2009年9月28日月曜日

Web マーケティング実践編 コンテンツの作り方~ホワイトペーパー・メールマーケティング編~

本稿を読まれる方へ
「苦労してWeb サイトを作って、広告を使って人を集めた。
・・・だが、全くリードにつながらない」「営業していて一番求められるのは
成功事例だ。そう考えて成功事例に関するホワイトペーパーをWeb サイトに
掲載した。でも何も変わらない。なぜ?」

このようなことは、Web マーケティングの現場では頻繁に発生している。
その原因の一つに「コンテンツの体裁が正しくないから」というものがある。
要するに、せっかくホワイトペーパーなどをダウンロードしてもらったのに、
顧客にとって読みにくい、分かりにくいことが原因で、読まれないということが
おきてしまうのだ。これでは、例え顧客に訴求するメッセージが洗練されて
いたとしても、意味がなくなってしまう。

本稿では、効果的なホワイトペーパーの作成方法、および効果的なメール
マーケティングの実現方法についてまとめている。

もしあなたが上記のような現象に悩んでいるのであれば、一読し、
実際に手を動かしてみることをオススメする。

■効果的なホワイトペーパーを作成する

1. 文章作成時のポイント
ホワイトペーパーを確実に読んでいただくには、「最初から最後まで丁寧に
目を通さなければ内容を理解できないもの」ではなく「簡単に目を通すだけで
概要が理解できるもの」
にすることが重要である。以下、そのために留意すべきポイントを挙げた。

 サマリーを冒頭に用意する。全体の要約として、短時間で内容を
理解できるものを冒頭に用意する
 各段落を一言でまとめた「小見出し」を頻繁に用意する
 重要なポイントはハイライトをする。アンダーライン、色を黒でない色にする、
太字にするなど
 箇条書きを多用する。表・グラフを多用する。表・グラフは可能な限り
シンプルにし、表・グラフのみで意味が理解できるものにする

2. デザイン時のポイント
ホワイトペーパーを確実に読んでもらうためには、文章の工夫だけでなく、
デザイン面の工夫も重要である。

 プリントアウトした際にメモを記入しやすいよう文書の左側を空白にする。
文章作成時のポイントとして、左側の空白部分に、写真や文章を使った
注釈を挿入することも効果的
 読みやすいフォントを使う。日本語の場合はゴシック、英語の場合はSerif
 行間を詰めない
 6~8 ページに収まるようにする。6 ページ以下では「少なすぎる」という不満、
8ページ以上だと「長すぎる」という印象を与える

3. その他のポイント
 誘導したページのURL や担当者のメールアドレスなど、顧客にアクションを
とってもらうための仕掛けを必ずつくる
 ホワイトペーパーが適する役割は「情報提供」である。無理に、営業色を
出すことは望ましくない
 情報の羅列ではなく「ストーリー」があると、最後まで読んでいただける
参考情報:ホワイトペーパーに関するアンケート結果
米国におけるホワイトペーパーに関するアンケート結果をご紹介する。
この結果からも、上記で挙げたポイントが重要であることが理解できる。

 ポイントをおさえた要約が掲載されていることが望ましい(80%)
⇒要約を作成することは手間であるが、必ず実施すべきである
 ホワイトペーパーを読んだ後に、検索エンジンを使って更なる情報収集を
行っている(76%)
⇒ホワイトペーパーの末尾に「より詳しい情報を知りたい方はこちら」などの
誘導を設計することが有効だと考えられる
 ダウンロードし読んだホワイトペーパーの50% を組織内の他メンバーに
   共有している(購買担当者の93%)
⇒ホワイトペーパーは一度ダウンロードされると広範囲の影響を及ぼす
ポテンシャルを秘めている

出典:Tech Marketing Best Practices Research Series, Whitepapers


■効果的なメールマーケティングを実現する

1. 文章内容作成時のポイント
 送信者
顧客と名刺交換を行った社員の名前、もしくはセミナーの講師の名前で
出すことが望ましい。「会社」からではなく「個人」からのアクセスであることを
前面に押し出すことが重要である。
 タイトル
目を引くものにする。特に、短くて分かりやすいことが望ましい。
 内容
営業色は出さずに、有益な情報を提供するというスタンスを取るようにする。
有用な情報の典型例は、事例紹介であるが、設定したゴールに応じて検討
することが重要。また、「会社」からではなく「個人」からのアクセスである
ことを前面に押し出す。

具体的には、汎用的なテンプレートをそのまま送信するのではなく、
適宜カスタマイズする(その日におきたニュースや、個別的な情報を
挿入する)。
これまでに、送信先(リード)とどのようなやりとりが行われてきたのか
(今までにどのような情報を送ったのか、メールは不要だといわれて
いないか、など)を反映させる。

2. 推敲時のポイント
 リンク切れを確認する
 HTML・テキストメールに限らず、想定しているとおりに表示されるかを
確認する
 営業担当者の代わりに送信する場合は、必ず送信の承認を得る
 「個人」からのメールのように読めるかを改めて確認する

3. 営業、その他施策との連携ポイント
 セールスコールのあとは必ずメールを送信する
 顧客がメディアに掲載された際には必ずお祝いメールを送信する
 顧客が興味のある内容が明確な場合、オートステップメールや
メールマガジンにこだわることなく、情報を継続的に送信する
 顧客と似た悩みを持つ人々が集まる場に招待することも有効である

4. メールマガジンなど、1 対他のメールを送信する場合のポイント
 表現の自由度が高く、顧客にアクションを起こさせる”仕掛け”を数多く
用意できるHTML メール形式が望ましい
 LP に誘導するものではなく、LP と同様に、(その場で)顧客にアクション
を促すものとして設計することが望ましい (例:セミナーに申し込むなど)
 LP を作成する考え方と同様、アクションをとってもらうための仕掛け
(お問い合わせボタンなど)はメールの前半にも配置する
 サイドバーやフッターなどを活用して、様々なコンテンツ(動画やホワイト
ペーパーへのリンク)を掲載する
 “ウェブで読みたい方はこちら”といったものを挿入し、リンク先に、
送信した文章と同じ内容のものを、より魅力的なデザインで掲載する

5. その他のポイント
 内容を改善する際は、既存顧客や、メールの読者からフィードバックを
もとに行う(恣意的な判断では行わない)
 すぐに収益につながらないことを認識し、忍耐を大切にする
 メールに対する顧客の行動(クリックなど)は全て記録し、分析に
活かせるようにしておく
 1 通目は、E-Mail アドレスを登録後1 時間以内に送信されることが
望ましい
 送信する時間帯は、出勤直後の午前9 時ごろが効果的(出勤後、
メールを受信した際に、メーラーやWeb メール受信ページの上部に
表示されることを狙う)

