2009年8月24日月曜日

戦略立案のプロ なぜ、テレビ番組のコメンテーターはどんな出来事にも意見がいえるのか

前回は、皆さん1人ひとりが作る“これから50年の相場観”に関して
書きました。皆さんの植林作業は完了しましたか? 広い区画に、
植えたばかりの木がちらほら、既に多少育った木も何本かあるので
しょうか。いずれにしても、これが皆さんの現時点における相場観です。
これを踏まえることで、きちんと主語、述語、目的語を持ってその内容を
誰に対しても説明できるようになるはずです。

今まで、皆さんは世の中の多くの事柄を他人事として捉えていたのでは
ないでしょうか?しかし、この相場観が出発点となります。皆さんは、
何らかのロジックを基に作り上げた明瞭な仮説を持ったのです。

■相場観を初期仮説としてプロアクティブに磨いていく

「ウイグル自治区の問題」から「レアメタルの備蓄問題」まで、これから
全て世の中の出来事に対して、皆さんは仮説とロジックをもとに分析・
検証し修正・進化させることができるなることが目標です。ニュースで
報道される様々な出来事、読んだ本の内容、同僚と交わす会話、
全てについて、その本質的意味を考えることが大切です。

トイレで、電車の中で、歩きながら、風呂に入りながら、とにかく「理由と
結果」を考え続けます。そして、語る相手がいれば、あなたの仮説と
その検証結果を語り、フィードバックを獲得しましょう。そのようにして、
日々、木が育って行くのです。

今まで、仮説無しに生きていたあなたは単にあるがままに時を生きる、
観光バスツアーの旅人でした。このような態度をリアクティブ(Reactive)
と言います。これから、仮説を持ったあなたは、常に外界を観察し諸事の
何故を探求し、働きかけていきます。このような態度を、プロアクティブ
(Proactive)と言います。

人生そのものの考え方として、二元論的に、リアクティブはダメで
プロアクティブが良いということでは必ずしもありません。しかし、変革期
リーダーのビジネスにおける態度としては、プロアクティブが良いのは論を
待たないでしょう。

■せっかく思考停止状態から抜け出したのだからもう罠には陥らない

さらにもう1つ重要なのは、「思考停止の罠」に陥らないようにすることです。
相場観という「出発点としての仮説」を持ったことで、思考停止状態から
抜け出したあなたを、再び捕える罠、それは思いつき、思い込み、そして
妥協です。

よく世の中には何でもコメントする人がいます。朝のテレビ番組を見てください。
様々な話題に関して、自らの意見を披露する人たちが並んでいます。
あんなに簡単に、およそあらゆる世の中の出来事に対して、考え、即座に
意見を述べることが出来るのでしょうか?それは、神様でもない限り無理です。
では、彼らはなぜ答えることが出来るのでしょうか?

それは、思いついたことを、そのまま喋っているからです。それが彼らの
ビジネスなのです。何でも思いつきをすぐ口に出す癖がついてしまうと、
当然のことながら思考はそこで停止します。一段、二段、常に課題を
掘り下げていく癖をつけましょう。

思い込みも、思考停止の原因となります。話していると、必ず自分の
フィールドに話を持ってくる、こういう人と話していると、例えば、世の中の
問題はすべて教育問題に収斂してしまいます。それでその場を凌ぐことは
できますが、あなたの仮説は深まっていきません。

自分の十八番(フランチャイズ)があっても、敢えてその外で考え議論を
していく。そのことで、思考停止を避けると共に、より自分を逞しくすることが
出来ます。

考え続けていると、何となく「もうこれでいいや」と、つい妥協してしまうことも
あるでしょう。話し相手と、意見が違う場合はなおさらです。そのことの原因が
何によるのか、細部を曖昧なまま残して終わらせていませんか? あるいは、
社内の会議で余り深く知らない人たちが集まって議論すると、何となく、
お互いを傷つけないように玉虫色の結論を導いたり、あるいは妙に細かい
具体例を並べ、全員のコメントを一通り取り入れたりしてしまう。誰もが
経験があるでしょう。

コミュニケーションのテクニックとして、そのような対応は当然にあり得ます。
ですが、そのような状況に、自らは安易に妥協することなく、クリアにしなければ
ならない点はきちんと突き詰める、あるいは、後で自らの思考を深め自らの
ものは書き換えてしまう、そのような姿勢が、思考を深めるという観点では
大切です。

■コンサルタントが頼もしく見える理由

余談になりますが、コンサルタントという人種は、どんな場所でも必ず仮説
(=あるべき姿)を用意して臨むようにしつけられています。具体的には、
コンサルタントのキャリアが始まった段階で、あらゆる局面で自然に仮説を
前提にして、発言や行動が出来るようになるまで、何年掛かろうが徹底的に
反復訓練を行います(まあ1年以上かかるような人は、たいていその前に
淘汰されてしまいますが)。

仮説無しで現場に行くのは、単なる好奇心や観光客ですが、そこに仮説を
持って臨むことで、その構築の段階からの振り返りと併せ、そのイベントの
前後を含め学習をすることが可能になります。

コンサルタントは、このようにしてトイレの中でも食事中でも、自らの判断力や
観察力、そして創造力を磨き続けています。プロフェッショナルとしての
コンサルタントの価値の中核は、まさにそこに有るのです。

皆さんがこの作業を通じて、その事を体感的に理解すれば、皆さん自身が
経営戦略を考える、あるいはコンサルタントの使い方を考える際に、きっと
役に立つことが多くあると思います。例えば、コンサルタントに対して、
何を聞いても答えが用意されているということを、過度に評価する必要は
ないのです。なぜなら。それは当り前の行動様式なのですから。むしろ
その事を前提に、その深さや真贋を、背景にある考え方を問うてみれば
良いのです。

