2010年12月14日火曜日

私たちはいつから“バカ”になったのか? 「思考停止」状態から逃げよう

某大手超優良企業の常務取締役でカンパニープレジデントを務める筆者の親しい友人は、いつも忙しそうです。昼間は様々な仕事に追われ毎週末仕事を自宅に持ち帰り、現クォーターの決算や翌クォーターの計画、新規事業の計画を並行してこなしながら海外出張を月1回のペースで繰り返すその姿は、正にビジネス・エクゼクティブそのものです。

超大企業の常務の悩み

 そんな彼が良くぼやくのは、直面する数々の課題をこなすことに忙しい周囲の人間との話題不足。ビジネス以外のテーマに関して、ワイドショー的な底の浅い話は出来ても、そこから先の長期的な話や、世界や日本の政治、科学、経済、宗教、文化を俯瞰する話になるとお互いにネタが続かないと。
 企業などでスピーディな意思決定を合理的に行うためには、タイムスケールを近い将来に置き、自らの理解と影響力が及ぶ範囲に前提を置く事が必要となります。結果として、各人はどうしてもタコつぼ縦割りの中での意思決定になりがちです。
 最近の企業や役所は、四半期決算やころころ変わる政権や大臣のせいで常に刹那を生きているため、組織内部における意思決定の優先順位の中、長期的かつ俯瞰的な視点は思いっきり下がっています。
 そして、テクノロジーの進化により、日常はどんどん忙しくなって行く。携帯電話がスマートフォンに転換したことで、いよいよ、ビジネスパーソンにとっては最後のリゾートで有った電車の中やトイレまでが、仕事場になろうとしています。
 こんな時代に生きる我々は、長期的かつ俯瞰的な視点で考え話す機会を意識的に自ら作りだしていかない限り、一見、自分に関係のないように思われる政治、外交、社会、グローバルといったテーマに関しては、思考停止の状況に容易に陥ってしまうのではないでしょうか? 健全な知識層の衰退は、日本にとって危機的な状況をもたらします。
 私は、思想家や学者ではありません。守るべき立場や代表する組織もありません。ただ一介の経営コンサルタントとして顧客と共に悩みつつ、2000年からISL、九州アジア経営塾、東大EMPなどの次世代リーダー育成塾を通じて、平均年齢45歳程度の企業や官公庁における将来のリーダー候補たち数百人と共にずっと学んで来ました。
 最近は、私が政府関係の幾つかの委員会メンバーに就任した事で、学んだ事を実践すべく、受講生や修了生のボランティアメンバーと共に議論を重ねながら政策の立案に臨み、それをプロジェクトとして具体的に実践していく活動に励んでいます。私がその中で拘っているのは、とにかく長期的かつ俯瞰的な視点に立った議論を行うこと。議論の場ではとかくそのような視点が欠けていることが多いので、しつこいくらいに拘っています。
 これから始まる連載の中では、このような学びと実践の中から私の身の丈で獲得したエッセンスをさらけ出すことで、皆さんが長期的かつ俯瞰的な視点の中で、仲間や友人、家族と話していけるようなネタを提供して行きたいと考えます。
 数十年という長期的な時間の中で俯瞰的に物事を見ることによって、現実に起こっている事柄がまた違った色に見えてくる。そのような経験を少しでも多く味わって頂きたいと思っています。

 

日米中の関係を考えるヒント

 本日の1回目は、尖閣問題で話題の日米中の関係を取り上げてみたいと思います。
 最近、中国の台頭がいたるところで話題になっています。確かに、中国経済は日本を抜き世界第2位になり、その差は開こうとしています。しかし一方で、1人当たりのGDPや技術レベルなど、日本の方がまだまだ大きいので捨てたものではない、との議論もあります。定量的に見て現在はどのような状況に有るのか、そして過去から現在に至るまでの経緯はどのようなものであったのでしょう? そのことを理解するために、相互の輸出比率を相互経済依存度として定量化してみたのが、次のグラフです。


 

このグラフをどうご覧になりますか。1990年、中国の輸出相手先として断トツの一位は日本です。一方で、日本にとって中国はマイナーな輸出先の一つに過ぎませんでした。
 ところが、2009年になると、中国にとって日本は10%以下の輸出相手先です。一方で、日本にとって中国は米国を超え最も重要な輸出相手先になっています。つまり経済面で見ると、この20年、特に2000年以降の10年間、日本と中国の立場は劇的に変化したのです。

尖閣列島の問題で、なぜ中国があそこまで強気になれるのか、そして日本が、ともすれば弱気と思われるような対応に終始したのか、根本的な理由はここに有るのです。
 そしてこのチャートを見る限り、現在の傾向が未だ暫らく続くとすれば、差は更に拡がっていきます。
 かつて日本は強大な軍事力と経済力を背景に、台湾から遼東半島、上海、満洲国と中国に浸食して行きました。ともすれば清朝末期の状況を彷彿させる我が国は、尖閣列島はおろか沖縄、九州と失っていくことになるのでしょうか? もし米国という強力な後ろ盾を失えば、それが現実味を帯びて来ます。米中の狭間にある我々のジレンマが、そこに有ります。
 そして北方には、再び強大化しつつあるロシア。我々は、転換期にある世界に於いて、極めて戦略的に国の舵取りを行っていかなくてはなりません。
 長期的かつ俯瞰的に考えるために、まずはこの20年を振り返ってみましょう。

 

20年間の出来事を振り返っておこう

 1989年には色々な事が起こりました。6月3日には、前年から政界を揺るがしたリクルート事件の結果竹下内閣が退陣、翌4日には、中国で失脚したまま軟禁状態に置かれていた胡耀邦元総書記の死を契機に発生した天安門事件が、悲惨な流血の事態を迎えました。12月にはベルリンの壁が崩壊、そして日本のバブルは頂点に到達しました。まさに歴史的な転換点の年であったといえるでしょう。
 そして迎えた1990年、激動の余燼がくすぶる中、天安門事件の直後で世界から孤立する中国にとって、あらゆる意味で日本はクリティカルな国でした。経済的にも最大の輸出相手国であり、世界との関係に於いて、孤立を避けるため何としても歓心を買わなくてはならない相手が日本でした。一方で、日本にとって中国は過去の経緯から特別な関係にあり、かつ将来的に重要な国、しかし、安全保障や経済面からみる限りは、それなりに重要ではあるが決してクリティカルな存在ではありませんでした。
 世界から孤立する中国は、危機感を強めていました。香港やマカオからどんどん人材と資金が流出し、日本を除く世界の先進国は中国の留学生すら受け入れません。日中友好、一衣帯水、そのようなスローガンが叫ばれ、公式非公式を問わず様々なレベルで、中国から日本への働き掛けが繰り返されました。
 そして、中国との関係を重んじる日本人たちの尽力で、日本は1990年の末に第3次円借款8100億円を再開しました。次に、中国の硬軟織り交ぜた懇願に応じる形で、1992年には天皇訪中を実現、結果としてその動きに先導されたように西側諸国は中国との交流を徐々に再開しました。
 一方で中国は、西欧諸国との対立を尻目に、長年の懸念で有った(1960年代には軍事紛争さえ発生した)ロシアとの国境画定に着手しました。まず1991年、ソビエト連邦が崩壊する直前というタイミングで、極東の国境線を中国に有利な条件で画定しました。1994年には中央アジア部分を画定、その際には並行して独立後の混乱が続く中央アジアの旧ソ連諸国とも国境を画定。そして2004年にはプーチン大統領と胡錦濤国家主席の政治決断で、全てロシアが実効支配していた3つの島を、両国で2つに割る形での決着という、中国にとっては非常に好ましい条件での合意に到りました。
 新たに大国としての道を歩み始めたロシアにとって、中国とのパートナーシップを確立することは極めて重要で有り、そこを突いた中国の交渉の積み重ねが、見事な成果を生みました。
 天皇訪中を皮切りにした西欧諸国との交流再開以降、中国がGDPで日本を抜き去るまでは経済的にはほぼ一本道でした。日本の高度経済成長と同様におよそ20年この傾向が続いたとことは、中国がそもそも有しているポテンシャルの高さに加え、中国指導部の統治能力の高さを証明しているような気がします。そして今、中国はいよいよ鄧小平の遺言「能ある鷹は爪を隠す」を破り、その爪を剥き出して来たのです。
 そのような中国に対して日本は、経済的な国力という意味ではピークを迎えていた1989年から今までの間、何をしたのでしょうか?

