”一皮剥けた”人には共通点がある
50年先を語る歴史観・相場観
●このパラダイムシフトを楽しむ
現在、世界は大きな時代の転換期を迎えています。1年前、あんなに
自信にあふれ輝いていたトヨタ自動車が、大きな構造変化の中で3度の
業績下方修正を重ね、苦しみもがいている姿はまさに象徴的です。
資源、エネルギー、BRICS、イスラム教、オバマ大統領、高齢化、温暖化、
金融危機、世界不況、あらゆる事が物凄いスピードで動いています。例えば、
5年後の自動車産業は、かつてレコード産業や写真産業が経験したように、
大きく変わっていることでしょう。
「紙は絶対に無くならないなんて、思わないし言えない」。
写真産業にいる知人の言葉です。すべからく、将来の変化はタイム・
ディスカウントされて、現実感を伴わない傾向がありますが、トヨタをはじめ
自動車産業に関わるすべての人たちは、今その変化に直面しているのです。
そして日本の輸出20%強、海外子会社利益およそ50%を稼ぐ自動車および
関連産業の将来は、我々が住む日本の将来でもあります。
今回の変化は、単にレコードや写真フィルムといった単体の問題ではなく、
広範な領域にわたるパラダイムシフトです。そしてこれは、我々一人ひとりに
とって、危機でありチャンスでもあります。どうせ逃れることが出来ない
転換期ならば、チャンスとしてそれを肯定的に受け止めることが必要では
ないでしょうか? 大きな時代の転換期に巡り合った幸運を神に感謝し、
その変化を思いっきり楽しむのです。
そのために、「俯瞰的な視点とぶれない基軸をつくる」ことを目的に、
「目線を上げて経営戦略を考えて、そして書いてみる」ための方法を
書いてみたいと思いました。これから何回かに分けて解説をしていきます
ので、お付き合い頂ければ幸いです。
●俯瞰的な視点とぶれない基軸が重要
大きな転換期には、押しては返す波のように次々と変化が起こります。
その中では、着実に進行する変化と、単なる振動が増幅されているだけの
見せかけの変化や、一瞬の泡として消えてしまうような、まやかしの変化が
起こります。
そのような一つひとつの事象に対して、瞬時にその本質を判断して、
そのうえで行動することは、神様でもない限り不可能です。ですが、自分の
中にしっかりとした「俯瞰的な視点とぶれない機軸」があれば、様々な
変化に振り回されることはなくなります。
常に同じ観点からものを見ていくことは、簡単なようで実は難しいのです。
人間は、立場や知識や感情に、そしてときには脳の揺らぎに振り回されて
しまいます。
具体的な例をあげましょう。あなたがもし営業であれば、当面の売り上げ
数字やあなたの正面にいる顧客が最も大切です。あなたは、お客さまに
満足いただき契約を獲得することに、最善の努力を傾けます。では、顧客の
購買意欲が急速に無くなって来たらどうするでしょうか?通常は、もっと沢山の
時間を使い新たな顧客を探すか、より一層の努力を傾け、さらにお客様を
満足させようとします。
ですが、その背後に本質的な変化が起こっていたとしたら、どうなので
しょうか?お客様や、扱っている商品そのものが変わるといった本質的な
変化が起こっているとすれば、このような当面の対応は無意味です。
自らの営業の仕事だけではなく、その背景にある顧客や自社のバリュー、
技術の動向、市場や環境の変化、そのようなものすべてを俯瞰して見たうえで
ぶれない機軸で評価すれば、そのような無意味な対応より、より本質的な
ことに労力を使うことが出来ます。
●ビジネススクールからマネジメント・プログラムへ
現在、企業や組織、そして自立した個人の強いニーズを背景に、そのような
能力を獲得することを目的にした人材育成の場が、幾つか生まれています。
プログラムに、ボランティアベースで深く関与をしています。これらは、生まれも
育ちも内容も異なる(正確にいえばISLのTLPと九州アジア経営塾の碧樹館
プログラムは、今はかなり内容が異なるものになりましたが、かつてはTLPが
姉、碧樹館が妹の姉妹プログラムでした)社会人を対象としたプログラムです。
共通しているのは次の2点だけ、一般に比べるとやや高額な受講料を
企業や組織(場合によっては個人)が支払うことにより、質の高い豊富な
講師陣を体系的に揃え、平日の読書、週末の講義とワーク、終了に向けた
課題学習と、受講生に時間を酷使した努力を強いながら、「俯瞰的な視点と
ぶれない機軸をつくる」ことを目的としているところです。
それでは、幸運か本人の実力か、このような機会を得た人は良いかもしれ
ませんが、運が悪いか本人の実力不足か、あるいはそのような拘束が
嫌いな人には、「俯瞰的な視点とぶれない基軸をつくる」機会は、永遠に
訪れないのでしょうか?