■歴史が人を作り、人々の営みが会社を作っている

ではいよいよ、自分の会社の検討に入りましょう。

さて、普段のあなたなら、何から始めますか? 長期経営計画を読みますか?
それとも、アナリストレポートでしょうか? いいえ、そのような近視眼的なもの
を見てはいけません。目線が低くなってしまいます。

皆さんに真っ先に読んでもらいたいのは、「社史」です。まずは、社史をひもとき、
創業者の気持ちに思いを馳せてみましょう。そして、成長期における名経営者
の気持ちを、次に考えてみましょう。そのような経営者の思い、そして会社に
起こった様々な出来事が、現在のあなたの会社を作り上げているのです。

より良くその内容を理解するためには、創業時や成長期の時代環境を知ること
が大事です。その当時の世界、そして日本は、どのような状況にあったのか?
それを肌で知ることが大切です。

CIやその他で、ちょっとした冊子やビデオが用意されているケースも多い
でしょうが、やはりここはじっくり社史を中心に、関連する書籍や資料などを
見ていただきたいものです。

そのためにどうしますか? 年表やネットによる調査を開始しますか? 
いいえ、私ならまず社史の著者にコンタクトを取ります。本である以上、
書いた人は必ず居るはずです。そしてその作者が作成するために使った
関連資料の中に、当時の状況を紐とくための書籍や資料が、間違いなく
存在しているはずです。

一般的に社史などは、(残念ながら)あまり顧みられる書物ではない
でしょうから、著者はあなたからのアクセスを歓迎して、きわめて好意的に
対応してくれるはずです。

また、会社にとって重要な時代背景を理解するには、映画も良いのではないか
と思います。近代日本を描いた黒沢映画や、植木等の無責任男シリーズ、
加山雄三の若大将シリーズ、森繁久彌の社長シリーズ等々、どのような
書物より雄弁に当時の世相を伝えてくれます。

そして世界を理解するのにも、映画はとても役に立ちます。「アパートの鍵
貸します」などを観ると、50年前のアメリカサラリーマン社会は、現代の日本
に比較しても、遥かに牧歌的であったことが良く判ります。「ウォール街」に
出てくるハゲタカの元祖のような存在は、その奇妙な魅力と相まって、
アメリカ社会における金融の位置づけを、よく理解させてくれるでしょう。

それから、多くの企業にとって戦後日本の発展とその根底にあった経済
システムの変遷は、何らかの意味を持っているはずです。1940年体制から、
戦後の経済史を理解するためにはさまざまな書物が有りますが、私が
もっとも、本としてより良いのは、著者の名を高めた『1940年体制―さらば
戦時経済』ですが、こちらは絶版なので、無理して入手するまでのことも
ないでしょう。

もし、野口悠紀雄の本を読んで、戦後日本の歩みに興味が湧いたなら、バブル
崩壊以降の20年を辿る書物はあまたありますが、私のお勧めは、村山治の
証言』を併せて読むことです。やはり、金融は経済の根幹というか神社の
ようなところですし、何らかの形で日本経済の直近20年と現在の方向性を
理解することは、大変有意義なことであると思います。

あと、多少マニアックなものがお好きであれば、山一証券の破産に関する
調査報告書は公開されており、ネットを検索すれば誰でも入手可能なので、
ぱらぱらとめくってみると良いでしょう。会社が潰れるということが、実感として
良く判ります。

■社史とその周辺から何を学びとるか

会社の歴史を紐解いたことで、あなたは自社の強み・弱みについて、仮説を
作りだすのに十分な情報を得た筈です。では、どのようにして仮説を作って
いきますか?

それには、色々な方法が考えられます。ここでは、私の方法の概略を紹介
します。くどいようですが、思考停止をもたらすので猿真似はダメです。
これを参考に、もしくは反材料として、皆さんのやり方を考え、試行してみて
ください。

1.会社を以下の4フェーズに分け、エポックメーキングな事柄を中心にした
年表をつくる
   ・ 揺籃期
   ・ 成長期&反抗期
   ・ 壮年期
   ・ 老年期
   
2.日本の歩みをそこに重ね、当時における会社の主要課題と成功・失敗要因を
識別する
   
3.そこから、現在、会社としての強みと弱みが何処にあるか仮説を作る
   
4.現在の会社構成員を10年単位に区切り、それぞれの代表的な層が入社
以来どのような経験を重ねているか、イメージする
   
5.各層の意識、強みと弱みについて、自らのイメージを重ねていくことにより
仮説を作る
   
6.会社、および各層の強み・弱みを重ね合わせ、思考と議論を重ねていくこと
により、仮説を検証し、進化させていく

強みと弱みは、せいぜい3項目もあればOKです。ただ、単語ではダメ。
主語、述語、目的語をもった短い文章で、しかも言葉や優先順位には、
とことんこだわってください。

この仮説は、多面的かつ重層的な構造を持っています。臆せず上司や先輩を
訪ねて議論していきましょう。職場の同僚や部下も格好の相手です。その際、
会社の歴史と世代の仮説をベースに、思考の進化を行っていくのは当然です。
貴方の一回り上は、下は、どのような歴史をたどってどんな意識を持っている
か、そしてその強みや弱みは。常にそのような仮説と検証を、重層的に繰り
返していくのです。

どんな会社にも「伝説の存在」はいるでしょう。直接の面識はなくても、アポを
取って会ってみましょう。もしアポが取れなければ? 同じ会社の人間を
そのように扱うような「伝説の存在」には、価値がありません。忘れてしまい
ましょう。また、他社の人や取引先にも会って話をしてみましょう。きっと、
様々な事を教えてくれるはずです。

■社史が無いなら作ってしまえ

此処まで来て、社史が無い人はどうすればいいのですか? という声が
聞こえてきそうですが、ここまで読んだ人で、そんなリアクティブな人はあまり
残っていないと思います。

