2011年9月20日火曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

2回:営業改革の第一歩は商品・サービス戦略から


今回の震災や原発問題の影響は、製品・部品調達問題、電力問題、物流問題、消費の停滞・意欲の冷え込み、復興に伴う財政問題等々、日本全国においてじわじわとその影響が目に見える形となって表れてきているようである。
前回のコラムでは、「売れない時代に売るための営業改革」に取り組むことを提案したが、このような環境下で手をこまねいていることなく、より一層の前向きかつ攻めのスタンスによる経営が求められてきているのではないだろうか。

では、一口に「営業改革」と言っても、何から手をつければ良いのであろうか。
その出発点となるのが、「マーケティング戦略」である。その中で、特に重要なのは、「商品・サービス戦略」であると考える。

さて、このコラムを読んでいるみなさんに質問がある。

「みなさんは、何をウリにして自社商品・サービスの営業を行っていますか?」

いろいろな答が想定されるが、大きく分ければ機能・性能、品質、価格に分類できるのではないかと思う。

しかし、ここで考えていただきたいことがある。これらは本当に競合他社に対して優位性のある「ウリ」になっているのだろうか?またそれは長期に渡って持続可能なものなのだろうか?

昨今は技術の進展が著しく早く、圧倒的な商品優位性を確立することは困難な時代である。身近な例では、最近はやりのスマートフォンを考えてみればよい。某社の出したスマートフォンは非常にユニークな商品であり一世を風靡したが、ほんのわずかな期間しか経過していない間に各社が類似商品を発売し、今ではどの企業のどの商品が優れているのか、何が違うのか、我々消費者からすると全く理解できない状況になっている。
そして、このように商品・-サービスの機能的な価値の独自性がなくなるとどうなるか。訪れるのは厳しい価格競争による消耗戦であり、まさに昨今多くの企業が頭を悩ませている状況に陥ることとなる。

みなさんの会社の置かれている状況はいかがであろうか。


もし幸いにも商品・サービスの圧倒的な優位性があるのであれば、営業改革の軸は、その優位性を明確に分かりやすく顧客に訴求するためのブランディングとメッセージングの強化、および、より多くの顧客にリーチするための営業チャネルの量的拡大になる。より多くの顧客に接触できれば、商品・サービスの優位性により勝手に売れるという構図になるのである。そして、他社が追随してくる前に、スピード感を持って圧倒的なシェアを獲得することが戦略の基軸となる。

しかし、そのような恵まれた企業はそれほど多くないと思われる。では商品・サービスの差別化に悩む企業はどうすれば良いのだろうか。

それは、真の顧客ニーズ(=根源的な顧客ニーズ)に訴求することである。

顧客はその商品・サービス自体が欲しいわけではない。本当に欲しいのは、商品・サービスを活用することによって得られる価値を求めているのである。
例えばITソリューションベンダーのビジネスを例にしてみると、顧客企業はハードウェアやソフトウェア自体ではなく、IT活用によって生産性を高めたいとか、事務負荷を下げたいといった顧客の課題を解決したいのである。これが、営業スタイルとして、いわゆるソリューション(解決策)提案が求められている所以である。

さらに、顧客の課題を解決するということ自体も深く掘り下げて考えてみれば、最終的な売上拡大やコスト削減などの経営戦略の実現に資するビジネスメリットを享受したいということが、本当のニーズであることが見えてくる。
そなると、例えばコスト削減を主要経営課題としている企業であれば、「IT化による事務コスト削減」だけではなく、「IT化による事務コスト削減に加えたSaaS型のシステム導入によるシステム構築・保守・運用コスト削減の両立」が訴求ポイントとなってくるかもしれない。
さらには、ITだけではなく直接的に事務部門全体のアウトソーシング(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)が、大幅なコスト削減施策として経営層には受け入れられる可能性もある。
こうなってくると、自社の商品・サービス自体の機能的な優位性だけではなく、真の顧客ニーズを把握する能力、その顧客ニーズの観点からの自社商品・サービスの優位性の訴求が競争の軸となるのである。