レポートを最後までお読み頂きありがとうございます。

今回お読み頂いたレポートは、貴社のROI を急激に高める可能性を
秘めている強力な提案です。新しい方法論であり、ほとんどの企業が
実現できていないことが書かれています。

ここで提示させていただいた方法論は、早く始めるほど効果が出ます。
実行する時期をうかがう必要はありません。

そのため、ライバル会社がまだ着手していないと思われる「今」から
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2009年9月14日月曜日

「マイ戦略」を作ろう ここまで来たらプロ・レベル

先回作成したビジョンは、良く練り上げられてきましたか?  ここで、前回同様にここまで作成した資料を、改めて振り返ってみましょう。
これからの世界、そして日本に関する相場観
自社の本質的な強みと弱み、そしてそれに対する、世代毎の意識や価値観の違いに関する補足
10年後の外部環境に関するメインシナリオ、そしてリスクシナリオX、Y
10年ビジョン

 1つひとつの資料について、愛着と自信を持ってその趣旨を資料無しで全て説明出来るようになっていたら、良く練り上げられた証拠です。そこまで到達していないようであれば、まだ努力が足りないということです。執念を持って、頑張りましょう。
 さて、今回はいよいよ最終段階、ビジョンを実現するための経営戦略を考え書き記します。最後まで気を許さずに進んで行きましょう。以下、先回使ったチャートで、改めて経営戦略、ビジョン、現状、10年後の未来環境の位置付けを示しておきます。


 

 

 

 

 

 






経営戦略を定義する

 経営戦略という言葉も、ビジョンという言葉と同様に、色々な意味で使われます。
 そもそも、戦略の元々の意味は、孫子の兵法に代表されるような戦いに勝つための方法です。したがって、シンプルな表現を好む人は、戦略とは「Where to play, How to win」であると言います。
 ここで、改めて経営戦略というものの定義を考えるために、代表的な経営戦略のフレームワークとされる、ポーターの「競争優位の戦略」で提示された有名な以下のフレームワークを取り上げ、具体的に考えてみましょう。


 













ここでは、まさに「Where to play & How to win」の定義を中心に、戦略フレームワーク上の整理がされています。したがって、What(どの事業を)という要素は、これを考える上での前提として与えられています。
 具体的には、現状の事業、もしくは新しく開始する事業に関して、競合等の外部条件や自社の能力を中心にした内部条件を元に、3つの「Where to play & How to win」の戦略オプションから、何を選択するかということを考えます。
 これが成り立たない場合は、改めてWhat(事業)を見直す、つまり新規事業としては再考する、もしくは既存事業であれば撤退をする、といった検討が行われます。
 したがって、ここで取り上げたポーターのフレームワークは、ここまで作成してきたマイビジョンでは、10年後の経営環境において、自社がどこにポジショニングしてどのような戦い方をしているか、という中身の整理に近い内容であるということになります。

私たちは、What(どの事業を)という部分はある程度明示的に、Where & How(何処でどうやって)に関する部分は、KFSという形でそのサマリーを既にビジョンの中で整理して来ました。ゆえに、これから先行うべき作業は、これまでの内容を適宜ブラッシュアップしつつ、10年後のビジョンを、どのように実現していくかという定義が、中心になります。
 そこで、私たちが作成するマイビジョンにおいて経営戦略とは、10年後の経営環境において、(1)然るべきポジショニングをどのように確保するか、そして、(2)その時点で戦いに勝つために備えていなければならない実力をどう獲得するか、そのための道筋と主要な考慮点を戦略的な(上位の基本的な考え方に立った)主要項目レベルの大日程を中心に示したものとして定義をします。
 通常、経営戦略という言葉で使われる定義としては、先週作成をしたビジョンにここで定義をする経営戦略の両方を包含している場合が多いことと思います。したがって、仮に自社における定義がここでの定義と異なり、この内容を経営戦略と呼ぶことに違和感が有るならば、トランスフォーメーション戦略や実現戦略といった、戦略レベルの大計画であることをはっきりさせるようにしたら良いでしょう。

経営戦略の相場観を持とう


 ここで経営戦略の作成に入る前に、先週と同様に相場観を養う意味で、会社のHPに掲載されているものを、幾つか見て行くことにしましょう。
 まずはつい最近、2020年に向けた事業戦略を発表した、ファーストリテイリングのものから。必ずしもこれを意図したわけではないのですが、期せずして、9月2日に発表された2020年のビジョン、および戦略が発表されました。
 これは、ぜひ、ビデオ画像も見ていただきたいと思います。強気でなるオーナー経営者にして、「1兆円くらい行きたいな」、とか、「出来たらこれを~世界に展開して行きたいな、なんて思ってます」といった表現は、日本人はやはり奥ゆかしいなあ(下線部の表現参照)、と改めて感じるとともに、何となく夢とロマンを感じさせるものです。
 ちなみにファーストリテイリングの取締役会には、私が22年在籍したアクセンチュアの村山徹前社長、元ゴールドマンサックスのマネージング・ディレクター(M&A)の服部暢道が社外取締役として加わっていますが(ちなみに、取締役合計4名のうち柳井正を除く3名が社外取締役のファーストリテイリングにおいて、あと1名は双日の元CEOである半林亨です、それぞれの経験・知識・能力を考えると、アドバイザー軍団としてなかなかの人選ですね)、このような豪華なアドバイザーを揃え、マイビジョン=コーポレートビジョンをオーナー経営者として実践しているということですね。私たちも夢とロマンで頑張りましょう。
 これを見た上で、改めてこの発表を受けた新聞やネットの記事を読むと、その伝えるメッセージの貧困さにがっかりさせられます。メディアの役割は無くなることは無いと思いますが、このような類の単なる情報伝達部分においては、単に情報として紙面や画面を埋めている以上の付加価値は無いように思えます。メディアのより一層のリストラは、避けられないところですね。
 次に見ていただきたいのは、森精機です。こちらは、経営戦略という言い方はせずに、中期経営計画(PQR555)と表現をしていますが、中身は、経営戦略と呼べるレベルのものであると思います。
 内容は、ビジョナリーかつ経営力で知られるオーナー経営者の社長の下で、全社マネジメントが練りに練った内容なのでしょうか、とても高い水準であり、かつ分かり易いものであると思います。また、機能別戦略の主要部分について、経営陣の中でオーナーを定め、そのコミットメントを誇示するかのようにHPに写真が掲載されているところなど、健全な緊張感を感じさせます。
 機能別戦略の中では、人材の強化・育成が大きく取り上げられています。ファーストリテイリングもそうでしたが、事業、収益、人材の強化・育成、品質、ブランドといったあたりが、良く出来た経営戦略の構成要素として取り上げられていることが、多くなって来ています。
 少なくとも、戦略構成要素に関するコンテンツの品ぞろえという観点では、私がコンサルタントとして活動を始めた80年代初めに比べると、その充実ぶりに隔世の感が有りますね。