そうです。社史が無い会社にいる貴方には、最高のチャンスがあります。
貴方が社史を作成すればいいのです。1人でやる必要はありません。
プロジェクト・チームを提案して作成すればよいのです。時間や費用?
そんなもの、予算に合わせてやればいいのではないですか。

極端な話、1人で1日だって、年表くらいなら作成することは可能でしょう。
私たちコンサルタントは、これを、「Scope to Budget」と言います。

■役員クラスとのコンタクト

ここまで来たら、いよいよ、度胸試しも兼ねて役員レベルと話してみませんか?
もし現役役員に臆するのであれば、相談役でも良いでしょう。私の
コンサルタント時代の経験に照らせば、彼らは、存外孤独であるし、
実はちょっとした暇な時間を持っているものです。

私のコンサルタント時代、気合が入ったクライアントにおいては、社史を読み、
上記のようなプロセスを経て数枚のペーパーを作成し、社長や重鎮クラスに
送った上で、「理解を深めたい」とのことでアポイントをいただきました。

断られた記憶は少ないですし、昼飯や夕飯の余禄にあずかったことも多く
有ります。そして何より、より深いクライアントに対する理解と情熱、
そして深い信頼関係を築くことが出来たのは、大きな財産と言えます。

■世界観に関する補足と読者のコメントへのお返事

50年の相場観を養う上で、私が参考にあげた本が結構売れているとのこと。
驚くとともに嬉しく思いました。

読まれた方、どう思われたでしょうか? 私の世界観の中では、あれは、
世界史観の殻をかぶった西洋史観であり、西欧知識人レベルの集約的な
見解を代表するものだと思います。もし、東洋・日本の方向にもう少し補正
したければ、田中明彦の『ポスト・クライシスの世界』を読まれるとよいでしょう。

それから、頂いた読者コメントの中にあった『うらしまニッポン―会社員が
日本を変えるMBA系リーダー学』、手に取り読んでみました。著者の
荻山和也さんは残念ながら存じ上げませんが、志を同じくする方と感じ
ましたし、内容は、現在の日本企業の企業文化や組織マネジメントといった、
主として内的な問題を概観するインプットとして良いものと思います。
この類の本で、企業文化や組織マネジメントの他に、経営戦略、商品開発、
マーケティング、M&Aとアウトソーシング、経営管理、財務、研究・技術開発
などの日本企業に関する諸課題を、読みやすく解説した本を探していけば、
コメントを投稿された方のみならず、皆さんのニーズに適うのかもしれません。

それから、若干宣伝になりますが、単なる“スキル系の知識”を求めるならば、
私をはじめ当社のコンサルタントが監訳した、
これはハーバード・ビジネススクールのレクチャラー達が、ビジネススキルの
各分野に関して、読みやすくポイントを簡潔にまとめた良い本です。


2009年8月17日月曜日

戦略立案のプロ 世界観なき人に戦略は立てられない では、どうすればいい?

さて、いよいよ今日からが本番です。前回の最後に、課題図書として上げたもの(『21世紀の歴史――未来の人類から見た世界』『課題先進国日本』)は、読んでいただけましたか?あえてグローバルと技術ということで、みなさんの中で多くの方が、日頃、目にしていない、もしくは関心が薄いであろう分野を取り上げました。

科学が進歩した結果、知識や技能はより専門的な分野に細分化されました。一方で、グローバル化やICTが進展し、より多くの人々や情報が瞬時にあらゆる壁を超えて行き交う世界が実現しています。そのような現代において、凡そ全ての事柄は、その多くが、本来の分野を超えて様々なところで関連し、連動しています。

■同じ目線から先は読めない

一例をあげましょう。地方において、空港から各地域に向けてどのような頻度でバスを走らせるか、これは地域の交通問題のように思われます。したがって、充分な乗客が確保できない路線では、バスはどんどん間引きをされ、場合によっては廃止されて行きました。

ところが、地域交通の便が悪くなると、地方住民の移動が減少し、結果、住民とコミュニティとの接点が少なくなります。特に、車のような移動手段を持たない老人においては、この傾向は顕著です。コミュニティとの接点が少なくなると、老化が早まります。その結果、介護や医療にかかる地域の負担は、より大きくなります。

一方で、車による移動の利便性を求め、駐車場や道路が多く建設されていきます。そのことは、さらに地域に負担を求めます。さらには、バス路線の廃止や減少は、結果的に地域の雇用を減らし、経済をより縮小させることになります。また、交通手段の減少による人口減は、耕作放棄地の増加をもたらし、食糧自給率の低下や国土保全の問題を引き起こします。

このように考えると、地域交通の問題は実は交通だけではなく、医療や福祉、経済、あるいは農業の問題までを含んでいることが、良く判ります。そのような複合的な問題を考えると、地域交通における路線の便数を決めるためには、単に路線の採算といった狭い観点ではなく、上記のような複合的な観点で広く捉えた上で、時間軸を加え、総合的な費用対効果を判断しなければなりません。

戦略を考える上でも同様です。そのような関連性を考えると、単に自らの会社や取引先、そして属する業界を見ているだけでは不十分です。そういった意味で、いきなり業界本や証券アナリストが書いた自社のアナリストレポートに飛びつくのは愚の骨頂です。

まずは目線を上げ、相場観を養う

目線を上げ、現代そして未来に対する相場観を養うためには、どうすればよいでしょう。

答えは簡単。様々なジャンルに関して、一流の人たちが語りそして書いているものを、とにかくたくさん見て読んで、自分の頭の中でつないでいく作業を行うのです。そして、それをなるべく多様な議論に足る人たちと議論していくことにより、自ずから「相場観」が生まれて来るはずです。