 

残った実績は結局、「ODAをひたすら提供したこと」

 外交的には、とにかく援助を行いました。ODA大国ということで、日本はどこに行っても歓迎され、国際機関におけるポストも増え、世界的な評価も高まりました。一方で、懸案であった領土問題に関しては何ら実質的な進展がなかったのは、尖閣列島や北方領土の問題が顕在化したことで改めて明らかになりました。
 最近の外交に関する諸問題を見て、経験のない民主党内閣や閣僚の稚拙さを揶揄することは簡単ですが、本質的には長年の不作為がもたらした問題が一気に噴出しているということであると思います。
 それでは民間はどうでしょう? ロックフェラーセンター、コロンビアピクチャーズその他、多くの巨大米国企業の買収は、ことごとくと言っていいほど失敗し、巨大な損失を出して撤収をしました。日本が国力のピークを迎えた際、成果として誇るべきものはとにかくODAをひたすら提供したことです。世界は日本を歓迎しました。


しかし残念ながら、それは国益という観点では、領土問題の解決や国連における地位強化といった見るべき成果を残していません。
 皆さんと一緒に議論するため、この場ではあえて物事を単純化して言いましょう。日本にとって「中国との間で尖閣列島やガス田などの問題」に関して、少しでも日本にとって有利な取り決めをする最大のチャンスは1992年の天皇訪中の前、そして「ロシアとの間の北方領土の問題に関する取り決め」については、1991年のゴルバチョフ大統領来日から1998年のエリツィン大統領来日後迄の期間であったのでしょう。
 歴史の相場感として考えれば、この時点で日本が問題を解決していない、ことはおろかこれら領土問題に関して何ら具体的な橋頭保を獲得していないことは、残念でなりません。


 あらためて、グラフを見てください。

“大胆な提言”皆さんはどう思いますか?

 今後10年を考えると、彼我の経済的な力の差は、更に大きくなっていきます。そして軍事的な力の開きは、更に大きくなっていく事を考えると・・・ここから10年、我々は領土問題に関してどのような外交を行っていくべきでしょうか? 議論をすすめ実行に移すためあえて以下のことを提言したいと思います。
・北方領土: ロシアとの間で2島返還で国境線画定し平和条約締結。他の2島に対して日本 は、漁業権や地下資源などの特殊経済的権益、およびビザ無き渡航権を確保。合わせて、千島列島、樺太、東シベリアに対して、日本に特殊な経済的権益を認めた上で、各種共同経済プロジェクトに着手。ここには西欧諸国の参加も促す。
・竹島: 韓国の実行支配権を認めたまま、経済的権益に関しては共有する。
・尖閣列島: 日本固有の領土として支配を続けると共に、周辺へ自衛隊の配備を進める。
要は、これからも徐々に相対的な経済力の低下に伴い地位が低下する日本は、ロシアと韓国との間で各々北と西の国境問題を経済的・友好的に解決し、あくまで勃興する中国に対しては筋を通し続ける、 

という考え方です。
 
皆さんはどう思いますか?

第1回目ということで、いくつかの考える材料をお出ししました。もちろん、私の提言は一つのアイディアであり、これに縛られる必要は有りません。これから10年の外交と安全保障を、周囲の方々も含め、是非自分の問題として考えてみませんか。

2010年6月10日木曜日

『10年後の日本のシナリオ』を考える会 ~シナリオ・プランニングで未来を描く~

現在、世界は大きな時代の転換期を迎えています。

1年前を思い返してみてください。資源、エネルギー、BRICS、政権交代、高齢化、温暖化、金融危機、世界不況、あらゆる事が物凄いスピードで動いています。政治の迷走、トヨタの苦悩、ギリシャ財政破綻によるユーロ圏の危機を誰が予想できたでしょうか。さらに10年前まで遡ってみると、現在の世界や日本の状況、中国の成長をどこまで予想できたでしょうか。これからも世界は大きな変貌を遂げることでしょう。広範な領域にわたるパラダイムシフトは、我々一人ひとりにとって、危機でありチャンスでもあります。

インターネットの普及により、我々のまわりには情報が蔓延し、ツイッターを利用すれば世界中のあらゆる出来事をリアルタイムにキャッチすることができます。しかし、一過的な情報をむやみに収集し、目先の出来事に一喜一憂しても、流されるだけです。

大切なのは「ぶれない世界観をもつ」ことです。自分の中にしっかりとした「俯瞰的な視点とぶれない基軸」があれば、様々な変化に振り回されることはなくなります。 政治家や企業トップ、経済学者でなくとも、今の時代を読み、将来に何が起きるかを考え、備える力を身につけることが、とても重要な時代になってきました。

では、どうやってブレない世界観を身につければよいのでしょうか。

昨年8月から10月まで、日経ビジネスオンラインの『戦略立案のプロ』という連載記事にて、その具体的手法の1つとしてシナリオ・プランニングを紹介しました。

連載終了後、読者からの一般公募を募り、『10年後の日本のシナリオ』を考えるプロジェクトを発足し、半年間議論を続け、本手法を実践してきました。

本セミナーでは、その作成プロセスと結果をご紹介するとともに、皆様と一緒に、日本の将来について、何が課題なのか?、これから何が起りうるのか? という大きなテーマについて議論したいと思います。ぜひご参加ください。

20105月吉日

エム・アイ・コンサルティンググループ(株)
代表取締役社長 大上 二三雄

日時: 2010619日(土) 14:0017:00
場所: エム・アイ・アソシエイツ    港区赤坂4-9-17赤坂第一ビル10F
人数: 20名程度
申込方法:宮崎(miyazaki@micg.jp)宛に、以下を明記のうえメール下さい。
Subject:10年後の日本のシナリオ・セミナー参加希望
本文:会社名/職場名/氏名/連絡先TEL
(注)セミナー会場費として、一人当たり1000円を徴収します。また、応募者多数の場合は、抽選になりますのでご了承ください。
以上 

