
  1. Web解析の現状
  2. 将来(特に2011年)の方向性や課題
  3. Web解析の組織内での優先順位や専門スキルについて
上記1と2は昨年までもほぼ似たような質問で調査してきたが、今年から3を分けて報告し、Web解析の組織的対応やスキルを中心により質的な面で掘り下げたのが特徴だといえる。

回答者についての情報

結果の報告の前に、少しだけ調査協力者のプロフィールを見てみよう。
今回の調査協力者の地理的構成をみると、米国56%、ヨーロッパ・中東・アフリカ地域が19%、カナダ14%、アジア太平洋地域8%、ラテンアメリカ3%となっている。
また、仕事の機能別で見ると「Webアナリスト」が3分の1以上、「オンラインを主とするマーケティング」が約17%、「コンサルタント」が11%となっている。


 
なお、「その他」には、財務、コンテンツ制作、マーケットリサーチ、広報、コミュニケーション、オフラインのマーケッターが含まれる。
では、調査結果の主なものを紹介していこう。

1Web解析の現状

どのようなWeb解析ソリューションを使用しているか

「大規模ベンダーのソリューションを世界的組織で複数ドメイン名にまたがって使用している」という回答が45.2%あり(2010年の調査では40%)、一番多かった。次に「無償ツール」が27%近く(同30%)、「中規模向けソリューションを複数部署、複数ドメイン名で使用」という回答が15%(同15%)で後に続く。自社作成ツールは3%未満(同4%)であった。


 
何も使用していない割合は過去3年間低下の傾向にあり(2009年調査2.7%、2010年調査1.1%)今年は0.8%であった。

61%は複数ソリューションを使用

今年から設けられた質問だが、61%の回答者が会社などの組織において複数の部署が異なるソリューションを使用しているとし、残る39%は全社で同じソリューションを使用していると回答している。
前者の大半が、複数ソリューションを併用している理由として「1つのソリューションだけでは異なる組織ニーズを満たすことができないから」と回答している。また後者の単一ソリューションと回答した多くは「Google Analyticsを使用しており費用がかからない」ことをその理由としてあげている。

ベンダーには総じて満足

現状付き合っているベンダーに対しては、おおむね満足しているという回答が多かった。7段階評価で回答者に示してもらったうち、「4. 不満でも満足でもない」とニュートラルな立場で回答したのが21%あり、それよりも不満なグループ(「1. 非常に不満」から「3. やや不満」まで)が約16%、それより満足なグループ(「5. やや満足」から「7. 非常に満足」まで)が63%という結果であった。

2将来(特に2011年)の方向性や課題

2011年のあなたにとってのチャレンジは何か

この調査の参加者の過半数はWebアナリストやオンラインを中心とするマーケティング担当者だが、これらの人たちが2011年に挑まなければならない課題は「アクションにつなげられるデータ」「分析に基づいたビジネス上の意思決定」という情報活用についての項目が上位2つに挙がった。


 
「ソーシャルメディア」が3番目に上がっている。ソーシャルメディアは2010年の調査でも話題に上っていたが、知識や事例などを収集したいという研究過程の色彩が濃かった。2011年の調査では知識をつけたい対象としては回答が減っており、より具体的な取り組みを計画または実施したうえでさらにどうすればより効果的かということに意識が進んでいるようだ。
ちなみにこの質問の回答を過去の結果と比較してみると変化が見える。2009年の調査ではリーマンショック直後という事情もあってか、「予算確保」が40%と最大のチャレンジとして挙げたが、翌2010年では27.5%で6位に落ち、2011年では15.5%で10位以内にも入らない課題となった。Web解析がプラスのROIをもたらすという認知は広まり、より質的な課題に対処しようとしているトレンドがうかがえる。

オンライン解析の予算

今年は昨年と比較して予算はどう変化するかとの質問に、「減る」と回答したのは3%未満で、43%が昨年と同じ、54%は「増える」と回答した。


 
なお、予算についての質問への回答は回答者の居住する国の経済状況を反映している可能性があるが、前述のとおり、今回の調査回答者の70%は北米(米国56%、カナダ14%)であった。日本で同様の調査をしたらこのような傾向にはならない可能性がある。

投資が何に振り向けられるか?