かつて武士の時代に、自らの道場で型を作った修行者が、他の道場に出かけて行って稽古をつけてもらうことにより、更に腕を磨いていったようなものです。

それでは、そのような出稽古の時間を忙しい中、どのように捻出するのでしょうか? 答えは、タイムマネジメントを徹底することです。

朝、起きてから出社するまでの間、何をしていますか? 電車の中では、何をやっていますか? 昼休みの余った時間、何をしますか? 夜はどのように使いますか? 風呂の中の時間は? 自分の1日、1週間、1カ月を通してみると、驚くほどに修行のための時間が、捻出できることに気がつくはずです。

また、通り過ぎる情報で真に時間を超えた価値を持つものは、ごく一部です。しばらくの間は、新聞、雑誌、テレビのニュースやネットサーフィンなどの通り過ぎる情報に接するために使う時間は、必要最小限の範囲に留めましょう。

こうして、1日2時間、週末の時間もあわせると約20時間が捻出できるはずです。この時間を、仮に読書と議論に充てるとすれば、1冊の本を読むのに3.5時間、議論に1.5時間使うとしても、1週間に4冊の書物を読むことができます。これを1カ月続ければ、合計16冊の書物を読んだ上で議論することが出来ます。

これだけやれば、頭の中で様々な事項がつながり、時代に関する「相場観」を持つことが出来るようになると思います。

相場観を養うためには、主要な分野を一通りカバーすることが必要です。しかも、時代のトレンド的な事柄や、自社の戦略を考える上で最も影響が大きいと考えられる経済や政治といった主題に飛びついてはいけません。

まずは、世界が、そして日本がどうなるか、ということを真剣に考えてみることから始めます。対象とする分野は色々と考えられます。

例えば、エネルギー、資源、食料、農業、科学技術、宗教、文化、高齢化、金融市場、そして経済。まずは分野として何をカバーするか、出発点を定めます。そして、一つひとつの分野に、自ら木を植え育てるのです。幹はこれまでの歴史や学問に基づくしっかりした理解、そして葉の茂る部分は現在、そして未来に関するところ、ここは、より創造力の羽を伸ばし、自らの理解を拡げるところです。

1つの分野に木が1本、場合によっては2本以上、必要かもしれません。また、通常は1冊の本で1本の木を育てることが出来れば望ましいですが、場合によっては幹で1冊、葉でもう1冊が必要な場合があるかもしれません。そして最終的に、十数本の葉がこんもりと茂った木になる森が出来ると、それがあなたの相場観です。

■無料のセミナーを活用しよう

先ず書物の話をしましたが、それ以外に活用可能なものが幾つかあります。その中で、もしあなたが東京や大阪に住んでいるなら(特に東京は世界で最も良質な情報にあふれた都市であり、この優位性を活用しない手は無いでしょう)、最大に活用可能なのは各種の無料セミナーです。具体的には、以下のようなものが有ります。

日経新聞社などが催す各種シンポジウム
   
大学が行う公開講座、特に最近の東京大学をはじめ各大学が行う公開講座の充実ぶりは、目を見張るものが有ります
   
各種シンクタンクが行う公開講座、充実しているものには、RIETIや財経研究所など政府系、MRIやNRIなど民間系、その他多くあります。これは東京在住者の特権に近いかもしれません
インターネットは玉石混交だが情報の宝庫

インターネットはうまく使えば、素晴らしい情報の宝庫です。その中には、多くのテキスト情報が双方向で動いています。

しかも、質問が投げかけられるのを待ち構える、多くの専門家たちが居ます(××知恵袋など)。ちょっとした質問を投稿すると、びっくりするほど早く良質な回答が得られることに、あなたは驚くことでしょう。BLOGや大学の研究室HPなど、場合によってはオフラインでのアクセスで、より充実した議論の機会が、いともたやすく得られる可能性もあります。

良質な動画も、情報を効率よく獲得するためには大いに活用しましょう。前回も書きましたが、YouTubeでジャック・アタリのインタビューを100分見るだけで、世界や未来の見方がずいぶんと変わることも、充分にあり得ることです。

PODCASTで、参加が叶わなかった東京大学の学術俯瞰講義を見るのも良いでしょう。あるいは、英語にストレスが無いのなら、MITのNETに公開されている授業は、最新の科学世界へあなたを誘ってくれます。

■多様な人たちと議論する

いつもの議論仲間に、常に新しい議論のネタを提供して行くのも良いですが、それだけだと、固定的な概念の外に出ることができません。むしろこの期間は、いつもの仲間は止めて、なるべく多様な人たちと交わり議論するようにしましょう。

学校時代の同級生、かつての同僚、マンションの自治会、探せば沢山居るはずです。社内の著名人やネットコミュニティのオフ会も良いでしょう。

重要なのは、数が多ければよいというものではありません。「価値のある議論が出来る」人に絞り込み、ここからの議論の展開に活用をして行くのです。これは社交的でない人にとっては、少々骨が折れる作業です。ですが、自分にとってPricelessな新しい財産をつくるつもりで、頑張って取り組んで行きましょう。

■私の相場観

「相場観」に関するイメージが湧いて来たでしょうか?まだ十分に湧いてこない方に対する参考のため、私の相場観を一部抜粋して、以下に示します。

ただ、あくまでこれは私にとっての相場観であり、皆さんが単にこれを鵜呑みにするのは、意味が有りませんし、皆さんの事実解釈によっては、全く別の相場観も当然あり得ます。あくまで1つの例として、参考のために示したものであることにご留意ください。

資源とエネルギー
  1. 資源はいずれ概ね循環へ、エネルギーが課題
  2. エネルギーの主力は電気へ転換
  3. 原子力が主力だが太陽光・熱にも可能性
  4. 温暖化の影響は致命的ではないが大きい
   