このように、商品・サービスの持つ機能そのものだけではなく、顧客ニーズに対する商品・サービス活用を通じた効果の訴求(ソリューション提供)、自社の他商品・サービスとのパッケージングによる一括サービス(システム構築+保守・運用)、根源的ニーズに応じた提供商品・サービスのシフト(BPOへの展開)などを経ることで、「ウリ」の軸が商品・サービス自体の機能的な価値から、異なる土俵へと展開されることになる。

商品・サービス戦略は、卸売会社であれば「小売店での売上向上のための販売コンサルティング会社」、製造機器メーカーであれば「顧客のサプライチェーンの最適化会社」、建設会社であれば「快適なオフィス・住空間の提供会社」、レストランやホテルであれば「癒し・快適さ・エンターテイメントの提供会社」、部品メーカーであれば「いかなる個別ニーズに誰よりも迅速に応える組み立て企業のパートナー」、または業界に関わらず「業界のイノベーターとして徹底的な低価格サービスの提供」等々、自社の存在意義を再定義することで、どのような顧客ニーズに対して、どのような価値を提供するのか、見えてくるはずである。

営業の勝負では、持っている武器(=商品・サービス)の優劣により勝負が決まる面が大きい。一方で、いくら優れた武器を持っていても、それを生かした戦い方が出来なければ、やはり勝負に勝つことは難しい。
それ故に、営業改革の第一歩は、自社商品・サービス戦略を策定し、いかなる軸をもって顧客ニーズに対する価値を訴求し、他社優位性を確保するかを明確にすることであり、これを受けて、この商品・サービスを生かした営業を実行するための営業プロセス・組織や営業担当者の能力育成などの改革の打ち手へと展開されていくのである。



エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩

2011年9月15日木曜日

「売れない時代に売る」ための営業改革

1回:売れない時代だからこその営業改革のすすめ

エム・アイ・コンサルティング株式会社
真保 浩

まず初めに、今回の東北関東大震災で被害にあわれた皆様に、心からお見舞いを申し上げます。

さて、昨今、不透明な景気動向、設備投資の減少、デフレ、消費マインドの低迷等々、企業を取り巻く経営環境は非常に厳しい状況にある。また、ライバルとの競争激化も進み、商品差別化は困難で、つまるところ低価格化しか競争軸が見出せず、結局は消耗戦の様相を呈している。こうした環境下において、多くの企業の方々から、「全然モノが売れない」、「売れる気がしない」といった悲観的な言葉をよく耳にする。

まさに、「売れない時代」である。しかし、売れない時代でも売るのが、営業の使命である。それにもかかわらず、多くの企業の営業部門の方々からは、自社の営業について以下のような課題・問題意識をよく耳にする。(ちなみに、これらは読者の方々の会社にも当てはまる部分は多いのではないだろうか)

·       数字のプレッシャーばかり強くなっているが、いかにその数字を達成するかの戦略・施策は降りて来ない(または、いろいろな戦略・施策は導入したものの、現場感とかけ離れて定着せず、効果も上がらないままに形骸化)
·       提案型営業との掛け声は良いが、実態は相変わらずの御用聞き型の営業スタイルのまま変わっていない
·       顧客からの要求が厳しくなっており、結果的に値下げ競争という採算無視の消耗戦しか勝負の軸が見出せていない
·       受注率が下がっているので、案件の如何に関わらず数多くの引き合いに取り組むことが求められ、結果的に採算も改善しないし、営業部隊の疲弊も激しい
·       内向きの会議や報告・管理作業ばかりが肥大化し、本業に割ける時間が乏しい(または、内部作業に忙しくしているだけで仕事をやった気になっている人が増えている)
·       若手が育っておらず、これまでのOJTに頼った人材育成には限界を感じている
  など

そして、これらのコメントを下さる方々の多くは、こうした課題・問題は重々承知しているものの、結局は有効な打ち手が見つからず、既存の延長線上での「がんばり」で何とか凌いでいる状況に頭を悩ましている。