では投資予算は何に使われるか。2011年の投資対象として49.0%の回答を得て一位に上がったのは「外部またはサードパーティのシステムとのデータ統合」である。前述のベンダー満足度調査の回答のコメントのなかに「ベンダーへの要望として他のベンダーと協力してプロジェクトを進めてほしい」というものがあったそうだが、今後のツールベンダーやサービスベンダーのスタンスとして自社製品・サービスを提供するだけでなくユーザー企業の立場に立って行動することがこれまで以上に要求されるようになるかもしれない。
44.4%で2位にあがったのは「解析担当者のトレーニング、教育投資」である。市販のツールを使っているだけでは他社との差別化は図れず、経営上の優位性を発揮するためにはデータをどのように読み解き、どのようなアクションをとるかという人間の知恵が重要であるこという認識が広まってきたからであろうか。3位は「行動ターゲッティングや有料検索(リスティング広告など)管理のアドオンツール」で40.1%、4位は「Web解析担当者の人員増」で35.8%と続く。
2009年と2010年の調査をみると上位3項目の顔ぶれは同じだが、「データ統合」という回答はそれぞれ36.1% → 41.5%と毎年数パーセントずつ増えてきていることがわかる。一方で、Web解析担当者のトレーニングは43.4% → 42.1%、アドオンツールは41.1% → 40.3%でありどちらも過去3年間ほぼ同じ比率で推移している。


KPIの設定について

KPI(主要業績指標)については、すでに定めて使っているものと、2011年に作成して導入しようとしているものの2つに分けて質問をしている。
既定のKPIとしてトップに挙がったのは「電子メール」で75.3%がKPIを定めている。次が「ソーシャルメディア」と「Facebook」でそれぞれ39.3%、4位が「オンライン動画」37.4%、5位が「Twitter」32.9%となっている。FacebookもTwitterもソーシャルメディアだが、特に代表的なこの2サービスは切り出して別項目として尋ねている。


これから導入するKPIとして1位にあがったのは「ソーシャルメディア」が64.9%であり、上述したすでに導入したという回答と足すと100%を超える結果になっており、昨年までに導入しているもののまだ不十分でさらに追加もしくは変更することが必要と認識している企業があるものと推測される。
2位は「Facebook」と「モバイルメディア」がどちらも49.5%となっている。モバイルメディアのKPIをすでに確定させているという回答は23.7%と低いので、まさに今年がKPI設定の旬の年になる様相である。日本のデータを持っていないので正確な比較はできないが感覚的にはソーシャルメディアは日本より少しだけ進んでいて、逆にモバイルに関してはやや遅れているように思う。
もちろん、この前提として、KPIというのが単なるソーシャルメディアからのトラフィックや自社ブランド名が取り上げられた回数をカウントする程度の数値を指すのではなく、事業目的から体系的に作られ日々の業務マネジメントのなかに組み入れられている指標であることを想定している。ただし、当調査のなかでKPIの定義を詳しく定義して質問がなされているわけではないので回答者の解釈に依存する。




 

3Web解析の組織内での優先順位や専門スキルについて

どの分野のスキルをつけたいか?

どの分野で知識やスキルを向上させたいかという質問に対して最上位に上がったのが「A/Bテストおよびマルチバリエイト(多変量)テスト」であった。次に「行動分析」「モバイル解析」「プレディクティブ(予測)モデリング」と続く。
ソーシャルメディアが2010年度調査では63.4%で2位だったのに対して今年は33.9%で5位に下がっている。昨年が勉強して対応策を検討する時期だったのに対して、今年は勉強のフェーズが終わり具体的にアクションをとる時期に移行している傾向がうかがえる。




 

回答者の経験年数

あくまで回答者を母数とする集団においての比率ではあるが、Web解析経験年数が10年以上の回答者は2009年の調査時がわずか5%であったのが2010年は10%、2011年は17%と増加し、業界内に熟練者が増加してきていることがうかがえる。




 

Web解析の役割がどの部署に所属しているか?