なるべく良いものを見ていただきたくて、優れたオーナー経営者のもと成長中の企業のものを2つ並べましたが、最後に、私から見ると全くダメなものを見ていただきたいと思います。
 みずほファイナンシャルグループです。解説は不要でしょう。
 ちなみに、同じメガバンクでも三井住友フィナンシャル・グループのものは、まあそれなりのレベルで書かれています。ご参考まで。

経営戦略を考える上でも企業活動フレームワークは有効


 それでは、経営戦略を考える上で、そのフレームワークはどのように考えれば良いでしょう? フレームワークという言葉に違和感があるのであれば、標準的な目次もしくは構成、と言い換えてもらって構いません。そして、ここでもビジョン作成の際に用いた企業活動のフレームワークは、極めて有効です。

 














実際の経営戦略の上で、このフレームワークはどのように反映されているでしょう?
 例えば、上記の例で示した森精機の経営戦略と、上記のフレームワークをマトリックスで整理すると、以下のようになります。




 








同様のチェックをインフラストラクチャーのフレームワーク各項目と行ってみると、この経営戦略がカバーしている範囲が良く判ります。
 ここで誤解していただきたくないのは、経営戦略は、必ずしも網羅的である必要はないということです。例えば、既に日常的な活動として十分な取組が行われている項目(例えば、上記、森精機の例では社会貢献活動に関しては、HPの中で大きな項目を挙げて記載されています)に関しては、必ずしも戦略の中で取り上げる必要はないからです。
 フレームワークは、ものを考えるにあたっての切り口や、考えた結果を検証するための道具であり、決して内容を規定するものではないところ、理解したうえで活用ください。

現状の理解と記述


 定義したビジョンの項目に従い、現状を記述しましょう。これは、すでにビジョンを作成した際、記述したか頭に入っている場合も多いと思います。ここでは、それを改めて言葉や数字として書き表してみます。
 具体的には、ビジョンを整理した項目に従い、現状における強み/弱み(あるいは良いところ/改善すべきところ/追加すべきところ)、ビジョンにおける到達ゴール実現に向けた主要成功要因(KSF:Key Success Factor)を定義する、といった段取りで進めていけば、良いでしょう。
 ここできちんと、現状(AS-IS)について記述することで、ビジョン(TO-BE)との違いがはっきりし、その差を埋めるための方策の大方針、及び時間的観点での集約が、経営戦略ということになります。

経営戦略を考えるためのヒント


 私たちは、マイビジョンにおける経営戦略として、(1)然るべきポジショニングをどのように確保するか、そして、(2)その時点で戦いに勝つために備えていなければならない実力をどう獲得するか、そのための道筋と主要な考慮点を戦略的な(上位の基本的な考え方に立った)主要項目レベルの大日程を中心に示したもの、すなわちビジョン実現のための戦略計画として定義をしました。
 一般に、これらの検討を進めていくに際しては、フレームワークや理論、ベスト・プラクティスと呼ばれる各種事例、その他個別分野のトレンドなど、多くの情報に通じているほど(私たちコンサルタントは、これをResourcefulであると言います)、より高い品質の内容が得られます。

コーポレートビジョンにおける経営戦略を作成する際、コンサルタントを活用する最大のメリットは、フレームワークや理論の実践的活用に習熟したコンサルタントを通じて、各種事例や個別分野のトレンドリソースのデータベースに対してハイタッチなアクセスが可能な点にあるでしょう。なんせ、大抵の依頼事項を、一晩のうちにきれいに整理して持ってくるのですから、少々高くてもつい病み付きになってしまします。

 余談ですが、20年くらい前、某中央官庁に対してDSS(Decision Support System : 自らの手で情報を抽出・分析する意思決定支援システム)を提案した際、キャリア官僚より、「ノンキャリの部下に依頼しておけば、朝までにきれいに整理したレポートが出来ているので、必要性を感じない」と返されたことがあります。人間、楽な環境に慣れてしまうと、それを変えることはなかなか出来ない、だから変革が難しいのでしょう。

 ここから先、MBA的なスキルを色々と書きならべて解説をしていくことは、出来なくはない挑戦ですが、Wikipediaに書いてあるような多数の理論に関して、中身を実用に耐えるレベルで説明しようとすると、おそらく一冊の本になってしまうくらいのボリュームがあるので・・・止めておきます。
 数多くの理論を活用した経験から言うと、どの理論も間違ったことは言っていないし、それぞれに多くの示唆があります。一方で、たくさんの本を読まないと、すべからく課題が解決できないということはありません。

 誤解を恐れず断言すると、ある程度以上の水準にある著者(例えば、ドラッカー、ポーター、トム・ピーターズ、クリステンセン、コッター・・・)が書いた本であれば、1冊読めば1σ(約70%)、2冊読めば2σ(約94%)の課題に対する解決策が得られるのではないかと思います。
 この分野における知識と実践能力をきちんと獲得しようとするなら、やはり、シリーズで本を読むか、通信教育、あるいは各種社会人向けMBA講座などを受講して、理論と演習による学びをお勧めします。

 このようなプロセスが、時間的、或いは年齢的にちと厳しいと思われるのであれば、身近の部下でそのような知識を持った人材を、データベースとして活用するのも良いでしょう。
 不幸にしてそのような人材が周辺に居ない方に関しては、上に書いたように、優れた本との巡り合いの機会を如何に作るかがポイントになると思います。。ちなみに、以下は私がお勧めする簡便的アプローチです。

【理論から入りたい方】

1.Wikipediaで「経営戦略論」、もしくは「Management Strategy」を検索し(日本語は、単に英文の翻訳のようなので、どちらでも構わないと思います)、内容を読んだ上で、自社の現状とあるべき姿に照らして、最も参考になると思われる本を読む。
 
2.その本がしっくりこないようなら、次の本を探す。この分野にものしりの知人がいるようであれば、アドバイスをもらう。しっくりする本を探し出すまでこれを繰り返す。
3.探し出したしっくりくる本を元に、経営戦略を検討する。


【私が勧める定番本を知りたい方】
● 知価社会への適応:
 ピーター・F・ドラッカー『ドラッカー名著集7 断絶の時代
● 競争優位戦略:
 M.E. ポーター『競争の戦略
● 大企業のイノベーション:
 クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき(Harvard business school press)
● ビジョナリー・リーダーシップによる企業変革:
 ジョン・P. コッター『企業変革力
● ビジネスプロセス・リエンジニアリング:
 マイケル ハマー『リエンジニアリング革命―企業を根本から変える業務革新
● デザイン+ブランド:
 トム・ケリー『発想する会社!
● 巨大企業の組織改革:
 アルフレッド・D・チャンドラーJr.『組織は戦略に従う
● とにかく集中と選択のアメリカ流経営:
 ジャック・ウェルチ『ジャック・ウェルチ わが経営
● バリュー・イノベーション経営:
 W・チャン・キム『ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する(Harvard business school press)
 
