2011年4月9日土曜日

「政府が方針を全部作らないと、自分たちは動けないんです」という日本でいいんでしょうか? たくさんの読者コメントをもって内閣府に行ってきました(その2)

否定派の意見には3つのポイントがある

大上:日本の成長戦略の枠組みですが、日経ビジネスオンライン読者のコメント、屋上会議室での意見を読んでいると否定派の意見には大きく3つのポイントがあるようです。
 1つは「ビジョンはあっても、そこに至る道筋がないのではないか」あるいは「戦略的と言えるものが25%削減以外に何があるのか」というもの。それから「各員配置で頑張れといっても、それぞれの役割は何なんだ」とか、「それなりに責任を与えるとか命令を下すのは、政治の役割なんじゃないのか」というのが2点目。
 そして3つ目はちょっと切り口が違いますけれども、「成長のことはしょせん民間のことなんだから、政治はむしろそういう民間の邪魔をしないことを考えてくれ」と。こういう3つの声がありました。
 それぞれに「そうかな」と思う部分がある反面、その指摘が的を射ているならば、今まででもうまくやれていたんじゃないかと思うわけです。

NBO:大塚さんはこれらの3つのポイントについては、どのようにお考えになりますか。


ロードマップを示すだけでは物事は進まない

大塚:まず1つ目についてです。もちろん一定のロードマップをお示しする意味はあると思います。けれども、本当にロードマップ通りに粛々と物事が進むかといえば、そうではない蓋然性の方がきっと高いでしょう。
 ですから、そのときにどう対処していくか。やはり、それを成し遂げたいという熱い思い、アニマルスピリッツが大事だと思います。ただ、ロードマップを期待するご意見も理解できますので、これからさらに議論を深めていきたいと思っています。

意見を言い合える関係性を作る

大塚:2つ目のポイントには、それぞれのポジションで、どうアクションすべきかということについて、指示なり、何かミッションがあった方がいいのではないかということですね。それもよく分かります。
 これからどういうことを行っていくのが良いのかについては、政府として方向性を示していきたいと思います。しかし、先ほどのロードマップの話と同様に、示唆をさせていただいた内容通りにやっていったら、必ず物事がうまくいくわけでもないと思いますよ。

NBO:むしろロードマップ通りに運ぶ方が稀なのかもしれませんね。

大塚:そうです。問題や改善すべき点は必ず出てきます。そうした時、別の解決策や実行案があることを政府に気付かせてくれるぐらいの付加価値の高い意見を、どんどんこちらに提供していただくような関係の方がクリエイティブではないかと思います。

ロードマップを示すことと自由な成長を期待することはバランスが難しい

大塚:民間の発想や主張、力強さやアニマルスピリッツは、日本を良い方向に導いていくので、政府がとにかく邪魔をするなという3番目の意見に、私は完全に賛成です。
 今回、批判的、否定的にいろいろなコメントをいただいた方々は、いくつかのカテゴリーに分かれると思います。コメント間の整合性には合意が必要ですね。
大上二三雄氏
大上:そうですね。

大塚:例えば、自由なダイナミズムを望む意見の人たちが、同時に政府に対して「ロードマップを示せ」と要求することは論理矛盾になってしまいます。
 「自分たちはもっと指示に従いたい」あるいは「政府の方針に従ってバリバリやっていきたいので、政府は明確な方針を示してくれ」というカテゴリーの方ならば、「ロードマップを示せ」「それぞれの分野ごとのミッションを示せ」ということと連動します。
 一方、「邪魔をするな」というカテゴリーで「ロードマップを示せ」という方がいれば、それはやはり矛盾になってしまう。そうした点の整理が必要だろうなと思います。