2010年4月13日火曜日

4つの基本戦略が日本を変える みんなが“自分で”考える日本の成長戦略

成長戦略を考えるための前提を揃えておこう

大上:今、大塚さんは、さまざまな役職を担当されていらっしゃいますが、前回、前々回でもお話があった「地方活性化統合事務局」という組織について、少し詳しく教えてください。

大塚 耕平(おおつか・こうへい)氏
1959年名古屋市生まれ。83年早稲田大学政経学部卒業、日本銀行入行。在職中の2000年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程を修了し博士号を取得(専門はマクロ経済学、財政金融論)。同年、日本銀行を退職。2001年参議院議員に初当選、現在2期目。鳩山由紀夫内閣にて内閣府副大臣を務める。著書に『公共政策としてのマクロ経済政策』(成文堂)、『ジャパン・ミッシング 消えた日本、再生のカギを考える』(オープンナレッジ)など

大塚:地方活性化統合事務局には、各省庁、自治体から多くの人材が集まっていまして、実はいろいろなことができる組織なんです。例えば中心市街地活性化や地域再生計画、さらには構造改革特区。これはすべて、本事務局の業務です。これまではバラバラに行われていたものですが、これからはシナジー効果を発揮させます。

大上:なるほど。構造改革特区の話が出たところで、今後の展開を少し伺いたいと思います。今回、大塚さんは行政刷新会議の規制改革分科会会長に就任されました。これは政治主導で規制改革をやっていこうということの象徴的な立場だと私は思います。
 改めて成長戦略ということについて、この規制改革との関係、あるいは大塚さんが考える成長戦略の全体像はどのようなものでしょうか。

大塚:大きく2つに分けて考えなくてはいけないと思っています。
 1つは、マクロ経済政策についてある一定のシナリオを持つこと。これは成長戦略にとっては重要なことです。
 そして2つ目は、その上で論理的にミクロの成長戦略を組み立てていくことが必要です。マクロ経済政策のプラットフォームが混乱していては、安定的な成長軌道を実現できません。財政政策と金融政策の在り方、およびその連携の在り方をしっかりと安定させなければなりません。

NBO:マクロ経済政策のプラットフォームがちゃんとできているという前提の下で考えると、具体的な成長戦略はどういうものになるのでしょうか。

成長を妨げている原因を探る

大塚:ポイントは4つあると思っています。第1に「需要のあるところには新しい産業や企業が育つ」ということですね。
 例えば、今、医療支出は着実に増えています。ということはそこには需要がある。政府の医療支出は増え続けていますが、それを受け取るのは民間の企業やサプライヤーであるはずです。その受け取り手が海外ではなく日本の国内に育てば、日本のGDPは絶対に増えます。

大上二三雄氏

大上:そうですね。

大塚:ですからまず、どこの分野の需要が増えているのかを認識すること。そして放っておいても増える分野の需要を有効活用するというのが第1のポイントです。医療がその典型というわけです。
 第2のポイントは、需要が伸びる分野があるのに、なぜそこに企業や産業が育たないのかということです。それがこの20年、あるいは四半世紀の日本の問題だと考えています。それは、不合理な規制や制度が成長を阻害していたのかもしれませんし、もっと別の原因があるかもしれません。

大上:文化とか。

大塚:不合理的な規制や制約があるとすれば、それを改革したり発展させていくのは、まさしく政治の仕事だと思っています。そこは今度の規制改革分科会の大きな役割です。
 医療を例にあげれば、新薬が許可されにくい、新しい医療機器の開発が進まないという問題があれば、その原因を探し、きっちり対処していこうと思っています。PMDAなどの問題ですね。
 ただ、日本が育んできた文化や風土が原因である場合もあると思います。規制や制度は見直せても、実は文化の壁が高かったという場合、それを政府で乗り越えることはなかなか難しいかもしれません。

大上:アメリカでは、ブッシュ政権の時代に、バイオテクノロジーの進歩と治療の問題が、レオン・R・カスを議長とする大統領生命倫理評議会で徹底的に議論されました。その報告書 『A Report of the President’sCouncil on Bioethics, Beyond Therapy Biotechnology and Pursuit of Happiness, Dana Press, 2003』(邦題:治療を越えて青木書店2005年)では、バイオテクノロジーと医療という問題が、多方面の専門家により徹底的に議論されています。
 このような議論が有るから、国民も情感に流れることなく、新しい科学の進歩を冷静に受け入れることが出来る。日本では、原子力の問題や遺伝子組み換え作物など、これまでこのような冷静な議論無きままずるずる来ているところも有りますが、そろそろ、「情感を越えた」科学的議論が、多分野で必要な時代になっていると思います。

大塚:第1のポイントは「放っておいても増える需要を有効活用しよう」ということ。第2は「その需要を有効活用できない制約要因があるなら、それをブレークスルーしよう」ということですね。

手の予想を超える先手を打ちたい

大塚:次に環境対策です。国際経済競争の中で優れたパフォーマンスを発揮していくためには、競争相手の予測の範囲内の行動を取っていても勝つことはできません。例えば「2030年には全て電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)だけにする」など、具体的な目標期限を定めて相手の予測を超えるような先手を打ちたいですね。

大上:そうですね。

大塚:つまり第3のポイントは「環境対策を有効活用する」です。しかも、競争相手が予測できるような常識的な対応じゃなくて、1歩も、2歩も、3歩も先を行った行動を取り、先行するメリットを享受しようということです。これが環境対策を成長戦略に有効活用しようという理由です。

大上:斬新な試みが必要ですね。

大塚:そうですね。それに付随して出てくる話でもありますが、第4のポイントは「新興国の需要を有効活用する」ということです。
 世界銀行の予測では、新興国の中間層の人口は約5億人とされています。しかし、これがあと十数年の間に、約10億人増えると言われています。新興国の中間層、あるいは新興国の新中間層のうちの1割の需要を日本が獲得するという国家目標を掲げたら、1億人分の需要を獲得するということになります。つまり、日本丸ごと1カ国分です。

大上:そういうことですね。

大塚:もちろん簡単にできることではありませんが、一口に中間層といっても幅が広い。しかも、中間層以外も含めれば何十億人も人口は増えます。戦略性なしに需要を獲得しにいき、所得の低い層のニーズに応える製品を日本が供給していくようになると、その水準の購買力や価格に対応した産業構造に収斂していくわけです。
 しかし日本はすでにこれだけ成熟した産業社会ですから、国内で生産される製品の付加価値は高く、それを生み出すために働く人たちもやっぱり給料は高い方が良いに決まっています。
 僕があえて中間層と言っているのは、その層の需要を1割獲得するということを国家としてやっていけば、日本の産業構造や勤労者の所得水準にあった、日本丸ごと1カ国分の需要を獲得することができると考えるからです。 その中の1つが、環境対策に連動しているんですね。新興国でも、中間層で余裕のある人ならば、環境対応車に乗ろうと思う。だから、そこを日本は狙っていけばいいんじゃないかということです。

大上:なるほど。

文化という壁を乗り越える

大上:この4つを「基本戦略」と呼んでいいのではないでしょうか。これは本当にシンプルですが、シンプルなものが正しいと思うんです。みんながすぐ覚えることができて、自分の行動をあらためてそれでチェックできるようになる。このシンプルな4項目というのは大変に大きな意味を持っていると思います。