回答者の企業・団体でWeb解析の役割がどこに属しているかを質問したところ、3分の1以上が「マーケティング」の部署であると回答した。2位が「ビジネスインテリジェンス/解析」24.9%、3位が「IT」9.9%となっている。


 
「マーケティング」部署という回答は2009年の調査では46.3%、2010年では41.2%であり2011年が34.4%と、どの年も1位でありながら比率は下がる傾向にある。一方で、上昇傾向にあるのが「ビジネスインテリジェンス/解析」を担当する部署である。2009年が10.1%、2010年が18.8%と年々増加している。他の選択肢の数や表記の影響を受けるので経年で単純比較はできないものの、マーケティング目的だけでなく、他システムからのデータも含めて広範囲かつ専門的に分析するニーズが増えている可能性がある。

                             (2011年9月9日 web担当者forum掲載)


2011年11月22日火曜日

売れない時代に売るための営業改革

6回:営業改革の成功に向けて
エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩

ITは営業改革の大事なツール>

前回のコラムで、営業プロセス標準化は営業改革の中核であることを述べたが、この標準化された営業プロセスに合わせてITを導入することも営業改革においては有効となる。

その理由のひとつには、経営レベルでの営業戦略に合致したIT化が推進できることであるし、逆にIT化により営業戦略の実現が下支えされるからである。
これまで述べてきた通り、市場・顧客戦略、商品・サービス戦略、チャネル戦略といった広義の営業戦略を策定し、これに基づき「あるべき営業活動」をデザインしたものが標準営業プロセスである。
よって、この標準営業プロセスを支えるIT化は、すなわち営業戦略という上位レベルの目的に直結する戦略的ITとして推進されることになるのである。言い換えれば、「IT導入ありき」で、戦略や現場の実態から離れたIT化による失敗という事態を回避できることになる。

ふたつ目の理由としては、IT化により「あるべき営業活動」を促進・強制するための媒介として活用できることである。
机上で定義されただけの営業プロセスを現場に根付かせることは難しい。第1回のコラムで紹介したA社事例では、営業プロセスに適合したIT化を図っており、IT活用を必須の前提とした営業マネジメントが実施されている。また、B社として紹介した事例では、「営業管理のためのSFA」ではなく、「営業に役立つSFA」を目指して成功している。
つまり、ITは、あるべき営業活動の強制ツールであると同時に、営業マンにとって役に立つツールとして利用促進を図ることで、成果をあげている。

三つ目には、IT化そのものから得られる効果の享受である。
IT化によって実現される営業活動の間接業務の自動化・省力化による効率化や、蓄積された情報の有効活用によるマネジメントや業務の品質向上・高度化は、営業そのものの生産性を高めるエンジンとなる。

<営業改革を支えるIT全体像>

営業改革を支えるITは、大きく分けて5つの領域を対象に、いかなるIT化を図るかの議論を経て構築されると想定している。
























(1) 営業マネジメント
営業管理者だけでなく営業マン自身も含めた、営業活動の進捗(熟度)や業績管理に関する情報のタイムリーな把握によるマネジメントの強化。

(2) 営業活動支援
標準営業プロセス活動に直結した営業マンの営業活動そのものの効率向上と品質向上。
また、在庫引当・受注登録などの基幹システムとの連携も自動化することによる更なる営業効率化もこの領域に含まれる。