1.自社の現状、およびあるべき将来のビジョンに照らして、適当と思われるテーマで上記の本を読み、違和感が無ければそれを元に経営戦略を検討する
 
2.あまりしっくりこないが、著者に共感できる場合は、著者の他の本を探して読んでみる
3.それでもしっくりこないようであれば、Wikipedia等を使い、もう少し広い範囲でサーチを掛ける
 
4.違和感のない本に出会うまで、上記プロセスを繰り返す



【本など読まずにネットだけでやりたい方】
 各種フレームワークをネットで検索の上、内容を理解して試行錯誤で活用してみてください。参考までに、私が良く使用する古典的なものを、幾つかリストアップしておきます。

● BCGマトリックス:事業ポートフォリオ・マネジメント
● アンゾフのマトリックス:新商品、新規事業戦略
● 3C、5C:マーケティング
● マッキンゼー 組織の7S:組織
● SWOT分析:戦略オプション分析

● グレイナーの企業成長モデル
 それから最後に、ウルトラCを教えます。以下は、総務省がブレークスルー・パートナーズというハンズオンベンチャー支援を行う企業に委託して作成をした、「事業計画作成とベンチャー経営の手引き」です。
 大変充実したこの資料(しかし作成フィーは高かったでしょうね)、実はベンチャー以外の企業でも(大企業でも)、ほとんど大部分は適応可能です。漏れがなく、各種フレームワークを活用した実践的なハンドブックとして、大いに活用する余地が有ります。

経営戦略の作成方法



 経営戦略の作成は、ある方に言わせると「神の仕事」であるそうです。経営戦略においては、現実に直面している課題への対応ではなく、長期的な変化や新しい活動を行うために、従来やっていないことが「やる」と書き記される。そして、そのことで各メンバーが今までと異なった行動を開始する。
 以前、「汝、神に代わりてデザインす」というデザイナーの気概を現した台詞を聞いたことがありますが、ここはさしずめ、「汝、神に代わりて経営戦略を立案す」、といったところでしょうか。
 経営戦略の作成においても、ボトムアップとトップダウン、両方のアプローチがあります。
 トップダウンは、思考法としてはデダクション(演繹法)と言い換えることもできます。ビジョンよりXXであらなければならない、ということで要素還元論的に要件を落として、その要件を実現するための戦略ということで組み上げていく方法です。
 ボトムアップは、思考法としてはインダクション(帰納法)と言い換えることが出来ます。これは、現状から残すものは残し、変えるべきものは変え、そして新たに加えるべきものは加える。この積み重ねをビジョンに向けて行っていく方法です。
 思考法として、もう1つあるのはアブダクション(仮説思考法:発想法)です。これは、トップダウンのボトムアップのどちらから出発するのではなく、現状からビジョンへの変革を実現するための経営戦略を、自らの発想で仮置きして、その有効性をボトムアップ、トップダウンの双方から検証するアプローチで、現実にはこの方法が多く用いられます。
 ベスト・プラクティス・アプローチとは、この仮説を得るために、同じ業界のベンチマーク企業や、他業界のベンチマーク企業に、この仮説の源を頼ることとほぼ同意です。ただ、このアプローチを採用した場合、競合企業に近づくことは可能であっても抜きん出る事は出来ないので、これだけに頼るのは良くないと思います(現実は、すぐに事例はあるのか? という話になるところ、日本企業の本質的な課題の1つかもしれません)。

経営戦略の目次


 企業の現状、そしてビジョンの中身に応じて、個々の経営戦略においてあるべき目次は大きく異なります。ここでは、あくまで1つの例として、私が標準的に考える経営戦略の目次を示しておきます。くどいようですが、この内容に囚われて思考停止にならないよう、気を付けてください。
企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表
10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現
KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす
企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す
企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表
10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現
KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす
企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す
企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表
10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現
KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす
企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す
・ ビジョンを実現するために必要となるパラダイムの転換
 XXからYYへ、PPからQQへ、といったものを、3つくらい(多くて5つ)並べる。
・ 主要課題に関してその背景と現状の理解
 ビジョンを実現するための主要課題とその背景を、現状との対比で示す。
・ 企業活動の主要要素別ギャップ
 企業活動の主要要素別に目標と現状のギャップを、それぞれ上限5項目程度で示す。箇条書きレベルでOK。
・ 事業戦略
 柱となる売り上げ、収益、事業分野の数字に関して、現状から10年後の目標値まで時系列で数字を示すとともに、前提となったその拡大と絞り込みに関する戦略レベルの方針や主要なイベントを記述。
・ 分野別戦略
 企業活動の主要要素別に現状から10年後の目標値まで、時系列的に示すとともに、前提となった戦略レベルの方針や主要なイベントを示す。一般的には、人材、組織、技術、製造、マーケティング・販売、物流、購買、経理・財務、ブランド、IT・・・これをある程度のまとまりに括るか、重点部分を取り出すか、押し並べて述べていくか、ここは好みと議論が分かれるところです。
・ 実行計画
 実行にあたっての体制、プロジェクト管理、投資計画、次フェーズ(直近1年程度)の実行計画、その他留意点、など。


 判り易いように、先週作成したビジョンを、網がけをして前半に付けておきました。ここに書いた戦略の内容は、かなり詳細な実際にフィーをいただくようなレベルです。マイビジョンでは、ここまで詳細に記述する必要はないでしょう。項目をまとめる、もしくは、焦点を絞り込むようなことを行い、自分で納得のいくマイ戦略を立案してください。
 次回は、最後のまとめとして、マイビジョンをどのように活用しつつ育てるか、という観点の議論を中心に、書いて行きたいと思います。

2009年9月7日月曜日

さあ、「ビジョン」を作ろう 準備完了。次の段階へ

ここまで付いてきてくれた皆さん、多少お疲れですか?  疲れをいやすには、改めて、皆さんが作成してきたものをじっと眺めて下さい。目の前には以下の資料、そしてその後ろには、本の山があるはずです。
(※編集部注:この連載「戦略立案のプロ」は環境変化が激しい時代の「ぶれない戦略づくり」を一から解説する実践コラムです。是非、最初からお読み下さい。一覧はこちら
これからの世界、そして日本に関する相場観
自社の本質的な強みと弱み、そしてそれに対する、世代毎の意識や価値観の違いに関する補足
10年後の外部環境に関するメインシナリオ、そしてリスクシナリオX、Y