決してそんなことはありません。私は、幸か不幸か28年以上コンサルタントを
やって来ました。関わったプロジェクトは年間平均4つ、1プロジェクト当たりで
関わる顧客メンバーの数は5人程度、年間20人で28年だとすると560人、
それに加えて上記3つの経営塾で今までに累計約240人、すべて合計すると
約800人のエリートやその候補者を、数カ月から1年近く客観的に観察する
機会が有りました。
その中には、「俯瞰的な視点とぶれない基軸」を既に有している人も居れば、
私の観察期間中に、「一皮剥けた」人も居ます。そして風の噂で聞くに、
そのような人は、各社や組織で必ずと言っていいくらい活躍しているようです。
好奇心もあり、そのような人たちに目覚めるきっかけを聞いてみると、
必ず共通しているものがあります。
それは、部門や組織階層の壁を超えた共通課題を、もうこれ以上考える
ことが出来ないというくらい集中して時間を使って考え、そしてそれを書く
という体験です。仕事でも作業課題でも、そのような作業に真剣に取り組んで
結果をきちんと書き記す経験をした人間だけが、到達可能な境地が有るのです。
そして、一人ひとりにとっては、その経験は所詮きっかけに過ぎません。
このような経験を通じて考える力をつくり知識を広めたことで、自分への
自信がうまれ、それが周囲の信頼と期待を生む好循環に入っていくことが
重要なのです。
●経営戦略を考え、そして書いてみる
ここでは、そのきっかけとなる経験として、自らの力で「目線を上げて
自社の経営戦略を考え、そして書いてみる」ための方法を解説します。
これは決して容易なことではありません。真剣に取り組んで多少であれ
成果を上げるためには、少なくとも100時間を超える時間を使う必要が
あるでしょう。
それだけの時間を使うことを、はなからやる気がない人は、どうぞ
ここで読むのを止めてください。当たり前ですが、修行に抜け道や近道は
ありません。険しく高い山であっても、「俯瞰的な視点とぶれない機軸を
つくる」ために少々の努力を厭わない方は、ここから先に読み進めてください。
くどいですが、ここから先、説明する内容をもとに経営戦略を作ることは、
決して簡単なことではありません。
それだけの労力を投入する代わり、効果は絶大です。1度全体を俯瞰して
内容をまとめてみると、今までの自分が見えていなかった多くのものが見える
ようになります。人やモノの流れがわかるようになります。そして、書いてみる
ことで、今までいい加減な理解で済ませていたあやふやな事柄が、しっかりと
整理されて積み上げられた石垣になります。
もう、居酒屋で自分の会社の悪口を、断片的に話すことはできません。
新聞をはじめメディアが、いかにいい加減であるかということが、自社や
その周辺の報道内容を見ることで、判るでしょう。「一皮剥けた」存在として、
上司や部下、周囲が見る目も変わってくるはずです。社長のコメントや
決断にも、親近感がわいてくるのではないでしょうか?
でも、あなたは疑問に思うはずです。自分の力で、経営戦略などという
大それたものを考え書き起こすことが、果たして可能なのだろうか?
それは本来、経営企画部門というエリート社員が集まる部門の仕事であり、
そして、マネジメント・コンサルタントと呼ばれるような専門家に、大枚を
はたいて支援を得るようなものであり、自分などが取り組むことが可能な
テーマではないのでは?