宗教・文化
  1. イスラム世界は以下の要因で不安定
  ・ 人口増加に伴う貧困若年層の増加
  ・ 政治体制(王政、民主制、宗教制)
  2. インドネシアから東南アジア、インド、中近東までSMD(スーパー・メガ・デルタ)の秩序ある成長が未来にとって重要
  3. 生命科学の進歩が新たな倫理観を要求する
  ・ 再生医療
  ・ 遺伝子解析と予防医学
   
高齢化
  1. 先進国は押し並べて高齢化に向かう
  ・ アジアが牽引
  ・ 元々高いヨーロッパが続く
  ・ アメリカは最もゆっくり
  2. 日本の高齢化が世界をリードし、韓国がそれに続く
  3. 先進国の高齢化進展は、途上国との様々な利害対立をより大きくする危険性がある




2009年8月10日月曜日

Web マーケティングの効果を高める3つの原則 ~ Web 先進国アメリカから学ぶ ~Part Ⅱ

■目次
1.Web マーケティング戦略は本当に検討されたか?
2.顧客に見つけてもらい、選ばれるアプローチとは?
3.ROI を意識した「成果」につながる改善活動


1.Web マーケティング戦略は本当に検討されたか?
PartⅠで、商品や顧客の特性を踏まえたWeb マーケティング戦略が
あるべきと申し上げた。しつこいようだが、この出発点が大変重要で
あることを改めて強調しておきたい。

そもそものWeb マーケティングのあり方、位置づけの議論がなされて
いないと、全ての活動が土台から揺らいでしまうため、土台の検討なしで、
次の段階へは進まないようにご注意いただきたい。

さもないと、そもそもの目的である「売上の拡大」が実現できなくなって
しまう。

2.顧客に見つけてもらい、選ばれるアプローチとは?
さて、ターゲット顧客が明確となり、他社と比較した際の自社商品のウリが
明らかになったところで次に考えるべきは、どのようなアプローチでリードを
獲得すべきか?という点である。この議論を始める前に、ある企業A に
おける失敗例をご紹介したい。

-企業A の失敗
ターゲット顧客と自社の差別化ポイントを明確にした企業A は、「リード
(問い合わせ)数を月間200件獲得する」という目標を掲げ、早速
新しいWeb サイトの構築を始めた。

まずは、ランティングページといわれる、商品専用のホームページを
作成し、そこから問い合わせ獲得できるよう工夫した。この領域に詳しい
Web ベンダーに相談し、PV 数を向上できるよう、初期投資は必要という
判断をした。

しばらくすると、一定のPV 数が得られるようになり、担当者は
ほっとした。新しい試みであったので、やはり社内では注目も集めるし、
失敗は許されないとプレッシャーがかかっていたからだ。

しかし、どういうわけかPV 数は集まってくるものの、どうしても問い合わせ
につながらない。リード(問い合わせ)の獲得が目的なので、PV 数だけ
多くても仕方がない。担当者は頭を抱えた。どうすればいいのだろうか。

・リードの「量」が足りない
こういった試みを始めると、多くの場合、「リード数の絶対量が増えない」
という壁に直面する。我々も「とにかく問い合わせが増えないんです」という
お悩みをお聞きすることが多いのだ。

その要因は、そもそものターゲット顧客が不明確である(PartⅠで紹介
したWeb マーケティング戦略が不在である)から、というのも大きいのだが、
ターゲットが明確であってもこのような事態に陥る場合が少なくない。
それはなぜだろうか?

実は、リードを獲得する手法として、法人に限らず適応可能なWeb サイトの
デザイン・テクニック(顧客のアクション数をできる限り減らす、つい押したく
なるボタンのデザインを活用する、とにかく顧客情報を入力していただける
ようにする…など)が存在するが、これは多くのWeb ベンダーが既に提供
しているものであるため、本レポートではより本質的な部分に触れさせて
いただく。

・顧客の行動をどこまで理解しているか?
リードの「量」が増えない。その理由は、一言で申し上げるならば「顧客の
ことを深く理解していない」からである。商品やサービスを購入する際、
「顧客がとる行動はどういうものなのか?」その理解が不足しているのだ。

あるいは、理解していたとしても、それをWeb 施策へと反映させられていない
ことが大きな要因だ。では、顧客の購買行動を理解するためには、
どのようなことがわかればいいのか。実際に営業担当者などに聞いて、とも
に議論するのが最も近道だ。参考までに、議論すると有益なポイントを挙げ
ておく。

すべてこれまでに成功した「典型的な受注案件について」議論することが
重要である。

-コンタクトがあってから、どの程度の期間で受注できたか?
-どのようにして顧客は自社あるいは自社が提供する商品(サービス)を
知ったのか? 
-顧客が最初にほしがった情報はどういうものか?
-最終的に顧客が自社を選んだ理由はどこにあるのか?

いかがだろうか。これらについて、Web マーケティングを行う側がすらすらと
答えられるようであれば、必ずリード数は増えていくはずだ。我々の経験だと、
はじめに顧客がくるページ(ランティングページ)に「まず知りたい情報」以外の
内容をたくさん記述してしまっている場合が多いし、注文や見積もりを得る
ための「お問い合わせ」ボタンを配置してしまっていることが多い。

B2C の商材に限りなく近い商品(サービス)ならともかく、情報収集の段階で
注文や見積もりのための問い合わせをする人は限りなく少ない。また知り
たい情報以外の内容が記述してあると、顧客側からするとフラストレーションに
なってしまう。これは、セールス期間が長ければ長いほど、当てはまる傾向である。