 どうですか。一時的な満足感を、味わっていただけたでしょうか。この4週間の蓄積で、自分自身、何か変わったような気がしますか?
 おそらく、ほとんどの方は、そのような実感は無いでしょう。
 でも、それで良いのです。私の知る限り、多くの「一皮剥けた」人たちは、後になりその瞬間を振り返り、「その瞬間、眼の前の霧がさーっと晴れたような印象を持った」とコメントしています。その様な瞬間が訪れるまでの間は、ひたすらもがくしかありません。めげずに、もがいて欲しいと思います。
 これから作成するビジョンと戦略を、先週の図に乗せるとこのようになります。完成に向けて、いよいよ8合目、頑張って行きましょう。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、ビジョンに関する相場観を持とう


 それでは、マイビジョンを制定するために、まず自分が気になる会社のビジョンを眺めて、眼を肥やしていきましょう。
 ここでは、日本を代表するいくつかの会社のビジョンを、インターネットを通じて観察してみたいと思います。
 まず、なんといってもやはり、日本を代表する企業である「トヨタ自動車」から。
 トヨタのHPには、理念やフィロソフィー、豊田綱領、社長あいさつのビデオなど情報満載ですが、このページが、この連載で作成しようとしているビジョンに近いものだと思います。
 ここで述べられている、3つのサステナビリティは、今後長期の間において、トヨタが向かうべき方向性(ベクトルの方向)を示しているように思います。
 私たちのマイビジョンでは、これに加えて具体的な実現形態をイメージさせるものが必要になってきます。
 では次に、流通の雄、「イオングループ」を見てみましょう。
 これは何とも、外部から見る人には判断がし難いものです。このような類のものを見慣れている私にも、正直、この絵が言わんとするものが何なのか、良く判らない。この絵に関して社内で教育を受けた人は、良く判っているのでしょうか。
イオングループのHPをもう少し見ていくと、次のような情報を見つけました。こちらが、ビジョンに近いものでしょうか。
 ただ、これは将来に向けたありたい姿というよりは、社長の挨拶を含め、単に現在の経営方針を示しているだけのように見受けられます。どうも、いまいちしっくりこないですね。
 ちょっと意地悪ですが、イオングループの子会社でどこかビジョンをくっきり示しているところが無いかと思い、探してみると有りました。東北の地場スーパーである「サンデー」です。
 どうです、HPの作りははっきり言って旧時代的ですが、この内容はとても良いですね。くっきりと、「ありたい姿」が浮かんできます。内容的には、私たちが目指すマイビジョンに近いものかもしれません。
 こんなことをやっていると終わらなくなるので、最後にもうひとつだけ、「ふくおかファイナンシャルグループ」を見てみましょう。
 まず、経営理念
 次が、経営の基本方針と称して、第2次中期経営計画のサマリーです。
 これも良く有るパターンです。理念と中期経営計画があり、残念ながらビジョンが無い。理念から現状、そして想定される経営環境をもとに到達すべき姿としてのビジョン、そしてこの中期経営計画で5W1H(Who、What、Why、Where、When、そしてHow)がきちんと説明をされていれば、完璧です。
 要は、理念と計画を融合させ得るような、あるべき姿=ビジョンがあればよいのです。ここまで整理されているのに、とても残念です。
 日本には、このようにビジョンを暗黙知的にあいまいなまま放置している会社が、今でも沢山あるのではないでしょうか。これが日本企業にいまひとつ活力が湧かない根源的原因だとすれば、とても残念です。

ビジョンの構成要素


 ビジョンの構成要素に関しては、色々な考え方が存在します。例えば、先週ご覧いただいた「21世紀日本のビジョン」や「日本21世紀構想」などの日本のビジョンは、構成要素が相当に多いです。これは、国家という、きわめて複雑なものを扱っているからです。
 また、レポートの内容に関しても、相当な内容の厚さが有りました。これは、構成要素が多いことも勿論ですが、ステークホルダーの数が、作成者、評価者、読者のそれぞれで非常に多く、多岐多様にわたることも原因の1つです。
 コーポレートビジョンなども、一般には、きちんとまとめる努力をしないと、ついつい厚くて項目が多いものになりがちなので、注意が必要です。
 実際、人間の頭はあまり複雑なものを大量に体系立てて覚えることに、必ずしも適したものではありません。私が普段心がけているのは、セミナーやスピーチでは、メッセージは3つ以内、どんなに多くても5つに抑えることです。
 ビジョンは、共有され常に参照されてこそ、初めて意味があります。そのためには、皆さん自身の頭の中に簡単に入り、常に取り出して説明することが可能な状態にしておく必要があります。
 私は、1990年代の初めに、アンダーセン・コンサルティング・ジャパン(現在のアクセンチュア株式会社です)の2000年におけるビジョン、2000ビジョンをプロジェクト責任者として作成しました。いまでも覚えている中身は、以下のようなものでした。

・ 2000年にコンサルタント2000人の組織を実現する
・ 年間20億円を売り上げるプロジェクトを10つくる
・ 新卒者の就職人気ランキング20位以内
 等々、非常に簡単なものでした。しかも、驚くなかれ、これらすべての目標を、2000年にぴたりと達成したのです(正確には、就職ランキングはもう少し早かったですが)。
 みなさんが作成するマイビジョンも、主要なメッセージの数は絞り込み、内容の説明等含め、最終的にはA4版の紙で1~2枚に収めることを強くお勧めします。
 ビジョンを考えていくうえでの構成要素として良い手掛かりになるのは、以前、10年後の経営環境を考えた際と同様に、「フレームワーク」です。これを活用すると、漏れ・ダブリが無く(コンサルタントはこれをMECE : Mutually Exclusive Collectively Exhaustive ――「お互いに排他的」で「完全な全体」、と呼びます)企業活動を捕えることができます。

ビジョンを考える前提としての企業活動フレームワーク


 昨年、中曽根元総理にお会いした際、経営コンサルタントであることを自己紹介した私に対し、元総理は次のように仰いました。
 「企業なんて簡単でしょう。政治は複雑系ですから、私が扱ってきたテーマは、相当に難しいですよ。決まったパターンなどなく、臨機応変な対応が重要。今度教えてあげましょうか」
 長年苦労してきた身からすると、企業も決して簡単だと言い切ることはできませんが、最近、もう少し大きな単位で、多数のステークホルダーが登場する状況、例えば高齢化者医療に関する社会システムなど、現代日本の諸課題を議論するような機会があるたび、元総理の教訓を実感します。
 少し話が脇道にそれましたが、元総理に言わせると簡単な(!?)企業というものを単純化して考えるモデルは、世の中にいくつも存在しています。
 例えば、経営学に関する各種書籍、ハーバード・ビジネスレビューの論文や、主要なコンサルティング会社などの論考レポートを読むと、ビジョンや企業戦略を考えるにあたっての企業活動フレームワークを発見することが出来ます。そのようなあまた有るものの中から、しっくりくるものを探してくれば良いでしょう。
 ちなみに、最近のコンサルティング会社HPにあるレポート類の内容は、かなり充実しています。「えっ、ここまで書いてあれば、コンサルタントに頼まなくてもあとは自分たちでできてしまうではないか」と思わせるような内容が、動画やプレゼンテーション・コンテンツを含め、山ほどあります。
 中には、WEBプレゼンのREPLAY(これは事前登録制で、WEBカンファレンスの参加者を募集し、カンファレンスでは企業の人間とコンサルタントがプレゼンを実施、そして参加者のQ&Aに音声、メール両方で答えている、そのREPLAYなどという有り難いものです)といったリッチな情報が、英文HPを見るとふんだんにありますので感無量です。
 察するに欧米では、経営課題に関する検討をコンサルタントに委託することがより一般的に行なわれているため、情報を公開することによるプロモーション効果がより高いため、このような状況になっているのではないかと思われます。
 雑誌や本などを読むより、課題そのものにフィットした今日的な内容が多い(もちろん無料なので肝心のところは隠れていることも多い)ので、企画部門の方なら、たまにチェックしてみることをお勧めします。