(3) ナレッジマネジメント(営業スキル支援)
商品情報やカタログ・パンフ、提案書、売れ筋情報、事例集、トーク集等々の営業マンのスキルや知識の補完。

(4) マーケティング分析(BI
IT化によって獲得・蓄積された情報の一元的管理と多面的な分析による、マーケティング力の強化。

(5) システム基盤
IT部門の立場ではシステムの実装形態が大きなトピックとなるが、「営業改革」という切り口からは、「システム基盤による営業活動そのものの改革」が論点となる。
現在はモバイル環境の進展に伴い、社外・顧客面前でのIT活用機会は飛躍的に高まっている。さらには文字・図表だけでなく、画像やビデオなどのインターフェースも多様化している。これらの新技術を駆使することによる新たな営業スタイルを生み出せる可能性は高い。
「ユーザー要件をシステム化する」という旧来型スタイルではなく、「テクノロジーによってユーザー業務を変革する」という新たな軸でのIT化の可能性は、特に営業分野において飛躍的に高まっているのではないだろうか。


<営業改革の成功に向けて>

これまでに、今回を含めて6回にわたって営業改革の進め方やポイントになる事項に関してのコラムを掲載してきた。
まず、最初のステップとしてターゲットとする市場・顧客を見極め、これらの根源的なニーズに訴求する自社商品・サービスのウリを明確にする。そして、それを展開するための営業マンだけでなく、Web、コールセンター、DMなどを含めたチャネルを最適化する。(以上を総称して営業戦略と呼んだ)
これを前提として、あるべき営業活動を、標準営業プロセスとして定義、定着化させる。
そして、営業戦略と標準営業プロセスを推進するためのツールとしてのITを整備する。
さらには、今回は紙面の都合で割愛したが、営業戦略を最適に実行・実現しうる組織への再構築と、営業マンそのもののスキルや行動様式、営業教育・人事制度といったソフト面での拡充を図る。
こうした多岐に渡る領域での改革を図ることが営業改革の全体像となる。























一方で、これらの多岐に渡る領域すべてにおいて抜本的な改革アプローチを採ることだけが唯一の営業改革アプローチの解ではなく、初期段階で企業ごとの外部環境・内部環境の特性を把握・分析しつつ、最小の労力・期間で大きな効果を出すためにはどの領域でどのような改革にフォーカスすべきかを営業改革の実行計画として検討した上で、個別の改革の取り組みに着手することが必要である。





















最後に、営業改革を成功に導くための成功のカギを紹介して、今回のコラムのまとめとさせていただく。
みなさんの企業でも、是非とも営業改革の取り組みを行い、これを成功させ、昨今の厳しい経営環境の中での勝ち残りを図っていかれることを願っている。


¬  変革への危機感とビジョンの全社員での共有・徹底
¬  難易度の高い大きな改革であることの覚悟と投資への踏み切り
¬  効果創出までに長い時間がかかる前提での経営資源配置
¬  全社的取り組みであることを踏まえた役割・権限・体制構築
¬  トップマネジメントのコミットメントと最後までやり遂げる徹底力



2011年11月7日月曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

5回:営業プロセス標準化は営業改革の中核



<営業プロセス標準化の目的・意義>

前回のコラムでは、顧客の立場での購買プロセスの最も初期の段階である、顧客の漠然とした曖昧なニーズや問題意識から課題を明確化し、ソリューション(=案件)を定義するまでのプロセスに対する営業活動を「案件創出型営業」と定義し、この活動が最も重要であることを提起した。
この段階においては、顧客自身が経営的な大きなレベルでの課題・問題意識を感じているものの、明確なソリューションレベルでのアイデアを持ちきれていない段階であり、このような段階であるからこそ、顧客の潜在的・根源的なニーズを掘り起こして自社商品・サービスを訴求することで、自社の土俵による営業活動を展開することを可能とする機会であるからである。
もちろん、それに引き続き実施される「案件マネジメント型営業」も、提案機会を獲得した案件を確実に受注に結びつけるため大切なプロセスである。

さて、みなさんの会社では営業プロセスは標準化されているだろうか。
「営業プロセスの標準化」と言ってもいろいろな定義があるし、また各企業ごとにその導入目的、範囲、内容等は異なっているが、概ね以下のようなものであると考える。