・はじめにプロセスを設計する
顧客の行動を理解することが重要であると申し上げたが、実はこれは
優秀な営業マンであれば必ず考えていることだ。

彼らは、いつも最初にどのような人物にアクセスすべきか、どのような
情報をまずは提供するのか、次のアクションとしてどのようなことをやるのか、
クロージングのタイミングではどのようなことをするのが最も有効か、といった
内容を押さえており、自分なりに工夫しながら最も勝率の高いアプローチを
洗練させている。Web マーケティングで行うべきは、彼らと同じプロセスを、
人手を介さずにやるというだけのことなのだ。

従って、まず初めにやるべきことは、ランティングページを構築すること
ではなく、「どのようなプロセスで顧客にアプローチすると勝率が高い
のか?」という答えになり得るWeb マーケティング・プロセスを設計する
ことである。

我々はこのWeb マーケティング・プロセスをFunnel(ファネル)と呼んでいる。
Funnel とは、直訳すると「ジョウゴ」の意味で、Funnel を見込み顧客に通って
いただくことで、最終的な受注につなげることをイメージしている。

下記の図は、最もシンプルなFunnel の例だ。問い合わせを行った顧客に対して
メールでフォロー、その後電話でアプローチを行い、通常の営業プロセスに
引き継いでいくイメージとなる。
このようにあらかじめプロセスを設計しておくことが、次に解説させていただく
「ROIの向上」につながっていく。

3.ROI を意識した「成果」につながる改善活動
さて、プロセスが設計でき、その通りに見込み顧客が増えていったとしても、
ずっとその方法で成功するとは限らない。はじめに設計したプロセスが万全、
ということはまずあり得ないし、競合の動きや環境の変化によって影響を
受ける可能性も高い。

・施策が後手に回る不幸なケース
せっかくWeb マーケティングに投資をしても、あまり効果が出ないために
余計なプレッシャーを受け、焦ってリード獲得のために不必要な投資を
行ってしまうケースも少なくない。

新しい取り組みであればあるほど、社内における注目も高いため、効果が
でなければ ネガティブな意味でマネジメントの関心事となってしまう。実際に、
方々から「ああしろ、こうしろ」との指示が多くなり、Web マーケティングの
チームメンバーの士気が下がり、施策そのものに前向きなアイディアや活動が
なくなってしまって身動きが取れなくなったケースも存在する。

そのようにならないためには、前述のような明確なWeb マーケティング・
プロセスを設計しておくことはもちろん、徹底したPDCA サイクルによって
管理することが大変重要である。
・Web マーケティングの世界こそ「改善アプローチ」
改善アプローチというと製造業のイメージが強いかもしれないが、
プロセスを設計し、それをメンテナンスしつづける考え方は、まさに
改善アプローチだ。何をどのように変えると効果があがるのか、
様々なアクションが最終的な受注に結び付いているため、ちょっとした
アクションが大きく数字を左右することがある。

あるSNS を運営するシリコンバレーの企業は、顧客の動向を5分間に
一度モニターしているというが、そこまで大袈裟にとらえなくてもそれぞれの
プロセスのコンバージョンを押さえておくだけでも意味がある。
具体的に説明しよう。

プロセス①(例:ランティングページを訪問)から、次のプロセス②(問い合わせ
ボタンをクリック)へと進んだ見込み顧客は何%か?そのコンバージョンは、
先月と比べてどうなのか?こういった細切れ管理を一つ一つ丁寧に実施して
いくことが求められる。

例えば、「とにかくPV 数は多いのに、問い合わせ数が足りないのです」
と言われた場合、我々も短期的に行える施策があったとしても、最終的には
顧客のアクションごとに、どこが具体的に課題なのかがわからないと、手の
打ちようもないのだ。

これは、実は段階が進んでいけばいくほどさらに深刻化する。たとえば、
問い合わせ数が増えていっても、具体的な商談につながらない、リードその
ものの質が良くない(いわゆる、ターゲット顧客以外の受注につながらない
ものが多くなってしまう)という問題も発生してくる。これらに対処できるように
するためにも、具体的な課題へとドリルダウンできるための管理が必要なのだ。

・効果が期待できれば投資もできる
具体的な改善施策が想定できれば、やみくもな投資をしなくて済む。また、
本当は必要な投資に対しても、単に「効果がでていない」という理由で却下
されることも少なくなる。

Web マーケティングの担当者は実際に営業をして数字を稼ぐわけでは
ないが、客観的な数字に裏打ちされた分析結果を持つことができる。

我々は、具体的なプロセス管理は、これを可能にすると思う。これまで
法人マーケティングの世界では、あまり行われてこなかった営業活動その
もののエンジニアリングを、Webマーケティングを駆使して実施してみては
どうだろうか?

このような活動が、米国のみならず日本でも浸透していくことを願って
やまない。


戦略立案のプロ ぶれず・まよわず・俯瞰せよ

”一皮剥けた”人には共通点がある
50年先を語る歴史観・相場観

●このパラダイムシフトを楽しむ
 現在、世界は大きな時代の転換期を迎えています。1年前、あんなに
自信にあふれ輝いていたトヨタ自動車が、大きな構造変化の中で3度の
業績下方修正を重ね、苦しみもがいている姿はまさに象徴的です。

 資源、エネルギー、BRICS、イスラム教、オバマ大統領、高齢化、温暖化、
金融危機、世界不況、あらゆる事が物凄いスピードで動いています。例えば、
5年後の自動車産業は、かつてレコード産業や写真産業が経験したように、
大きく変わっていることでしょう。

 「紙は絶対に無くならないなんて、思わないし言えない」。

写真産業にいる知人の言葉です。すべからく、将来の変化はタイム・
ディスカウントされて、現実感を伴わない傾向がありますが、トヨタをはじめ
自動車産業に関わるすべての人たちは、今その変化に直面しているのです。
そして日本の輸出20%強、海外子会社利益およそ50%を稼ぐ自動車および
関連産業の将来は、我々が住む日本の将来でもあります。