下手をすると、日本法人のコンサルタントなどは、そのような内容がWEBにアップされていることを知らずに、その翻訳版を作ってさも得意げにプレゼンをしたりしているケースも想像できなくはないので、先回りをして予習をしたうえで、多少厭味な質問をしていじめてあげましょう。そうすれば、次回からより緊張感を持って充実した内容で臨むはずです。
 COPYRIGHTは、各社それぞれ規定があると思いますが、「社内文書に引用を付けて掲載したい」と言えば、まず断られることはないと思いますので、企画文書などに積極的に活用するのも良いでしょう。問い合わせを実施すれば、他にも、使えそうなコンテンツを、色々とアドバイスしてくれるかもしれません。特に大企業の方は、コンサルティング会社はメルセデス・ベンツのディーラーだと思って、いくらでも要求をすればよいと思います。
 ここでは、そのような探検をする時間が無い方の為に、日ごろ私が使い慣れたフレームワークを提示しておきます。あくまで1つの例として、参考としてください。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ビジョンを考える切り口


 さて、いよいよマイビジョンを考えます。では、どのような切り口で考えましょう? 10年後の環境を想定したときに、自社がかくありたいという姿を、どのようにして考えるのでしょうか?
 1つには、自社の10年後における(相対的な)役割、という観点だと思います。あらためて、SEPTEmberのフレームワークを使いましょう。
・ 社会がこうなる
・ 経済がこうなる
・ 政治がこう変わる
・ 技術がこのように進歩する
・ 環境問題がこのようになる
 その時、顧客や社会が求めるものは何かを考え、そのような環境における戦略的成功要因(KFS:Key Factor for Success)は何であるかを考える。そのような状況において自社の役割や社会・業界におけるポジションは、どの様なものとなるであろう、いや、どの様なものでありたいか、ということを考えるのです。これは、外圧的に外側から考える切り口です。
 もう1つの切り口は、自らの会社が主として組織や経営理念の観点から、どのような会社になりたいか、或いは、なっていなければならないか、ということを考える方法です。
 この場合にも、SEPTEmberの各構成要素に照らして、自社がどう変わっていかなければならないか、という観点でKFSを考えていくことが必要です。これは、内在する要素の進化という観点で、内側から考える切り口と言えます。
 他にも幾つかの切り口が考えられますが、ここではあえてこれ以上は書きません。好きな人はぜひ自分で勉強してください。
 例えば、チャン・キムのブルーオーシャン戦略には、様々な示唆が含まれていると思います。なお、私の友人でチャン・キムの公認弟子として、「日本のブルーオーシャン戦略」という本を書いた安部義彦に言わせると、「日本語訳は真髄を含め多く誤解を招くので原書を読むべし」とのことですので、ぜひ頑張ってください。

ビジョン作成に関する二つのパス


 考える切り口を理解したら、いよいよ作成に取り掛かります。それではビジョンと戦略は、アプローチとしてどのように作るのでしょうか?

作成の順序としては、まず、最初にビジョンを作り、次にそれを現状から実現するための戦略を構築します。そしていくつかの切り口で主要な要素を考えた上で、ビジョンとしてそれを構築し書き記すためのアプローチは、通常、2つのやり方しかありません。
「自社の将来像はかく有るべきだ」、との自らの強い思いから、ひらめくまで修行僧のように考え続け、ひらめいたら一気に書き下す
現状から、変えてはならないところはそのままに、変えなければならないところは変え、足らざる部分を追加する。従って、1つの紙を温めながら、項目や文章を書いたり消したりを繰り返す
 この2つのやり方に関して、どちらが正しい、とか、成功確率が高いか、といったことはありません。敢えて言えば、ひらめくときにはひらめくので、ひらめいたなら前者のやり方が正しい、ということになりますし、いくら考えてもひらめかず、そのうち、適当なところで妥協する、あるいは、放置するようになってしまったなら、後者のやり方を試みるべきであった、ということなのだと思います。
 また、ひらめきと単なる思い付きは紙一重なので、当然のことながら注意が必要です。前者の方法に依ったとしても、改めて多方面から検証してみると単なる思いつきであった場合は、再び呻吟することになります。

ビジョンの目次例


 ビジョンに定型はありません。表現方式が、文章、絵、音、何でも自由なのも、以前説明した通りです。
 ここでは、私が文章で表現する際に、下敷きとして使う目次を示します。あくまで参考のために提示するものですので、これに囚われ「思考停止」に陥らぬよう、くれぐれも気を付けてください。
企業活動の主要要素を網羅したビジョンを表現する、とことん言葉に拘った300字程度の文章。適切なものが浮かぶようであれば、それを説明する図表
10年後の外部経営環境サマリーを項目別箇条書きで表現
KFSに関して、外部環境、もしくは内的な視点のいずれか、あるいは両方から、項目別に箇条書き、もしくは複数の項目を包含した文章の形で書きしるす
企業活動の主要要素に関する目標説明。定量化できるもの(例えば売り上げや人員数など)は、定量化して示す。定性的なものも、何らかの目標として示す。これらの目標は、上記KFSとの関係でなぜそのようになるのか(WHY)を、自らの思考の根拠として記す


 ビジョンの内容は、繰り返し練っていくことが大切です。社内の人間や、便利な知人など探し、とにかく議論を重ね練りに練っていきましょう。良く、こねくり回すと良くない、などと言いますが、ことビジョンに関しては、こねてこねて粘りが出てどんどん良くなる、というのが私の体験的感想です。
 次回は、戦略の作成方法に関して、説明を進めていきたいと思います。

2009年9月2日水曜日

必要なのは「未来環境シナリオ」と「ビジョン」と「戦略」

「10年後の未来環境シナリオ」の描き方

前回の社史とその周辺を研究してみた結果は、如何でしたか?