大上:中途半端に自己矛盾するような要求を投げ掛けてしまっている方もいると。

大塚:そうだと思います。

大上:自らの手による変革を望みながら方針を待つというのは、たしかに自己矛盾ですね。先日ある業界組合で成長戦略についての議論に参加したんですが、似たような思いを抱くことがありました。
 議論では全員が、結局、選択と集中をやらなきゃいけない、我々は業界の再編をしなきゃいけないと主張するんです。ところが「では皆さん、その方向で話し合って選択と集中の案を作ってください。そうしたら私は、その案を持って当局に掛け合います」と申し上げたのですが、「それは我々ではできない」と言うんですね。「政府でそういう方針を示してくれないと、自分たちは動けない」と。
 政府の方針を待つような姿勢についてはこれからどうしていきますか。

政府の役目は触媒としての誠実な牽引力

大塚:世代の話を持ち込むのもどうかと思いますけれども、傾向的にある世代まではそういう思考パターンに慣れてしまっているということも考えられます。

大上:そうですね。価値観や思考パターンは、これまでの環境によって違いが出てきますから、世代によって見方も変わってくるのかもしれませんね。

大塚:高度成長期の世代には、そうした思考パターンがフィットしていたかもしれません。何しろ、トレンドが高度成長ですから、あえて変わったことをやる必要はありません。一方、日本のビジネスモデルが壁に直面している現在の若い世代の方が、自分たちでロードマップや戦術も考えるんだという思考になっているのではないでしょうか。

大上:一方で政府からの助言や介入があった方が良いのではないかと思うこともあります。政府の役割としては、民間に自由にやらせるところも必要ですが、経済が活性化するような外交活動には、これをスムーズに進めるためにもっと介入すべき部分もあるんじゃないかなと思いますが、いかがですか。

大塚:政府がそこにポジティブな役割を見出して、いわば触媒として経済活性化につながるような外交活動を促す余地は十分にあると思います。
 ただその時、かつてのように、既得権益とかステークホルダー優遇という思いが政府側にあってはなりません。オールジャパンとして、これから国際経済社会の中でどういうポジションを占めて、どういうパフォーマンスを実現していくんだという純粋な思い、国家戦略がなければ、触媒としての役割は果たせません。

大上:不純な動機はだめですね。以前はこういうものには必ず利権が関係している部分があったのですが、そういうのは本当にやめにしてほしいというのが国民の声です。
 今回、民主党のやる気には幕末の志士の心意気を感じるというコメントもたくさんありました。ただし、志士も後半になるとみんな、かなり権力にまみれた部分が出てきてしまう。でも前半はすごくフレッシュな意気でやっていたので、民主党もその心意気でやってもらいたいと。

大塚:大上さんがおっしゃるように、利権や私利私欲、あるいは特定の考えに拘泥することがあってはならないわけです。
 もっとも、国際経済社会の中で日本がどう立ち振る舞っていくのがベターかということについては、意見は分かれると思います。
 そこで、分かれる意見をある程度引っ張って行ったり、集約をすることが政治に求められる役割です。しかし、初期段階から方向性を政治に示して欲しい、いろいろな選択肢を示して欲しいというのは、ちょっとどうかなと思いますね。

大上:それは情けないですよね。


政治に求められるリーダーシップは取捨選択

大塚:政治ももちろん1つの考え方を示しますけれども、それに対していろいろな選択肢が、国民の皆さんや経済界から、あるいはアカデミズムの世界からどんどん出てきて、1つの意見にまとめることができれば言うことないわけです。
 ただ、そんなにシンプルに物事は進まないので、収斂できないときに取捨選択をするのが政治のリーダーシップだと思います。

NBO:おそらく、そういう考え方のフレームというか議論の進め方みたいなものが見える、政府と民間の新しい関係、コミュニケーションの形を見せてくれと言っているんじゃないのかなと、読者の意見を読んでいると思いました。

大塚:同感です。政官財、あるいは政官学財と言ってもいいかもしれませんが、公共政策の形成プロセスにおける各界のスパークが必要です。そして、最終的に何か1つ戦略や戦術を選択しなければいけないときに、政治のリーダーシップが求められるわけです。今はまさに、そういうプロセスをオールジャパンで行っていく局面だと思います。