そんなことはありません。私は断言します。経営企画部門のスタッフや
マネジメント・コンサルタントが取り組んでいる経営戦略の中には、真実が
宿るディテールもありますが、一般的には戦略の太い幹を考えるにあたって、
マネジメント・コンサルタントや経営企画部門が弄り回すようなディテールの
数字は殆んど必要はありません。戦略を考える時には不要です。
もちろん数字の分析は必要ですが、証券会社のアナリストレポートが
整理しているようなレベルで充分です。そして、マーケットや経済統計、
予測など、そのような情報は巷にあふれており、簡単に検索することが
できます。
それでは戦略の立案メソドロジーはどうなのか?それもまた、本屋の
棚にあふれています。流石に、アマゾンで「経営戦略 マンガ」と検索しても
何も出てこないので、経営戦略のマンガによる解説は無いのかもしれ
ませんが、それに近いような本は、既に世の中に存在しています。
可能であれば、日本語に翻訳されたものでも原典を読んでいただきたい
ですが、極論すれば、正しくその内容が理解できるならマンガに近い
ような本でも構わないと、私は思います。
●リストラの仕事ばかり?マネジメント・コンサルタントの時代は終わった
こう書くと、多くのマネジメント・コンサルタントに怒られそうですが、私は、
現代のコンサルタントは、基本的には特殊技能者の派遣高級人材だと
思っています。
恥ずかしいから格好をつけて「ベスト・プラクティス」と呼んでいますが、
要は他社事例とノウハウ、そして、経験的なメソドロジーに基づいた習熟
技能を有する人材を供給すること。コンサルティング・ファームは過去も
そうでしたし、これからもそのような存在であり続けます。
以前は、ベスト・プラクティスやメソドロジーは、ファームの中で
一子相伝(ちょっと大袈裟でしょうか)的に開発をされ、引き継がれていました。
私も、正直に白状しますが、1980年代にコンサルタントとして”活躍”していた
ころは、社内の簡単なマニュアル以外にほとんど頼るものはなく、想像力の
翼を拡げ、常に1を聞いて10を知り100を語り伝えるのがコンサルタントだと
うそぶきながら、巷を徘徊しておりました。
クライアントは、他に信じるものがなく、そのような若造の私を信頼し、
そしてその信頼に応えるために、私はさらにがむしゃらに勉強し、足りない
ところは想像力の羽を拡げるということをやっていました。
そしてそこには、明らかに仕事を超えた、ある種神秘的な、顧客との
信頼関係というものが存在したのです。
ところが、現代ではそのような内容は、書物やセミナー、あるいは教育
という形で巷に溢れています。もはやそのような神秘がない中、顧客は
単に時間と品質を買うために、コンサルタントに高いフィーを支払い、
コンサルタントはそのフィー・プレッシャーと闘いながら、己の心身を削り、
機能別、分野別にブレークダウンされた仕事をしています。
赤字の会社を建て直すためのリストラ計画はともかく、“夢とロマンに
あふれた将来への展開計画”つくりはマネジメント・コンサルタントの仕事
ではなくなったのです。このことで、私はマネジメント・コンサルタントの
(神秘に満ちた夢とロマンの)時代は終わった、と思っています。
●夢とロマンの経営戦略を作ろう
コンサルタントの夢とロマンの時代は終わりました。さあ、自分が
これまでに培ってきた知識と経験、巷に溢れる情報、周囲の人たちを
活用し、私がこれからガイドする内容に従い、目線の高い、リストラも
あれば夢とロマンもある、そのような経営戦略を考え、書いて、声に
出して読んでみるところまで頑張りましょう。
そのための第1ステップとして、まず未来に向けた世界、50年先の
相場観を養うために、本を読んでいただきたい。どのような本でも良い、
本屋かアマゾン、あるいは検索で、そのような主題を扱った良い本を
2~3冊探しまして読んでください。1人が寂しい人は、友人や職場の
同僚を巻き込んで、お互いに意見や感想を述べ合うのも良いでしょう。
自分で探すのが面倒臭い人は、、、ジャック・アタリの『21世紀の
歴史――未来の人類から見た世界』、小宮山宏の『課題先進国日本』を
読んでください。それなりに、相場観は出来るはずです。
本を読むより動画の好きな方は、YouTubeで、「ジャック・アタリ」を
検索してみてください。このGWに放映された2時間のインタビューを
放映したものを、おそらく視聴することが出来るでしょう。
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