きっと、それなりに色々な発見が有ったのではないかと思います。そこから紡ぎだされた自社の強みと弱みに対する仮説も、しっかりと紙に書きましたね。時代の相場観が、A4の紙でせいぜい2~3枚、強みと弱みに関する仮説が1枚、合計で3~4枚でしょうか(個人差あります、無論)。

しつこいようですが、思考停止の罠に陥らないようにして、これからそれを磨いていく(場合によっては一から書き直してしまうこともあるでしょう)、その継続的な努力を忘れてはなりません。


10年後を考えてみる

さてここから、作成した10年+を見据えた資料を常に参照しながら、いよいよ長期的なビジョンと、実現するための戦略を考えていきます。では、長期といえば、どれくらいの期間を考えるのでしょうか?

業種や企業の社齢、あるいは企業時計の速度により異なる部分はあると思いますが、ここでは、想像可能なぎりぎりの時間軸、10年程度先を考えていきたいと思います。

どこからか、「このような時代の転換点で、10年先のことが判るのか!?」という声が聞こえてきそうです。確かにごもっとも。そんな先のことが判るようであれば、何にも苦労はありません。

「今回の金融危機のようなことが起きたら、状況は全く変わるじゃないか!?」これもまた、もっともな指摘です。このような100年に一度とも言われるような不連続な変化は、簡単に予測できるものではありません。


マイビジョンとコーポレートビジョン

ここで重要なのは、色々な要素を織り込み、とにかく自分で将来の状況に関するシナリオを作り上げていくことです。

自分で作成した、隅から隅までを理解した未来環境シナリオ、そしてその上に構築した自社のビジョン、それを実現するための戦略。この3つのセットを、常に調和のとれた形でメンテナンスしていくことが、すなわち、長期的な視点とぶれない機軸を維持することになるのです。

想定した10年先の状況に関して、その前提が変わった場合、それに応じて必要であればビジョン、さらには戦略を見直していく。その出発点としての整理が今回の作業なのだと理解してください。


ここで1つの注意すべき点があります。それは、あなたが作成するビジョンはマイビジョンであるということです。

コーポレートとして公式のビジョンや戦略を描く場合、より多くの要素を網羅的に検討することが求められます。それはコーポレートという、多くのステークホルダーによって構成されている組織として、ある意味当然なことです。

ただ、往々にしてその結果、(企業の性格にもよりますが)一般的には、最大公約数的でリスクに対して慎重な、勝つことより負けないための要素を重要視したものが作成されます。

マイビジョンには、より大きな自由度があります。スタンスとしてリスクを取るのも良いし、極端に保守的になるのも良い。また検討における網羅性は、必ずしも必要条件ではありません。

したがって、私がこれから提示するアプローチは、巷に溢れる経営ビジョンや戦略の本に書いてあるコーポレートビジョンを前提とした内容とは、多少異なった部分があることをご了解願います。
もちろん、底流に流れる思想や方法論は同じですし、マイビジョンの構築が目的ではなく、コーポレートでビジョンや戦略構築を行う際の参考にしたくてこれを読んでいる方の為に、その違いは、なるべく正しくコメントしていくつもりです。

そもそもビジョンとは、そして戦略とは何か


ビジョンは、世の中において語られている重要な概念の中で、人によりその定義のばらつきがとても大きなものの1つです。ビジョンは将来の姿であり、像であり、理解するよりイメージできるものであると言われます。そしてその表現形式には、言葉もあれば、ビジュアル、音声、何でも使うことが出来ます。
例えば、私の友人にして大企業の社長は、自社のビジョンや経営戦略に関して、言葉や数字ではなく絵で描きます。ビジョンには、およそ表現形式に制約はありません。
それでは、コンテクストはどうでしょう? 必ず、姿であり像を描かなくてはいけないのでしょうか? ここでちょっと時間を使って、わが日本政府がこの10年のあいだ作成した、2つのビジョンを観ていただきたいと思います。

日本21世紀ビジョン(香西泰専門委員会会長:2005年)

・開かれた文化創造国家
・時持ちが楽しむ健康寿命80歳
・豊かな公・小さな官


21世紀日本の構想(河合隼雄座長:1999年)

・日本のフロンティアは日本の中にある―自立と協治で築く新世紀―


いかがですか、クリックをして要旨だけでも見ていただけましたか。コンテクストでいえば、「日本21世紀ビジョン」は、さすがにビジョンと書いてあるだけに、将来像と経済の姿と銘打っていますし、内容にもそれらしきことが書いてあります。
一方、「21世紀日本の構想報告書」に関しては、特にビジョンのコンテクストでは書かれてはいません。むしろ、起承転結を重視して、21世紀に向かう日本が向かうべき方向を、箇条書きで示す方式がとられています。
しかし、果たしてどちらの内容が、より将来の姿(=ビジョン)をくっきりと示してくれるでしょう。私には、どう見ても、ビジョンのコンテクストで書かれていない「21世紀日本の構想」のほうが、遥かにくっきりと将来の姿を示してくれているように思えます。
この原因はなぜでしょう。言葉の錬度、項目の順序、網羅性、文章の統一感・・・そして何よりも、ほとばしる気が感じられること。そのようなさまざまな要素が絡み合い、ビジョンを表現するのです。
余談になりますが、この両方を読み比べて内容の品質を評価し、かつ内容の扱い方、例えば説明会の在り方や外国語への翻訳対応(「21世紀日本の構想」は英中韓の3カ国語翻訳を掲載:「日本21世紀ビジョン」は英語のみ)を見ると、わずか6年の間に日本が劣化しているのが良く判りますね。
おそらく実現されると思われる民主党政権では、このようなディテールをぜひ大切にしていただきたいと思います。竹中平蔵氏が常日頃言っているように、真実は細部に宿るものです。

シナリオ・プランニング


シナリオ・プランニングは、不確実な未来に備えるため起こり得る複数の未来環境を定義する手法で、ローマクラブの「成長の限界」の作成などに用いられました。
そして1980年代にシェルグループが、この手法を用いたセッションを定期的に繰り返すことで、ゴルバチョフの登場から共産主義ソ連の解体を比較的早いタイミングで戦略に織り込むことが出来たため、結果的に大きな利益を上げたことで一躍有名になりました。
シナリオ・プランニングは、水晶玉で未来を覗くためのものではありません。むしろ、将来の不確実性を具体的なシナリオという形で可視化することにより、共通認識や戦略の構築、あるいは意思決定に活用していくための方法です。そのスコープとしては、世界経済や社会に関して地球レベルで行われるものもあれば、企業の戦略立案のため日本国内のXXに関する市場、といったニッチなレベルのものまで幅があります。