大塚:環境対策技術は他国の追随を許さないポジションを死守するという気持ちと国家戦略が必要だと思いますね。

大上:そうですね。

NBO:今、民間で議論されている中では、日本の要素技術は良いと言われているんですが、プロジェクトベースで負けが続いているところがあるわけです。そこをチームとしてどのようにやっていくのかということは気になりますね。

大塚:そうですね。今、原子力発電所についても、政官財界が一緒になって世界に売り込もうというムーブメントが出てきていますが、オールジャパンでスクラムを組んでビジネスを行うということだと思います。
 もうイデオロギーの時代ではありません。中国も今や国家資本主義です。我が国は、よりスマートな資本主義の体裁を整えつつ、負けないようにやっていくということが大事だと思いますね。
 だからこそ、第2のポイントでお話ししたとおり、需要のある分野とそのサプライヤーの成長を阻害しているものが何かを見極め、改革しなくてはなりません。制度的、規制的なもの、文化的なもの、何が阻害要因であるかを、よく考える必要があります。

大上:日本はさまざまな取り組みをして成長を遂げてきました。今度は文化的な壁を乗り越える工夫をすることで、さらに成長していけると思います。

 

良い意見があれば、そのまま受け取って進めます


大塚:次回はマクロ経済政策の話もしなければいけませんね。

大上:アマルガメーションアプローチ(統合政府アプローチ)ですね。これは大塚さんの昔からの持論をお聞かせください。

NBO:それから、読者からこういう意見を聞きたいなどご要望があれば、そちらもお聞かせいただけますか。

大塚:わかりました。今、政権としては「ハトミミ.com」で国民の皆さんの声を聞いていますけれども、屋上会議室は「ハトミミ.com」の日経BP版となってくれればいいなと思っています。皆さんの中で、「自分はこういう分野は成長のエンジンになると思っているんだけど、こんな制約があってできない」「これを何とかしてくれ」という声があれば、是非コメントを入力して下さい。
 抽象的なことじゃなくて、具体的な問題を把握できる内容をコメントしていただければ、対応したいと思います。

大上:せっかくこういう掲示板になっているので、ぜひここで議論が深まって、抽象的かつ総合的かつ本質に近いものになって意見が出てくると、すごくいいインプットにもなると思います。
 ですから、議論が深まって欲しいということと、意見を率直に出して欲しいということを読者の皆様にはお願いしたいです。

大塚:今回は基本戦略を「4つのポイント」でお示ししました。
 「放っておいても増える需要とは何か?」
 「その需要をうまく活用することを妨げていることは何か?」
 「環境対策を有効活用しようというときに、日本の環境技術を常に世界のトップランナーとして維持するためには何が必要か?」
 「新興国の中間層の需要としてはどういうものがこれから生まれ、何を日本から提供すればいいのか?」この4つについて皆さんからのご意見を期待したいと思います。

大上:他にも面白いなと思う声があって、例えば「太陽光発電、風力発電でずっと酸素と水素を作り続ければいいんじゃない?」みたいなもの。そういう意見は、聞いたことがないアイデアでしたのでとても面白いと思いました。

大塚:面白いですね。皆様の声をぜひお聞かせ下さい。


2010年4月8日木曜日

たくさんの読者コメントをもって副大臣に取材してきました 大塚耕平・内閣府副大臣に“改めて”聞く日本の成長戦略(その1)

肯定派も否定派もどんどん書き込んでください

NBO:前回、大塚副大臣にゲスト講師を務めていただいたこのコラムは多くの反応があり、同時に「コメント内容の濃さ」ととても驚きました。
大塚 耕平(おおつか・こうへい)氏
1959年名古屋市生まれ。83年早稲田大学政経学部卒業、日本銀行入行。在職中の2000年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程を修了し博士号を取得(専門はマクロ経済学、財政金融論)。同年、日本銀行を退職。2001年参議院議員に初当選、現在2期目。鳩山由紀夫内閣にて内閣府副大臣を務める。著書に『公共政策としてのマクロ経済政策』(成文堂)、『ジャパン・ミッシング 消えた日本、再生のカギを考える』(オープンナレッジ)など
大塚:ありがとうございます。私も読者の皆様からのご意見を拝見しましたが、本当に参考になるものが多くありますね。
大上:それは本当によかった。今回は、これまでの3回の内容を振り返りつつ、読者のコメントをどう見るか話した上で、さらなる成長戦略の話を伺っていきたいと思っています。

 前回、「『ダメな理由』は聞きたくない」とした中で、提示された成長戦略の枠組みそのものについて、さまざまな反応をいただきました。たとえば、自動車もすべてEVやFCVにするという、ある意味、乱暴な仮説を提示したところ、「こういうものを待っていた」「ぜひ参加したい」と諸手を挙げて肯定する人がいた一方で、「今までうまく行ってないんだから、結局、上から目線な旧来の乱暴な政治家と一緒か」、「『ダメな理由』を丹念に拾って、そこから学びなさい」という、かなり強い否定のコメントもありました。

NBO:全体で言うと、肯定派:否定派=7対3ぐらいの印象でした。

大塚:私が読んだ印象だと、5対5ぐらいでしたけど(笑)。

大上:いえいえ(笑)、確かに7対3ぐらいだったと思います。面白かったのは、単純に肯定や否定を示すだけではなく、否定派を肯定派の人たちが「そんな考え方ではいけないんじゃないか」とさらなる議論が内部でも起こっていたことです。
 大塚さんはこうした読者のやり取りをどのように読まれましたか。

大塚:そもそも肯定派であれ、否定派であれ、これだけ反応をいただいたということは、日本経済の潜在的活力を感じました。皆さん、やはり日本のこれからを心配しているのだと思います。だからこそ、こういう双方向の、あるいは参加者同士の意見交換が行われることがすごく重要だという印象を強く受けました。
 いただいた意見はしっかり咀嚼するつもりですので、引き続き肯定派の方々にはポジティブなご提案をどんどんいただきたい。
 逆に否定派の方で、できない理由を、あるいは今までうまくいかなかった理由を1つ1つ、拾い上げていくべきだとおっしゃった方々には、「それをどんどん書き込んでください」とお願いしたいと思います。それをしっかり読ませていただいて、これからの糧にしていきたいと考えています。

余裕や付加価値を生み出す空間と時間は欲しいですね

大上二三雄氏

大上:成長を目指していく過程や成長するための壁を1つずつ乗り越えていくためにも、こうしたプラットフォームで国民の意見や感覚に耳を傾けるという機会が大事になってくるんですね。

大塚:前回掲載時のコメントを拝見して感じたのは、ここに参加してくださっている人たちがこのプラットフォームを通じて、さまざまなことに気が付いてくれているということでした。
 このプラットフォームは、まさしくバーチャルな国家戦略室になり掛けているということです。そうした議論の場が、これからもっとたくさん必要だと感じています。

大上:ところで今日、副大臣の部屋に通された時、スタッフの皆さんからとてもフレンドリーな雰囲気を感じました。

大塚:うちの職員ですか?