 今回の変化は、単にレコードや写真フィルムといった単体の問題ではなく、
広範な領域にわたるパラダイムシフトです。そしてこれは、我々一人ひとりに
とって、危機でありチャンスでもあります。どうせ逃れることが出来ない
転換期ならば、チャンスとしてそれを肯定的に受け止めることが必要では
ないでしょうか? 大きな時代の転換期に巡り合った幸運を神に感謝し、
その変化を思いっきり楽しむのです。

 そのために、「俯瞰的な視点とぶれない基軸をつくる」ことを目的に、
「目線を上げて経営戦略を考えて、そして書いてみる」ための方法を
書いてみたいと思いました。これから何回かに分けて解説をしていきます
ので、お付き合い頂ければ幸いです。

●俯瞰的な視点とぶれない基軸が重要
 大きな転換期には、押しては返す波のように次々と変化が起こります。
その中では、着実に進行する変化と、単なる振動が増幅されているだけの
見せかけの変化や、一瞬の泡として消えてしまうような、まやかしの変化が
起こります。

 そのような一つひとつの事象に対して、瞬時にその本質を判断して、
そのうえで行動することは、神様でもない限り不可能です。ですが、自分の
中にしっかりとした「俯瞰的な視点とぶれない機軸」があれば、様々な
変化に振り回されることはなくなります。

 常に同じ観点からものを見ていくことは、簡単なようで実は難しいのです。
人間は、立場や知識や感情に、そしてときには脳の揺らぎに振り回されて
しまいます。

 具体的な例をあげましょう。あなたがもし営業であれば、当面の売り上げ
数字やあなたの正面にいる顧客が最も大切です。あなたは、お客さまに
満足いただき契約を獲得することに、最善の努力を傾けます。では、顧客の
購買意欲が急速に無くなって来たらどうするでしょうか?通常は、もっと沢山の
時間を使い新たな顧客を探すか、より一層の努力を傾け、さらにお客様を
満足させようとします。

 ですが、その背後に本質的な変化が起こっていたとしたら、どうなので
しょうか?お客様や、扱っている商品そのものが変わるといった本質的な
変化が起こっているとすれば、このような当面の対応は無意味です。

 自らの営業の仕事だけではなく、その背景にある顧客や自社のバリュー、
技術の動向、市場や環境の変化、そのようなものすべてを俯瞰して見たうえで
ぶれない機軸で評価すれば、そのような無意味な対応より、より本質的な
ことに労力を使うことが出来ます。

●ビジネススクールからマネジメント・プログラムへ
 現在、企業や組織、そして自立した個人の強いニーズを背景に、そのような
能力を獲得することを目的にした人材育成の場が、幾つか生まれています。
その中で、私は縁あってISL九州アジア経営塾東京大学EMPという3つの
プログラムに、ボランティアベースで深く関与をしています。これらは、生まれも
育ちも内容も異なる(正確にいえばISLのTLPと九州アジア経営塾の碧樹館
プログラムは、今はかなり内容が異なるものになりましたが、かつてはTLPが
姉、碧樹館が妹の姉妹プログラムでした)社会人を対象としたプログラムです。

 共通しているのは次の2点だけ、一般に比べるとやや高額な受講料を
企業や組織(場合によっては個人)が支払うことにより、質の高い豊富な
講師陣を体系的に揃え、平日の読書、週末の講義とワーク、終了に向けた
課題学習と、受講生に時間を酷使した努力を強いながら、「俯瞰的な視点と
ぶれない機軸をつくる」ことを目的としているところです。

 それでは、幸運か本人の実力か、このような機会を得た人は良いかもしれ
ませんが、運が悪いか本人の実力不足か、あるいはそのような拘束が
嫌いな人には、「俯瞰的な視点とぶれない基軸をつくる」機会は、永遠に
訪れないのでしょうか?

 決してそんなことはありません。私は、幸か不幸か28年以上コンサルタントを
やって来ました。関わったプロジェクトは年間平均4つ、1プロジェクト当たりで
関わる顧客メンバーの数は5人程度、年間20人で28年だとすると560人、
それに加えて上記3つの経営塾で今までに累計約240人、すべて合計すると
約800人のエリートやその候補者を、数カ月から1年近く客観的に観察する
機会が有りました。

 その中には、「俯瞰的な視点とぶれない基軸」を既に有している人も居れば、
私の観察期間中に、「一皮剥けた」人も居ます。そして風の噂で聞くに、
そのような人は、各社や組織で必ずと言っていいくらい活躍しているようです。

 好奇心もあり、そのような人たちに目覚めるきっかけを聞いてみると、
必ず共通しているものがあります。

 それは、部門や組織階層の壁を超えた共通課題を、もうこれ以上考える
ことが出来ないというくらい集中して時間を使って考え、そしてそれを書く
という体験です。仕事でも作業課題でも、そのような作業に真剣に取り組んで
結果をきちんと書き記す経験をした人間だけが、到達可能な境地が有るのです。

 そして、一人ひとりにとっては、その経験は所詮きっかけに過ぎません。
このような経験を通じて考える力をつくり知識を広めたことで、自分への
自信がうまれ、それが周囲の信頼と期待を生む好循環に入っていくことが
重要なのです。

●経営戦略を考え、そして書いてみる
 ここでは、そのきっかけとなる経験として、自らの力で「目線を上げて
自社の経営戦略を考え、そして書いてみる」ための方法を解説します。
これは決して容易なことではありません。真剣に取り組んで多少であれ
成果を上げるためには、少なくとも100時間を超える時間を使う必要が
あるでしょう。