具体的な展開にあたっては、様々な目的が考えられますが、不確実性が将来へ与える影響をなるべく少なくするような戦略を構築するために活用されることが多いようです(将来どのようなシナリオが具現化しても、過度のリスクが具現化しないような対策を講じる、あるいは生きる投資や戦略的な方向性を採用する)。
シナリオ・プランニングに関しては、インターネットで様々な情報を拾うことも可能です。探していくと、実績のある研究所が出した米中関係今後のシナリオとか、世界のエネルギー需給に関するシナリオなど、面白そうなものを掘り出すことが出来ますので、興味のある方は検索をしてみてはいかがでしょう。
また、内容をもっと理解するためには、何冊か出版されている本のどれかを選んで読んでみたらよいでしょう。定番本に近いものは、以前にちょっと話題になった、ピーター・シュワルツが書いた『The Art of the Long View』(邦題は『シナリオ・プランニングの技法(Best solution)』。1991年に出版されたこの本の中で著者は、大胆にも2005年の世界をシナリオ・プランニングで予測しています)ですが、訳書は残念ながら絶版のようです。

シナリオ・プランニングで考える、あなたの会社の10年後における環境


【変化ドライバーの抽出】
さあ、いよいよシナリオ・プランニングの手法を使って、10年後、あなたの会社が置かれているであろう、外部環境を予測してみましょう。
そのためには、まずこの10年で大きな変化が予想され、かつあなたの会社が影響を受けそうな要因を抽出します。貴方がここまで作り上げてきた相場観を、自社の歴史と現状における強みや弱みと対比させ、外部環境として、よりデジタルにするための試みを行うと、考えていただいて良いでしょう。
具体的には、以下のようなフレームワークに基づいて、変化ドライバーとなり得る項目として思いつくものを、抽出していきます。
マクロなフレームワークとして用いたのは、SEPTEmber(STEEPと呼ぶ人もいます)、ミクロなフレームワークとしては、マイケル・ポーターのFive Forces Modelをベースとして使いました。もちろん、PESTや他のものでも構いません。あなたの相場観を参照しつつ反復しながら、変化ドライバーとして考えられるものを、各項目について、出来れば3~4要因は最低でも抽出していただきたく思います。
なかなか項目を出すのが難しいようであれば、現社長の就任演説や現在の経営計画、もしくはアナリストレポートなどが有るならそれも、読んでみるのも良いでしょう。業界本なども、場合によっては良いかもしれません。
ただ、くれぐれも短期的な視点にとらわれず、中長期の視点で要因を抽出するように心がけてください。そのような資料や本は、私の知る限り、網羅的で長期的な視点を持っていることは、ほとんど稀です。くれぐれも、そのようなものを読んだ結果として、「思考停止の罠」に陥らないように気を付けてください。
【重要要因の特定】
次に、抽出した変化ドライバーを、自社へのインパクトを縦軸、予測可能性を横軸にしてプロットしてみます。付箋紙などを使っても良いでしょう。この中で、自社にとってインパクトが小さい項目に関しては、特に取り上げる必要はありません。インパクトが大きくても、比較的予測が可能な項目に関しては、環境の記述項目にはなりますが、特にシナリオの軸になることはありません。自社へのインパクトが大きく、かつ向かう方向について現時点で両論がある要因を、シナリオの軸として抽出します。

【想定される4つのシナリオを描いてみる】
そうして、シナリオの軸として選んだ要因を、X軸、Y軸において、想定される4つの世界を定義してみます。この作業は、軸を色々と入れ替えて、自分がしっくりくるまで繰り返してみます。各シナリオに、名前を付けてよりイメージをくっきりさせるのも、良いでしょう。
【マイビジョンのメインシナリオを選択する】
コーポレートビジョンを作成する場合、ここからさらに各シナリオの世界をより詳細に定義・分析の上、それぞれの場合における戦略を作成し、その中で共通のKSF(キー・サクセス・ファクター:主要成功要因)を抽出する、あるいは各シナリオの実現に至る過程での特徴的なEWS(アーリー・ワーニング・サイン:先行指標)を抽出し、戦略実行段階の方向性に関する時系列的な選択肢を定義することを行い、最終的にビジョンとして取りまとめます。
しかし、今回作成するマイビジョンでは、自分として将来の世界として最も可能性が高いと思われるシナリオを、メインシナリオとして選択します。すなわち、あなたがここまで養ってきた将来に関する相場観を、企業外部環境に関する将来のシナリオとして、定義をするのです。
さらに、もう1つの工夫を加えます。それは、変化ドライバーとして、現状から大きく変わるものを2つの軸とするように再構成することです。このことにより、メインシナリオにおける外部環境は、現状からの変化ということでよりくっきりとします。
ここまでの作業において、蓋然性(がいぜんせい)が高い変化ドライバーを抽出して整理してきたものを、メインシナリオを選択することであえて予測し、そうして必要ならば(メインシナリオを選択した際、将来について変化ドライバーが現状からあまり変わらない場合を選択した場合には)、別の変化ドライバーとして現状から変化が有り、かつ自社への影響が大きなドライバーを探す作業を行います。
その結果、シナリオ・プランニング本来の目的からは多少逸脱しているかもしれませんが、以下のようなメインシナリオを中心に、現状、2つのリスクシナリオの合計4つの世界で構成される、あなたが考える10年後の外部環境シナリオが作成できるはずです。
くどいようですが、このシナリオに関しては、とにかく自分がしっくりくるまで繰り返し試行の上、定義してください。周囲の人といろいろ議論するのも良いでしょう。そもそも構築に際して、グループで取り組むことが出来れば、より完成度が高いものが作成できる可能性が高まります。
ただ、最後は自分の決断と納得感です。それが無いと、ぶれない基軸にはならないことに留意願いたいと思います。
次回は、ここで定義した10年後のシナリオの上で、ビジョンと戦略を作る方法について、説明して行きたいと思います。
なお、前回の内容で、テレビ番組のコメンテーターに関する部分、多くコメントをいただきました。
私が指摘したかったのは、テレビ番組でステレオタイプな如何にも浅いコメントが、ある種の害を流していることです。
細かく指摘するときりが有りませんが、例えば、つい最近もある歌手のコンサートに対して、インターネット掲示板に殺人予告があり混乱したとの報に対して、あるコメンテーターは以下の主旨を発言しました。
――インターネットの時代になり、このような事が誰でも出来るようになり、警察が捜査する手間もかかり大変だ。何らかの対策が必要。
これに関して、私は以下のように思います。
――インターネット以前にも、新聞社やTV局に脅迫状を送ることは誰でも出来た。
――愉快犯の数、警察の捜査コスト等、インターネット時代である現代において定量的な負荷はどうなのか?
――ストレートに読むと、インターネットに何らかの規制が必要なように読めるが、妥当か? また、仮に規制するとして全面的閉鎖以外に何らかの方策が有り得るのか?
――このコメントを聞いた素直な人たちには、「インターネットは危ないから規制をしたほうが良い」という印象が頭の中に残ることが予想されるが、果たしてそのことは正しいのか?
皆さんの考えはどうでしょう?