大上:はい。やっぱり建前ばかりではなく、足元で自由に物を言える空気になっていることが多くの意見をもらうことに繋がるんだと思いました。ワイガヤ会みたいな。ハードルはあると思うんですが、今、副大臣が担当されている地域活性化統合事務局などでも、誰でも参加して週に1回でも、夜に少しビールでも飲みながら、いろいろな地方の問題を取り上げてどんどん語り合っていくというようなことができればおもしろいかもしれませんね。

大塚:それはいいですね。そのぐらいの心の余裕や行動の余裕も欲しいです。お酒を飲みながらなんて不真面目だと思われるかもしれませんが、リラックスできるサロン的なものの中からクリエイティブな発想や意見が生まれてくる場合も少なくない。そういう、良く言えば余裕、ちょっと違う言い方をすれば付加価値を生み出すような工夫をした空間と時間は欲しいですね。

大上:そうですよね。「気軽に話が出来る」場をもっと作らないとだめだなあというのは、つくづく感じます。立場が上の人たちとでも新橋あたりで割り勘でコップ酒に近いようなものを飲み始めると、そこに何か生まれてきますから。そこに行かないとダメですね。

大塚:いまの若い人は「飲みニケーション」というのはあまり好まないんでしょうけれど、お酒を飲む、飲まないは別にして、本当にフランクに自分の考えていることを言い合って、お互いの考えがスパークするような機会は、工夫して設ける必要はありますよね。

大上:ええ、ぜひそういうのを考えてください。水を飲んで熱く語るでもいいし。役所も結構良いことをやっている例はたくさんあるし、地域のために力を尽くしている人達や例も大勢あります。そういう話をみんなでワイワイガヤガヤ共有して、全国に発信していけば、新しいことが生まれてくると思います。

大塚:おっしゃる通りだと思います。先ほど、お話した私が責任者として活動している地域活性化統合事務局というのは、そういった多くの意見をまとめて実現していくチームです。
 例えば地域で何かイベントを開催して活性化につなげたいという案が出た時に、道路に関しては警察、開催する広場の管轄は国交省など、さまざまな規制が各役所にちらばっているんですね。
 その過程で、各役所がそれこそできない理由ばっかり言って、結果的に実現に至らなかった案件というのがいっぱいあるわけです。だから、私が就任直後、地域活性化統合事務局のスタッフに伝えたことは、何かアイデアが出てきた時に、「役所からいろいろな制約があってできない」ということを地域の人達が相談にきたら、たらい回しにせず、ワンストップで相談に乗ってあげなさいということです。

NBO:活性化の目的に耳を傾け、実現のために一緒に考えそれを行動に移すんですね。

大塚:そうです。事務局には各役所からの出向者も地方からの出向者もいるわけですから、ここに頼めば何でも解決する、つまり「どうやったらできるかということを考えるのが、あなた方の仕事です」と。
 これまであった頭の構造を変えただけで、もうだいぶ動きが変わってきているんですよ。

大上:それはうれしいことですね。

大塚:だから『ダメな理由は聞きたくない』に批判的なコメントがあったのは、ちょっと意外でした。
NBO:真意が伝わっていなかったんですね。
大塚:そう思います。地域活性化統合事務局の話は典型例ですけれども、今までは各役所と地方が集まって新しいことをやろうとすると、それぞれのできない理由を持ち寄って「だからこの新しい取り組みはできないんだ」と結論づけ、多くのことが実行されないでいたわけです。
 そうじゃなくて、「どうやったらできるか」という知恵を集めると、1つのプロジェクトがブレークスルーしていくんです。同じようなアプローチで、さまざまな分野でこの国の成長戦略につなげていかなければならないなと思っています。
 ですから、読者の皆さんにも、さまざまな意見、「こうすればできる」というようなお話を聞かせていただければうれしいですね。
(続きは明日。金曜日「新しい政策形成プロセスを構築する時代になっている」です。)


2010年2月25日木曜日

「ダメな理由」なら私も100個ぐらい言える 【ゲスト講師】大塚耕平・内閣府副大臣(3)

大上 今はむしろミニシステムをつくって実験をしつつ、それをどう機能して発展させていくかを求めていく方向にあると思うんですよ。これも横山さんの受け売りに近いですが、社会システムの中で悪循環をもたらす阻害要因を地道に克服し、良循環をつくっていくんです。
 僕は先週末ニセコに行ってきたんですけど、あそこはすごくいい街になっているんですよね。ニセコユナイテッドというビジョンの下に、山も全部一緒にしているし、みんな関係各員が協力し合っていろいろなことを決めているんですね。
大塚 耕平(おおつか・こうへい)氏
1959年名古屋市生まれ。83年早稲田大学政経学部卒業、日本銀行入行。在職中の2000年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程を修了し博士号を取得(専門はマクロ経済学、財政金融論)。同年、日本銀行を退職。2001年参議院議員に初当選、現在2期目。鳩山由紀夫内閣にて内閣府副大臣を務める。著書に『公共政策としてのマクロ経済政策』(成文堂)、『ジャパン・ミッシング 消えた日本、再生のカギを考える』(オープンナレッジ)など


 そういう中で、オーストラリア人が非常に多く入ってきていて、街並みがオーストラリア的な部分が相当あるんです。そこに最近中国人が入ってきて、今は中国的なものが入ってきているんですね。それがいい形で、日本、西欧、それから中国というものがきれいにマリアージュしているんです。
 象徴的なのが、一番メインの交差点が、積丹のすし屋と、それからオーストラリアのよくリゾートなんかにある、レストランがあってショッピングができるようなコンプレックスがあるのと、あとは一番人気の居酒屋があって、もう1個の角はまだちょっと変なものが建っているんだけど、たぶんそこにそのうち中国的なものができるんじゃないかと思っているんだけど。
NBO 面白いですね。
大上 ニセコは観光ですが、それ以外の分野でもああいう風景が成り立つミニシステムをいろいろなところに、日本の中に生み出していくことができるような、それを引っ張り支えて行く人が一定数いれば、日本も大丈夫だと思うんですよ。
大塚 そうですよね。
大上 成長軌道に上がっていくと。

有識者の会議はこれからの出来事の「参考」にはなりません


大塚 でも、それは最初の方で述べたプレーヤーの話にかかわってくるんですけれども、やっぱり、数万人ないし10万人ぐらいはいないと…
大上 やっぱりある程度数がいないとだめですね。
大塚 そうです。例えば、銀行を例にあげれば、産業や企業を育てることのできる「目利き」力のある真のバンカーが必要です。日本の銀行員全部がスーパーバンカーである必要はないけれども、その10万人のうち、2~3万人はバンカーの中から出てきて、コーディネーターやプランナーの役割を果たしてほしい。あとの数万人はまた別の……