一方で、このような同じ悩みを抱えている中から、抜本的な的な営業改革を図ることで、大きな成果を出している企業もある。

例えばA社では、「営業プロセスの標準化」、「チーム制導入」、「ROI管理強化」を行った。
営業活動をその進捗状況に応じた各段階を軸に標準プロセス化し、それぞれの段階で満たすべき要件(顧客顕在・潜在ニーズは明確か、キーマンは抑えたか、競合相手は把握できたか等)を定義することで、各段階における営業活動として営業担当者が実施すべきことを明確にするとともに、各段階完了時に、次の段階に移行するためのマネジメントのレビュー・承認を設けることで、営業活動品質を高めるとともに、採算性、勝ち目などを判断し、場合によっては営業を中断させる、すなわち勝ち目のない勝負に時間・労力とお金を使わないようにした。
また、顧客の要求水準が高度化・複雑化しており、一人の営業担当者では全てを賄うことが難しいケースが増えていることから、案件特性に応じた経験豊富なメンバーを営業チームメンバーとして参画させ、部門を越えた総力戦で勝負するようにした。(ちなみに、サポートメンバーにも営業成績が付与される仕組みも導入している)
さらには、営業活動にかかる費用を可能な限り直接原価として把握することで、成約価格との総合的な収支を管理できるようにした。これにより、採算割れになる営業活動や提案を回避できるし、逆に、営業担当者達には、採算性の見合う、より大きな案件に対する営業活動に注力するようなマインドセットが醸成された。

SFACRMなどのITを導入している企業も多いが、なかなかその活用が進まず、ねらった効果が得られていないという話を良く聞くが、B社ではSFAの導入にあたって、「営業管理のためのSFA」ではなく、「営業に役立つSFA」を目指した。
例えば、案件で提案する見込製品の登録を行うと、その製品の提案に必要となる関連部門にも自動的に案件情報が共有化され、チームとして営業を推進するようにしている。また顧客課題を起点として登録を行った場合には、課題に応じた製品の組み合わせが提示され、どのようなアプローチをするべきかといったアドバイス情報も得られる仕組みを構築している。これにより、単品営業ではなく、商品を組み合わせたトータルパッケージでの営業提案を後押ししている。
このようなSFAの活用メリットを提供することで現場の営業力を引き上げるとともに、営業管理強化という元々の目的・効果も合わせて享受している。
また、別の事例では、IT活用を定着化させ、効果をあげるために、ユーザー(営業)部門からメンバーを組織化し、その組織が主体となって、勉強会を開催したり、便利な活用方法、成功事例などを集約・広報するなど、「ITありき」ではなく、現場のユーザー視点に立った定着化活動を図っている例もある。

C社では、営業担当者が一定のテリトリーを与えられて営業活動を行っているが、担当顧客が多く、営業担当者の負荷が非常に高い状況になっているとともに、本来的に攻めるべき顧客に対する営業活動時間が十分に割けない状況に陥っていた。
このケースでは、顧客分析に基づきセグメント化した上で優先度・重要度を設定し、重点的に攻めるべき顧客を明確に設定して営業活動を集中化させるとともに、相対的に優先度・重要度の低い顧客に対してはWebによる対応にシフトさせることで、営業担当者のサポートが薄くなることを補完している。さらには、Webを積極的に活用した新規顧客開拓(Webマーケティング)を強化することで、営業担当者の活動を支援することも志向している。

これら事例におけるA社は「営業プロセス・営業マネジメント改革」、B社は「ITをテコとした営業力強化」、C社は「顧客戦略策定とマルチチャネル化」と整理できる。他の事例を掲げれば異なる改革テーマが見えてくるであろう。このように営業改革として取り組むべきテーマは、各社の置かれた環境や営業部門の現状により多岐に渡る。

「営業力強化」は古くて新しい課題である。永遠の課題という言い方でも良いかもしれない。前述の通り現状はモノが売れない環境にある。しかし、こうした中でも業績を伸ばす元気の良い企業も沢山ある。だからこそ、こうした環境下での勝ち組を目指して、この深遠なる課題に向かって、改めて「売れない時代に売るための営業改革」に取り組むことを考えてはいかがだろうか。