 それだけの時間を使うことを、はなからやる気がない人は、どうぞ
ここで読むのを止めてください。当たり前ですが、修行に抜け道や近道は
ありません。険しく高い山であっても、「俯瞰的な視点とぶれない機軸を
つくる」ために少々の努力を厭わない方は、ここから先に読み進めてください。
くどいですが、ここから先、説明する内容をもとに経営戦略を作ることは、
決して簡単なことではありません。

 それだけの労力を投入する代わり、効果は絶大です。1度全体を俯瞰して
内容をまとめてみると、今までの自分が見えていなかった多くのものが見える
ようになります。人やモノの流れがわかるようになります。そして、書いてみる
ことで、今までいい加減な理解で済ませていたあやふやな事柄が、しっかりと
整理されて積み上げられた石垣になります。

 もう、居酒屋で自分の会社の悪口を、断片的に話すことはできません。
新聞をはじめメディアが、いかにいい加減であるかということが、自社や
その周辺の報道内容を見ることで、判るでしょう。「一皮剥けた」存在として、
上司や部下、周囲が見る目も変わってくるはずです。社長のコメントや
決断にも、親近感がわいてくるのではないでしょうか?

 でも、あなたは疑問に思うはずです。自分の力で、経営戦略などという
大それたものを考え書き起こすことが、果たして可能なのだろうか?
それは本来、経営企画部門というエリート社員が集まる部門の仕事であり、
そして、マネジメント・コンサルタントと呼ばれるような専門家に、大枚を
はたいて支援を得るようなものであり、自分などが取り組むことが可能な
テーマではないのでは?

 そんなことはありません。私は断言します。経営企画部門のスタッフや
マネジメント・コンサルタントが取り組んでいる経営戦略の中には、真実が
宿るディテールもありますが、一般的には戦略の太い幹を考えるにあたって、
マネジメント・コンサルタントや経営企画部門が弄り回すようなディテールの
数字は殆んど必要はありません。戦略を考える時には不要です。

 もちろん数字の分析は必要ですが、証券会社のアナリストレポートが
整理しているようなレベルで充分です。そして、マーケットや経済統計、
予測など、そのような情報は巷にあふれており、簡単に検索することが
できます。

 それでは戦略の立案メソドロジーはどうなのか?それもまた、本屋の
棚にあふれています。流石に、アマゾンで「経営戦略 マンガ」と検索しても
何も出てこないので、経営戦略のマンガによる解説は無いのかもしれ
ませんが、それに近いような本は、既に世の中に存在しています。
可能であれば、日本語に翻訳されたものでも原典を読んでいただきたい
ですが、極論すれば、正しくその内容が理解できるならマンガに近い
ような本でも構わないと、私は思います。

●リストラの仕事ばかり?マネジメント・コンサルタントの時代は終わった
 こう書くと、多くのマネジメント・コンサルタントに怒られそうですが、私は、
現代のコンサルタントは、基本的には特殊技能者の派遣高級人材だと
思っています。

 恥ずかしいから格好をつけて「ベスト・プラクティス」と呼んでいますが、
要は他社事例とノウハウ、そして、経験的なメソドロジーに基づいた習熟
技能を有する人材を供給すること。コンサルティング・ファームは過去も
そうでしたし、これからもそのような存在であり続けます。

 以前は、ベスト・プラクティスやメソドロジーは、ファームの中で
一子相伝(ちょっと大袈裟でしょうか)的に開発をされ、引き継がれていました。
私も、正直に白状しますが、1980年代にコンサルタントとして”活躍”していた
ころは、社内の簡単なマニュアル以外にほとんど頼るものはなく、想像力の
翼を拡げ、常に1を聞いて10を知り100を語り伝えるのがコンサルタントだと
うそぶきながら、巷を徘徊しておりました。

 クライアントは、他に信じるものがなく、そのような若造の私を信頼し、
そしてその信頼に応えるために、私はさらにがむしゃらに勉強し、足りない
ところは想像力の羽を拡げるということをやっていました。

 そしてそこには、明らかに仕事を超えた、ある種神秘的な、顧客との
信頼関係というものが存在したのです。

 ところが、現代ではそのような内容は、書物やセミナー、あるいは教育
という形で巷に溢れています。もはやそのような神秘がない中、顧客は
単に時間と品質を買うために、コンサルタントに高いフィーを支払い、
コンサルタントはそのフィー・プレッシャーと闘いながら、己の心身を削り、
機能別、分野別にブレークダウンされた仕事をしています。

 赤字の会社を建て直すためのリストラ計画はともかく、“夢とロマンに
あふれた将来への展開計画”つくりはマネジメント・コンサルタントの仕事
ではなくなったのです。このことで、私はマネジメント・コンサルタントの
(神秘に満ちた夢とロマンの)時代は終わった、と思っています。

●夢とロマンの経営戦略を作ろう
 コンサルタントの夢とロマンの時代は終わりました。さあ、自分が
これまでに培ってきた知識と経験、巷に溢れる情報、周囲の人たちを
活用し、私がこれからガイドする内容に従い、目線の高い、リストラも
あれば夢とロマンもある、そのような経営戦略を考え、書いて、声に
出して読んでみるところまで頑張りましょう。

 そのための第1ステップとして、まず未来に向けた世界、50年先の
相場観を養うために、本を読んでいただきたい。どのような本でも良い、
本屋かアマゾン、あるいは検索で、そのような主題を扱った良い本を
2~3冊探しまして読んでください。1人が寂しい人は、友人や職場の
同僚を巻き込んで、お互いに意見や感想を述べ合うのも良いでしょう。

 自分で探すのが面倒臭い人は、、、ジャック・アタリの『21世紀の
読んでください。それなりに、相場観は出来るはずです。

 本を読むより動画の好きな方は、YouTubeで、「ジャック・アタリ」を
検索してみてください。このGWに放映された2時間のインタビューを
放映したものを、おそらく視聴することが出来るでしょう。