1.  顧客との初期コンタクト (場合によっては営業計画策定)からクロージングまでの営業活動を一定の業務単位に区切り、それぞれの業務において実施すべき活動内容、および実施主体(組織)を具体的に定義
2.  その活動において取得・明確化すべき情報や作成すべき成果物などの定型フォーマットの定義
3.  これら活動を効果的・効率的に実施するためのノウハウやアドバイス、事例など参考情報
4.  さらに、これらの営業活動を効果的に管理するための管理指標や管理ポイントの定義(営業マネジメントプロセス)

これらの営業プロセス標準化の目的・意義は、主として、成約に結びつく勝ちパターンを盛り込んだ標準的な営業活動を定義・浸透させることで、営業部門全体でのスキルレベルの底上げにある。また、営業管理をする上でも、営業活動とその管理ポイントが定型化されていることで、統合的・一元的な視点から営業活動の管理が可能となる。さらには、営業活動が標準化されていることで、営業活動の自動化の推進を容易にし(営業支援システム)、営業活動の効率化の達成も図りやすくなる。

これらのようなメリットを享受できる営業プロセスの標準化は、まさに営業改革の中核となるのである。












<営業プロセス標準化における要諦>

実際には、各社の業種・業態特性、商品・サービス特性などを含む営業特性によって変動するが、上図に標準的な営業プロセスを掲載した。
このような営業プロセスの標準化を図る際には、いくつかの大事なポイントがある。

1.徹底的な顧客理解
2回のコラムにおいて、真の顧客ニーズ(=根源的な顧客ニーズ)に訴求することの重要性を説いた。特に営業プロセスの前半においては、徹底的な顧客理解を志向し、顧客の視点で顧客の立場からの情報収集を徹底的に行う必要がある。真の顧客ニーズを無視して、自社商品・サービスの優位性を訴求しても、顧客には全く響かないからである。
特に「1. アプローチ」、「2. 顧客課題明確化」においては、自社サイドの思い込みを極力排除し、徹底的に顧客の生の声を聞くという「傾聴力」、および、表面的な言葉の奥に潜む根源的な問題意識やニーズを引き出す「質問力」が大事になってくる。

2.「機能」ではなく「効果」へのフォーカス
3. ソリューション定義」や「4. 提案」においては、顧客のニーズに敵かうに訴求できるソリューションを提案する。この時に重要なのは、「機能」ではなく「効果」を訴求することである。言い換えれば、「モノ」ではなく「コト」を売るのである。
やはり第2回のコラムでは「顧客はその商品・サービス自体が欲しいわけではない。本当に欲しいのは、商品・サービスを活用することによって得られる価値を求めているのである」と記載した。


例えば、「自動車」という「モノ」が欲しいのではなく、彼女と海辺を快適にドライブする「コト」を求めているのであるし、「食料品」という「モノ」を仕入れたいわけではなく、小売店にとっての売れ筋商品を提供することで売上を向上させる「コト」を求めているのである。
この視点に立脚して、ソリューションを構築・定義していく必要があるし、最終的な「提案」においては、自社の商品・サービスの機能ではなく、徹底的な顧客にとっての効果を訴求することが必要である。

3.競合他社との差別化
みなさんの会社の営業において、どの程度競合他社のことを研究しているだろうか。筆者のこれまでの経験では、意外に競合のことを知らないケースが多いように見受けられる。
競合他社が存在しない中で営業が展開されることはあり得ない。しかも、昨今の情報化の進展、技術の進展による新規参入の増加等々、競合環境は厳しくなってきている。よって、以下に競合他社に打ち勝つかは、大きな営業活動上のポイントとなってくる。
2. 顧客課題の明確化」がなされ、「3. ソリューション定義」を行う頃には、競合他社に関する十分な情報収集を行う必要がある。その上で、提提案書作成を企画する段階においては、十分かつ明確な差別化ポイントを識別し、これを訴求した「4. 提案書」へと結び付けていくことが必要である。
こうした競合他社の情報収集や、競合との差別化戦略を盛り込んだ提案書を作成するといったことを、標準化された営業プロセスにおいては必須の活動として盛り込むようにしたい。