大上 組織の中で2~3人だとやっぱりだめなんですよ。サムスンが何でこんなに成長しているか。サムスンに初め経営企画という概念を導入して、経営企画にトップエリートを入れた。李健煕が世界から活躍する韓国人をスカウトしてきた。高い年収で。でも全然機能しなかった、最初はだめだったんですよ。李健煕が彼らに聞いたら、いや、もう多勢に無勢で、周りの人たちに飲み込まれちゃって自分のやりたいことができない、と。
 李健煕は、「じゃあ分かった」と言って、この経営企画の部隊をそれこそ全取っ換えして、マジョリティーをMBA出身の人にした。それからサムスンの躍進は始まったんです。
 今、日本でも各企業に何人かいるんです。目覚めた人たちが。外務省でもいろいろなところでもいると思うんですけれども。でもその人たちが少数派である限り、多勢に無勢で飲み込まれ、なかなか表に出てこないんですよ。
大塚 必ずしもマジョリティーになる必要はないんですけれども、その少数派が孤立していてはだめなんですね。
大上 そうそう。
大塚 相互連関が始まるとシナジー効果ができて、まさしくダイナミズムが出てくるわけです。明治時代も、結構プレーヤーたちの横のつながりがあったんですよね、いろいろ話をひもといてみると。今もそうですよ。90年代の閉塞状況に比べたら、今の方が少しずつ、人のつながりも含めたダイナミズムの動きが出てきていますよ。
大上二三雄氏



大上 船が沈み始めると騒ぎ始める・・・。
大塚 そういう感じですね(笑)。
大上 だんだん横につながる動きが出てきているかもしれないですね。
大塚 たとえば、政治家の供給ルートも90年代の中ごろまでは、55年体制下で確立された供給ルートがほぼ100%を占めていました。しかし、90年代後半頃から、役所を若くして辞めてくる人とか、僕たちみたいに金融界から転身する人も出てきた。僕が銀行に入った頃には、銀行員が政治家になるというのは、2世、3世ならいざ知らず、普通ではあり得なかった話ですからね。
 今日話している内容的に申し上げれば、危機感というものをみんな感じている。まさしく船が沈没し始めるとネズミが騒ぎだすかのごとく、共有されつつある局面だと思います。
NBO “ネズミが騒ぎ出すがごとく”・・・
大塚 そういう意味ではプラス要素が出てきましたが、危機感を共有し、変化を実現していく過程でいくつか乗り越えなければいけない障害、固定化した観念のようなものがある。
 それは今まで出てきた話で言えば、例えば、アジアに対する意識です。「アジアの中の一員」なんて外交辞令みたいに言っているうちはだめですね。日本は地政学的にアジアであることは間違いないわけだし、50年前と違ってお隣の中国は経済的に無視できない国に成長したわけですから。アジアに対して欧米と日本が働き掛ける、日本は欧米の一部だというような固定観念はやっぱり乗り越えなきゃいけない。

それから、外交=安全保障だという固定観念も乗り越えなきゃいけない。それから、「成長戦略」は政府が作るものだという依存的な意識も乗り越えなきゃいけない。
 それから、少し話は違いますが、金融界でいうと「レンダーは誰でもできるけれど、バンカーは誰でもできることじゃない」という発想に立って、本当の意味でのバンカーを育て上げるとか、金融の分野だけに限って言うとそういう課題もありますね。
 いずれにしても、今はじわじわと動き始めている局面なんです。僕は決して悲観はしていない。さっき言ったように、過去の成功体験や固定観念に拘泥して、高度成長期を体験した元官僚が有識者会議に登場し、上から目線でアジアを語るような状況は、ちょっと言葉はきついかもしれませんが「百害あって一利なし」とも言えます。
NBO そうでしょうね。
大上 多様性の中での悪い方のサンプルですね(笑)。
大塚 日本人ってどうしても穏便にことを済ませようとする傾向が強いので、そういう人たちにも失礼のない対応に徹し、結局そうやって根拠の希薄な自己主張を乱暴に一方的に言う人たちにも過分の配慮をしてしまう。しかし、本来はやっぱりディベートすべきことはディベートしなければいけない。役所の先輩が天下り先の幹部になって有識者として会合に出席すると、そういう人たちの発言に妙に迎合したり、遠慮をしているような役所に未来はないし、日本は託せない。
大上 そういうものトレーニングを、皆で根底からやっていくことが必要です。だから民主党の中で今大塚さんがそういうことを、成長戦略を率直に評価していただいたのは僕にとっては驚きでもあるし、逆にすごく評価することだと思う。そういうことがどんどんディベートされてもまれていくというふうになるのであればすごく期待できると思いますし、そういうのを大塚さん自身ももう一歩踏み込んで、そういう人はちょっと。
 やんわりとじゃなくて、もうちょっとがつんといくぐらいの感じでやってもいいんじゃないですか。
大塚 まあ、ぼちぼちと。ただ、亀井さんがいらっしゃるので(笑)。

「批判だけなら結構です。提案をしていきましょう」


NBO そういえば・・・金融庁では第2記者会見も始まりましたね。
大塚 これも、これまでと同じことをやっていたらダメなので改革に取り組んでいるひとつです。それを明確に意識してやっています。記者クラブの何が問題かとかと言えば、つまり「限界に直面して立ち尽くしている霞が関」からの情報を垂れ流すわけでしょう。そうすると、それをそのまま記事にする記者クラブの情報を読まされる国民は明るい気持ちにはなれないわけですよ。

記者クラブだけでなく、業界団体も同じです。郵政改革で金融界の幹部の皆さんに申し上げているのは、「民業圧迫という批判を聞かせていただくためであれば、もう来ていただかなくて結構です」ということです(笑)。その主張は、私自身も十二分に分かっていますから。もっと創造的な議論がしたい。例えば、「そんなに郵政事業の民業圧迫が懸念されるなら、郵政事業を止めて300兆円を放出したら、既存の金融界の皆さんはその300兆円を受け入れていただける用意はありますか」と聞くと絶句する。 「ではどうしたいんですか」と聞くと答えない。思考停止状態です(笑)。
 さらに、仮に受け入れたら何に運用しますかと聞いても名案はなかなかない。それから金融過疎地については、政府としては金融アクセス権を国民に保障する責務を負っているので、「郵政事業を止めた場合には、他の金融機関が代わりにやってくれますか」と聞くと、みんな押し黙っちゃうわけですよ。 「限界に直面して立ち尽くしている」のは、霞ヶ関やマスコミだけでなく、経済界も同じように感じられます。
NBO なるほど
大塚 だから、「民業圧迫だということも十分理解しているから、今回皆さんに期待したいオピニオンは、郵政事業をどのように改革したらシナジー効果が出るか、あるいは地域経済、日本経済のためになるか、そういうクリエイティブな意見をぜひ聞かせてほしい」と言って、今、問題提起しているわけですよ。
NBO 読者に対してもそうですかね。シナジー効果が求められるような意見なら、聞くよと。
大塚 そういうことなんです。日本を取り巻く環境が激変している中で、20年前、30年前に聞いたような定番の主張やミニマムサイズの陳情が行われている現状こそが、日本の危機を象徴しています。クリエイティブな意見や指摘は是非拝聴したいですが、批判するだけだったら退場です(笑)。
 金融庁に着任して、偉そうに訓示させていただく機会がありました。その内容は全部公開してあるんですけれど、その時に彼らに最初にお願いしたことがある。
 要するに、「これからいろいろな難しい政策課題を提示するかもしれないけれど、できない理由なら聞きたくない」と申し上げた。
 霞が関だけでなく、日本人全体がそうですけれど、「できない理由」を主張する天才ですからね。とりわけ霞が関と大企業はそのマイスターです(笑)。