民間からのアイデアに地方が手を挙げ国が支援する

大上:皆様からのコメントには、「環境政策」や「環境のプロモーション」にお金を使ってほしいというコメントや、無利子国債や環境対策国債などのアイデアがたくさん出ていました。
 こうした民間からのアイデアは、地方の関係者の目に留まると地方から「それをやりたい」と言ってくることがあります。そうすると実施を考えている地方を国が支援する。と、いうような流れが理想の形に思われます。
 お金は民間が負担し、やりたい気持ちは地方から高まってくる。先程、大塚さんがおっしゃったこともそうですよね。

大塚:そうですね。そうした環境技術を中心とした科学技術立国というのが国を変えていくためのひとつの道だと思います。テクノロジーとかインテリジェンスの部分で付加価値を生んでいかなければなりません。
 資源がなく、労働コストも低くならない日本にとっては、これがとても重要なことなので、今こそ本当に研究者の活躍、ビジネス界でもそういう専門性を持った方々の活躍が期待されます。

大上:行動していくことが大事だということですね。

大塚:そうだと思います。だからこそ今の政権では人材育成が日本の命運を握るととらえているわけです。今年度の予算でも人的投資の項目が8%ぐらい増えていると思います。
 もちろん人的投資にも中身がいろいろあるので、一概に科学技術ばかりに予算が配分されているわけではないのですが、これだけ大きく主要経費別の予算配分の変更が行われたことは過去に例がありません。着実にそういう方向に向けてスタートを切っているということです。

大上:戦略の最大の要素は、やっぱりお金、投資でしょう。そういう意味で投資たる予算がそこまで大きく変わっているということは、大きな戦略的な転換が実際は行われているということだと見てもいいんだと思います。
 あと投稿の中で具体的な項目に対して、これは当事者かなと思えるような人や、あるいは地方のテーマでは、自らが行動しなければいけないとあらためて自分にハッパを掛けているような地方の公務員の方など、当事者からの声が結構たくさん上がっていました。このことを私は大変うれしく思いました。
 大塚さんはどのようにご覧になりましたか。

意識が変わるだけで、雰囲気も変わる

大塚:まったく同感です。例えば、先ほどお話しした地域活性化統合事務局には、50人ぐらいの地方からの出向者がいますが、これまで地方からの出向者は単なるマンパワーになっていて、内実は組織全体として各役所の出先機関に成り下がっていました。
 そこで私が彼らに意識改革を促したのは、「本当に地域を活性化したいのならば、霞ヶ関の政策的ツールをしっかり観察し、それをどうやって地方で有効活用できるのか。そういう問題意識と熱意をもって働いて欲しい」ということでした。
 彼らの意識が変わるだけで、政策ツールは変わらなくても、パフォーマンスは変わってきます。最近、本当に雰囲気が変わってきたんですよ。人は問題意識を持ち、当事者意識をもって参加するだけでポジティブな展開や変化を生み出すことができるんです。
 ですから、皆さんが積極的に参加してくれているのは、本当にうれしいです。

大上:これまでのお話を聞いていて、「どうやったらできるか」という知恵を集め、行動していけば、物事はブレークスルーするのだとよく分かりました。「積極的に働き掛けて行こう」ということが「できない理由は聞きたくない」につながるのですね。
 また、それは副大臣が一生懸命、働いているから伝わる言葉なのでしょう。金融庁高官も、副大臣室はいつも明かりが付いていると言っていました。G7に行った翌日でさえ朝から付いていたので、自分たちもやる気になったそうです。

大塚:日本全体が頑張らなくちゃいけない時期に入っていると言えるでしょうね。無計画に働き過ぎるのはよくありませんが、やるときはやらなくてはいけません。僕自身も朝早くから夜遅くまで働いていますが、最近エレベーターで一緒になった若い職員が「副大臣の在席ランプがいつも一番最後まで付いているので、自分たちも残業していてもやる気になります」と言う言葉を掛けてくれました。
 前向きに動き続けていくことで日本は元気になるんだと思っています。

(次回は「4つの基本戦略が日本を変える」です。)


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