紙面の都合上、これら主要なポイントの紹介に留めるが、このように自社にとっての「あるべき営業活動の姿」を定義し、これをビルトインした標準営業プロセスとして定義し、浸透・定着化させることの重要性・意義は理解いただけたと思う。是非ともみなさんの会社においても、自社の営業特性にマッチした効果的な標準営業プロセスの定義に着手してはいかがだろうか。


エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩

2011年10月18日火曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

第4回:あるべき営業活動=案件創出型営業力の強化に向けて
エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩


 
これまでのコラムでは、「自社の市場・顧客の求める根源的ニーズを見定め、このニーズに訴求する自社の商品・サービスの提供価値(=ウリ)を明確にすること」、および「ターゲットとする市場・顧客セグメントの特性、営業プロセスの特性を考慮して営業チャネルの最適化を図ること」を述べてきた。これはすなわち営業改革の大前提となる「営業戦略」を策定することに他ならない。これを図示すると以下のように整理できる。
今後のコラムにおいては、この営業戦略を前提とした、営業活動そのものに着目した営業改革のポイントについて述べていきたい。









  昨今の技術の進展や情報化の波によってもたらされる、商品・サービスの機能自体による差別化の困難さ、ひいては不毛な低価格競争の罠に陥ることを回避するために、前回は、営業改革の


<顧客の購買プロセスを考える>

営業改革を通じて実現すべき「あるべき営業活動」とはどのような姿であろうか。

顧客の立場に立った購買プロセスを考えてみると、大まかには次のような段階を経るのではないだろうか。

1.漠然とした問題意識:「売上がだんだん低下してきている」
2.明快な課題認識:「若手~中堅営業マンの生産性向上が不可欠」
3.ソリューション定義:「営業事務のIT化(自動化・省力化)による間接業務負荷軽減」
4.調達仕様定義:「『営業事務IT化』に関する詳細仕様の定義と入札依頼(RFP)」
5.選定・契約:「ベンダーからの提案評価、選定、契約」

非常に簡単な例ではあるが、イメージは持っていただけるであろう。さて、ここで着目していただきたい点がいくつかある。









<営業活動を展開する上での攻めどころ>

まずは4⇒5(「調達仕様定義」→「選定・契約」)である。この段階では、既に調達仕様が確定してしまっている。例え、自社製品の最も大きな強みが「顧客情報の統合管理」や「営業マンの活動支援・管理」であったとしても、「営業事務のIT化」が仕様である以上、これ以外の強みは強みではないし、場合によっては余計なコストアップ要因でしかなくなる。「顧客管理のやり方や活動管理の工夫でも生産性向上は実現可能」と息巻いたところで、後の祭りである。
このように、相手の土俵での勝負という制約を受けざるを得なくなることが、「入札依頼(RFP)が出てから動くのでは勝率は低い」と言われるひとつの要因である。

これを踏まえると、2⇒3(「明快な課題認識」→「ソリューション定義」)の段階で食い込むことがひとつのポイントである。これであれば、上記のように自社の強みを生かして、「営業マンの生産性向上を志向した顧客管理・活動管理の強化」といったように、そのソリューションに合理性・妥当性があるのであれば、案件のテーマを変えて、自社に有利な条件をベースに提案していくアプローチも可能となる。

更に言えば、12(「漠然とした問題意識」→「明快な課題認識」)への展開でも攻略すべき余地はある。「売上低下」に関して、「若手~中堅営業マンの生産性低下」がその本質的な要因なのか、また、仮に「生産性低下」が要因だとしても、その対応策が「IT化」であるべきなのか。
もし自社が教育研修会社なら「営業マンのスキルの問題⇒教育研修の充実」と言うだろうし、広告代理店であれば「ブランド力の低下⇒広告戦略再構築とこれに沿った新広告制作」、納入業者であれば「商品ラインナップの魅力度低下⇒納入商品の拡充」等々、より上流からの営業であればあるほど、様々な切り口での営業機会=案件が広がるのである。