 だから私が金融庁の皆さんにお願いをしたのは、「できない理由」を考えるのではなく、「どうやったらできるようになるか」という工夫やアイデアを聞かせてほしいということです。だから、例の円滑化法案でも、金融界や経済界に不満な点はあるかもしれないけれど、「どうやったらできるようになるかを考えよう」と問題提起しました。「亀井さんがずいぶん高めのビーンボールを投げているのは百も承知だ」という前提で・・・(笑)。
 「できない理由」なら皆さんに聞かなくても、僕が「無理な理由なら100個ぐらい言ってあげるから、そんなことは聞きたくない」と申し上げたんです(笑)。
 どうやったらこの政治的ミッションに対して応え得るのか、その工夫を聞きたいというコミュニケーションを始めたら、結構、アイデアが出てくるんですよ。

だから成長戦略でも、結局、日本を担う40代、30代、あるいは20代の皆さんから「こんなことをやったら大変だ」とか、「こんなことを考えている政府はバカだ」みたいな批判だけなら、「そんなことは百も承知」なんですよ(笑)。だったら「どうすればいいのか」ということです。

「明治を動かした10万人」がいまいれば・・・


 そのスピリットが定着したら、僕は日本がずいぶん変わってくると思います。記者クラブも同様です。ネガティブインフォメーションだけを垂れ流す記者クラブであれば「百害あって一利なし」。必要ありません。でも、記者クラブの改革も僕1人ではできないですよ。亀井さんがいるからできるんです。あの人はそういう意味では、アニマルスピリッツがあるんですよ(笑)。
大上 バルカン政治家ですよ。
大塚 いやいや(笑)・・・そうだと思います。今日は主に成長戦略の大枠の話をいっぱい申し上げていますけど、その大枠が共有できれば、次にはディテイルの検討に入っていったときに、すごく良い議論がいっぱいできると思いますよ。
大上 世間には、そういう機能不全の組織がいっぱいあります。でも一人一人、それこそ『坂の上の雲』じゃないけど、10万人ぐらいいて動いていくようになれば、確かに成長するんだと思うんですよ。
大塚 そうですよ。全然、悲観したり、卑下する必要はないです。根拠のない自信を持つことはよくないですが、もうちょっと自信を持っていいと思いますね、日本は・・・。
NBO 10万人とおっしゃっていたのは、具体的な大塚さん計算した数ではなく、司馬遼太郎さんの言っていた“明治時代の10万人”の意味ですよね。
大塚 はい。
大上 この話では、司馬遼太郎では『坂の上の雲』もいいですが結構長いので、時間のない人には『「明治」という国家』が参考になります。
大塚 たぶん「明治」という時代は、ひとつの元号ということ以上の言葉の意味を持ってしまっているんですよね。「明治」という時代の日本は、さっき申し上げたように、近代化するために欧米のいいものは取り入れていくというコモンビジョンが暗黙のうちに10万人に共有され、彼らは教えられなくても社会を引っ張っていった。
大上 スローガンがはっきりしていた。和魂洋才とか、富国強兵とか。
大塚 そう。だからその成長戦略は、別に政府が方針を出さなくても、一定の方向に向かって慣性を持って動いていたわけですよね。「21世紀日本はかくあるべし」というコモンビジョンが共有できれば、たぶん成長のためのシードはいっぱいありますよ。 (次回につづく)

2010年2月18日木曜日

「2030年、日本ではガソリン車を走らせない」という未来 【ゲスト講師】大塚耕平・内閣府副大臣(2)

日本がいま「課題先進国」として、様々な問題を抱えていることは共通認識としてあろう。だが、“次なる日本の成長”はどんなものか。読者の方々も独自の成長イメージを抱いているはず。皆様が考えていること疑問に思っていることを、一度、政府の方々と一緒に突き合わせて話してみてはどうか、というのがこの連載の趣旨。
 ゲストとして現職の内閣府副大臣の大塚耕平氏が参加。NBOで「戦略立案のプロ」などのコラムを書いていただいた大上二三雄氏には“まとめ役”をお願いした。読者からの意見で連載の内容が決まってくる“先が読めない”コラム。このコラムの先行きを決める意見欄に加え、前回から開設した屋上会議室でも意見が寄せられ始めている。意見欄、会議室とも、大塚副大臣、大上さんがチェック中。「いろんな意見があって勉強になりますね。この連載を通じて、新しい成長のための提言までできると面白いなぁ」とは大塚さんの最初の感想。
(編集部 瀬川)
前回から読む)

国際外交と経済問題が分断されている日本


大上 あと大塚さんには外交問題についてもお伺いしたいんです。経済・金融と外交は切り離せない問題ですし、やっぱり、これも両義的なテーマです。

大塚 耕平(おおつか・こうへい)氏
1959年名古屋市生まれ。83年早稲田大学政経学部卒業、日本銀行入行。
在職中の2000年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程を修了し
博士号を取得(専門はマクロ経済学、財政金融論)。同年、日本銀行を退職。
2001年参議院議員に初当選、現在2期目。鳩山由紀夫内閣にて内閣府副大臣を
務める。著書に『公共政策としてのマクロ経済政策』(成文堂)、
ジャパン・ミッシング 消えた日本、再生のカギを考える』(オープンナレッジ)など


大塚 ええ。日本の成長戦略を考える上で、外交の位置付けも重要。私は外交とか国際政治の背景には「経済的利害関係がないものはない」と思っています。
 外交的主張とか国際政治における交渉は、すべて自国や自分たちの陣営にとって繁栄あるいは安定につなげることを考えている。最終的には経済的利害に到達するわけです。逆説的に言うと、国際政治や外交は経済政策とも言える。
 ところが、日本の成長戦略を考える上で、経済界も外務省も外交と経済が連動してないんですよね。これは政権を担当してよく分かりましたけれどもね、外務省というのは外交イコール安全保障だと思っているわけですよ。

大上 なるほど。

大塚 でも、その安全保障ですら経済的繁栄を追求するための手段です。

大上 あるいは経済が安全保障の重要な要素になり得る。

大塚 そう。

大上 アメリカとか中東が日本にたくさん投資をすれば、それ自身が安全保障になるわけですから。

大塚 この数カ月、副大臣として実務をしていて驚いたのが、例えば、オバマや習近平などの外国の要人が訪日する時に、外務省にとって経済問題のアジェンダの優先順位がとても低いことでした。経済問題を話題にしないことも少なくない。
 アメリカというのは、政府幹部が外国を訪問する時は、ほとんど「株式会社アメリカの執行役員」みたいな立場で臨む。営業マンとして明確にビジネスアジェンダを持っていると言えます。そういう意味で、やっぱり日本の成長戦略を考える際、外交も含めて国家戦略全体の問題だという認識を・・・。