<「案件創出型営業」と「案件マネジメント型営業」>

これらを踏まえると、1~3(「漠然とした問題意識」→「ソリューション定義」)までの顧客の漠然とした曖昧なニーズや問題意識から課題を明確化し、ソリューション(=案件)を定義するまでのプロセスに対する営業活動を「案件創出型営業」、4~5(「調達使用定義」→「選定・契約」)までの案件が明確化されニーズや仕様が明確な段階において、競合他社に比して優位性を確保し、いかにこの案件を獲得するかという営業活動を「案件マネジメント型営業」とに分類することができる。

そして、多くの企業は、「案件創出型営業」の能力を付けたいという意向を強く持っているようである。(もちろん「案件マネジメント型営業」においても課題・論点は多いし、この部分で改善すべき事項を抱えている企業が多いのが実態ではあるが)


<あるべき営業活動 ~ 案件創出型営業力の強化に向けて>

では、「案件創出型営業」とは何か、もう一歩踏み込んでみると、
·     戦略的に顧客企業との強固で親密なリレーションを創り、
·     顧客の戦略課題(根源的ニーズ)に合致した付加価値ソリューションを顧客と共に創り、
·     それを顧客内で正式案件化し、競争を排除したまま(または競争上の優位性あるポジションを維持したまま)に案件を獲得するという顧客との共創関係に基づき案件を構築・獲得するプロセス
であると考える。

「案件創出型営業」における初期段階で、顧客側もまだ漠然とした問題意識しか持っていない段階である。この段階から、キーマンとざっくばらんに広く顧客企業の経営課題を語り合い、その上で、自社の商品・サービスの提供価値をもってその経営課題を解決するためのソリューションを構築するアプローチ・能力が必要なのである。つまり、「深い顧客理解能力」が必要である。

そして、顧客の理解(顧客の根源的ニーズの把握)の次には、その解決策として自社商品・サービスの価値訴求・提案へと展開させることが必要である。その前提としては、営業戦略の最初のステップである「市場・顧客の求める根源的ニーズを見極め、このニーズに訴求する自社の商品・サービスの提供価値を明確にすること」が生きてくる。このように自社としての戦略の軸を明確化し、営業担当者に理解・徹底させることが、すなわち顧客理解から自社の営業案件創出への道筋・シナリオを理解・徹底させることにつながるからである。

このように自社の営業戦略を背景として、個々の営業担当者レベルでの深い顧客理解と戦略的な顧客との関係構築、これらを成しえて初めて案件創出型営業は実現できるのである。



 

2011年10月4日火曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

第3回:営業チャネルの最適化による生産性とコスト効率向上


エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩


昨今の技術の進展や情報化の波によってもたらされる、商品・サービスの機能自体による差別化の困難さ、ひいては不毛な低価格競争の罠に陥ることを回避するために、前回は、営業改革の第一歩として、自社のビジネスが顧客に対して提供する本質的な価値を定義し、その上で顧客の根源的なニーズに訴求する自社商品・サービスの「ウリ」を明確にしていくことの必要性を述べた。

営業改革の次のステップは、営業チャネルの最適化であると考える。営業チャネルの最適化は、「顧客セグメントと営業チャネルの最適化」と「営業プロセスと営業チャネルの最適化」の2つの視点が基本である。

まず「顧客セグメントと営業チャネルの最適化」について、みなさんの会社は次のような状況にないだろうか?

(1) そもそも明確な顧客セグメントという考え方がない
(2) 営業チャネルは全てが人的リソース(=高コスト化)
(3) 営業リソースの限界で、本来攻めるべき市場や顧客をカバーし切れていない
(4) 営業担当者はリレーションのある訪問しやすい顧客ばかりケアしている  など

こうした状況の中で、顧客セグメントと営業チャネルの最適化とは、概念的には以下のようなイメージになる。


<顧客セグメントと営業チャネルの最適化>










 自社にとっての重要度で顧客をセグメント化した上で(この例では、取引実績・期間などのリレーションと、将来を含めた潜在的な売上規模で、重要度を区分)、重要度の高い顧客には営業担当者によって手厚いフォローをし(B2C[注]で言えば、ロイヤルデスク/コンシェルジュ、顧客担当制営業等々が相当)、逆に相対的に重要度の低い顧客は、Web、電話、DMなどの低コストチャネルでカバーをすることで、営業担当者リソースの有効活用と、低コストチャネルによる幅広い顧客のカバレッジを実現することが、その戦略的意図である。

また、営業担当者の割り当てにおいては、経験・スキルレベルによって、担当顧客の割り当てを考慮する必要がある。既出のイメージ図で行くと、例えば、右下の象限(潜在売上規模は大きいが、未だリレーション開拓中)が最も攻めるべきターゲットであり、第一線級の営業担当者を割り当てるとか、右上の象限の現時点で既にリレーションもあり取引規模も大きい顧客は、ベテランとこれから伸びる中堅若手を割り当て、ベテランのフォローの下で大口顧客との取引経験を積ませるといった戦略的な割り当ても、営業担当者の最適配置という観点では必要な対応となる。

もうひとつの視点は「営業プロセスと営業チャネルの最適化」である。これは、営業プロセスの各段階ごとに、その特性に応じた営業チャネルを割り当てるというものである。


<営業プロセスと営業チャネルの最適化>











一般的に、全てのターゲット顧客への全ての営業プロセスを営業担当者(人的リソース)でカバーすることはコスト的にも得策ではないし、そもそもそこまで潤沢な営業担当者を保持している企業は皆無に等しいであろう。「いや、我社は全ての顧客対応は営業担当者が実施している」という企業は、本来100あるターゲット顧客のうち、目の前に見えている70とか80の顧客に対応しているだけであり、残りの潜在的ターゲットたる20-30の顧客には手をつけられていないことが多い。(B2Cであれば、店舗に来てくれる顧客だけでなく、店の外を歩いている人を来店させることが営業対象)
いずれにしても、これが新規顧客開拓に悩む企業が多いひとつの要因である。

これに対しては、前述の「顧客セグメントと営業チャネルの最適化」に通じるが、営業担当者が対応すべき顧客およびプロセスを明確化し、相対的重要度が低い顧客であったり、営業担当者が担当する必要性が乏しいプロセスを、可能な限り、Webやコールセンターで代替することが解決策となろう。

さらには、特に初期の情報収集段階におけるWebの活用度合いは非常に高まってきており、顧客利便性という観点も考慮すべき事項である。
初期段階の情報収集や競合との比較検討などによる一定の研究や絞込みは自らで実施したいという顧客や、いきなり営業担当者が出てくると面倒なので簡単にWebや電話で済ませたいといった顧客層は存在する。また、興味を持ったら24時間365日いつでも即座に情報収集したいというせっかちな顧客もいるであろう。こうした顧客からすると、営業担当者以外の顧客対応チャネルがあることは非常にありがたいし、逆に企業からしても、顧客の購買意欲が高まっているときこそ、最も確度の高い売り時であり、これを逃さないことは大事なことである。

さらには、これらの営業チャネル(顧客接点チャネル)を多様化させる際には、その対応品質と、チャネル間の情報連携が非常に大切である。
せっかくWebや電話で問い合わせてきた新規顧客情報が営業担当者に引き継がれない・放置されているというもったいない話は結構よくある。また、同じ内容を何度も説明することなく、Webで問い合わせした内容は確実にコールセンターに引き継がれ、即座に必要な情報をきちんと提供してくれるなどの一貫性のある対応は、顔を合わせないチャネルなだけに余計に大切であるし、それが初期段階における顧客への企業イメージとして確立・固定化されるからである。

今回は紙面の都合があるので基本的な考え方の記載に留めたが、営業チャネルの最適化には検討すべき論点が多い。何故なら、営業コストの多くは人件費を含む営業チャネルに係るコストであると同時に、チャネルは実際の営業活動を行う主体であり、すなわち企業の売上を担うものであるからこそ、その営業ROI(=投資対効果)が重要な経営課題になるからである。