大上 まだない。

大塚 共有されてないですね。

大上 外務省って大使館は外務省のものだと思っていますよね。あれはそもそもおかしい。

大塚 勘違いですよね。

大使館には日本株式会社の海外ブランチという意識がない。その意識があったら、職業外交官の多くはあんなに牧歌的な生活はしていられないはずです(笑)。

大上 そうですよね。

大塚 しかも、先ほど申し上げたように、世界は動態的にどんどん動いているわけですから。現地の動きは、いくら吸収して本国に伝えても、伝えきれないぐらいの情報があるはずなのに、ローテーションで任地を転々とする職業外交官は現地の情報を意外に知らない。現地のことをよく知っているのは、2年間の任期採用の調査員とか派遣員の人たちです。皆さん、ものすごくよく知っている。
 現地の庶民の生活から、ステークホルダー同士の人間関係までよく知っている。でもこの人たちはだいたい2年、3年で外務省を辞めざるをえないから・・・。










 

大上二三雄氏

大上 職業外交官の人たちって、自分が分からないことは扱わないという傾向がある。経済問題に疎いというのが一般的で、国交省の成長戦略会議でもこの問題はさんざん議論されています。
 でも面白いのは、例えば、某国大使は、現状でいけば出世に取り残されそうだという危機意識があったので、新幹線の売り込みを非常に頑張って大活躍したらしいんですね。そういう危機感があり、何か目的があると意外と頑張る人たちであるという。
 あと、ブラジルでの日本の地デジシステム導入でも、総務省の人が1年ぐらいほとんどブラジルに入り浸ってやったらしいんですね。1人の人間の力で、あそこまでできるわけですよ。

大塚 「外交も経済と密接にリンクしていること」「外交や国際政治は、日本の経済成長や経済発展と表裏一体」という意識を持っていたら、当然動きが変わってくるんですよ。
 日本が繁栄すれば世界の安定につながるというコンテクスト(文脈)が明確になれば、「最前線のビジネスマン」である外交官は、当然そのためにどういう行動を成し得るかを考え、実際に行動しなければならない。そういう観点から言えば、今の彼らの多くの立ち居振る舞いはほとんど職務放棄状態。

NBO 戦後直後は違ったと聞きます。日本のものをどうやって伝えていくのかと、企業もちろんそうですけど、“ブランチ”の方々も必死に考えていたと。

BIS規制強化の舞台裏


大塚 そう。日本の官僚は外交官も含めて本来は優秀な集団です。したがって、やればできる。政府に入って、そうした点を実感したこともあります。例えば銀行のBIS規制。

NBO はい。夏頃まではBIS規制強化の話題が盛んに出てました。

大塚 ええ。2009年9月に金融庁に着任した時、「12月には日本にとって驚天動地のような規制強化案がまとまる」という話でした。実際に交渉に行っている人たちは大変優秀な人たちです。そこで「あなた方は前の政権でどういう政治的ミッションを負って交渉に行っていましたか」と質問したところ、驚いたことに明確な答えがないんです。つまり、「政治的ミッションがなかった」ということです。

NBO え?

大塚 何もミッションがない。だから、優秀な官僚であっても、、交渉現場で相手から厳しい要求を突き付けられれば、「そんなことを日本に導入したら大変なことになるけれども・・・」とは言うものの、それ以上には自己主張ができない。「国際的にはこうだ」と言われる一方だったのではないかと思います。抗弁しようにも、ミッションがない。
 実際は、国際的な基準があるわけではないんです。相手も自らの経済的権益を「国際的な要求」という大義名分の名を借りて自己主張するわけです。交渉手段として表向き「国際的な時流はこうだ」と言っているだけのような気がします。

大上 うーん、やり方がヨーロッパ流だ。

大塚 政治的ミッションがないことから、「あなた方の主張も分かるが、日本はなかなか大変だ」と言っているうちにどんどん押し込まれ、最終的に「年末には言われるままに決まるかもしれない」という状況だったわけです。
 この状況を変えるために、明示的にいくつかの指示をしました。例えば「新規制の導入条件にこういう文言を入れるように」とか、「どうしても自己資本の控除項目について合意ができなかったら、席を立って帰ってきていい」とか。明確にリミットを示しました。そうしたら、交渉担当者のビヘイビアはだいぶ変わったように思います。その後のネゴシエーションはなかなか見事でした。

NBO なるほど。

大塚 「最終責任を政治家が取る」と言ったので、官僚もそのことを心の支え、交渉のセーフティネットとして動く。欧米各国のカウンターパートにもしっかりと働き掛けたようです。特にヨーロッパの大銀行にも規制見直しの共闘を訴えた。するとだんだん雰囲気が変わり、事態の深刻さを分かってきてくれた。
 12月のバーゼルでの最後の会議の時には、後で他国の参加者から伝え聞いた話だと、委員会の議長を務めるオランダ銀行総裁が「あなたはこの問題の重大性を理解してないんじゃないか」と参加者から指摘される展開になったそうです。3カ月前の雰囲気がガラっと変わっちゃったわけですよ。
 交渉担当者の意識で世界は変わるという実例です。あらゆる外交交渉は経済的な問題と密接にリンクしています。日本の経済的繁栄、発展、安定というのは、実はものすごく重要な政治イシューなんです。それが分かってきたら、交渉担当者のパフォーマンスも変わる。
 ところが、例えば環境問題について他国と交渉しなければならない担当者が、成長戦略のペーパーだけを読んでも成果は期待できない。そういう意識のない交渉担当者が、「動態的な成長戦略」「予定調和の結論が用意されてない戦略」を成功させるための国際交渉をまとめ上げられるかといったら、それは無理です。
 繰り返しになりますが、結局、「成長戦略」を成功させる鍵は、企業、官僚などのプレーヤーが意識をどう高めていくかという点です。それから、成長戦略そのものは動態的なものであること、成長戦略は中身の問題じゃなくて定義の問題だということ、そして、成長戦略は国際政治や外交における日本の立ち居振る舞いとも密接にリンクしていること。そんなことを鑑みると、成長戦略の議論はまだまだ本質的な議論になっていません。

本当は、「総員各人の持ち場で全力を尽くせ」が成長戦略


大上 いま大塚さんが言われていることは、今の段階で納得しちゃいけないんだけど(笑)、極めて正論ですね。たぶん、組織を動かすとか、国を動かす時にはまず共通のビジョンがあって、それからロジックに基づき戦略が立案される。それから、組織や人を動かして行くために統制的なもの、具体的には人事が行われと法律をはじめとする規則が定められ、報償や罰などのルールも必要になる。世の中の仕組みから言えば、そういう統制的なものばかりがあがってきます。

でも、本当は他にも大切なものがあるんですよ。それが、パーティシペート&トラスト(参加と信頼)。実際にみんなで参加して一緒にやっていくんだと。そういうものをつくっていく意思であり思いが組織の様々な場所で生まれ全体に共有されて行く、そういった動きが生まれてくるようにならなくてはなりません。
大塚 そうですよね。
大上 これからの「成長戦略の読み方」としては、それが大事になってくる。
NBO 今回の成長戦略は今まで大塚さんのおしゃっている課題を踏まえて出てきたものでは・・・今回は違いますよね。
大塚 政府の一員としてはコミットメントはしていますが、僕自身の問題意識がパーフェクトに反映されたものかといえば、もちろんそうではないし、僕がつくったものではないということですよね。それはともかく、結果的にこういうペーパーになるのは、先ほど来、申し上げているように、経済界もマスコミも、それから政治や行政も、「成長戦略」に関するイメージがこういう「紙」をベースにした成果物がないと不安だというコンセンサスがあるからこそ、こういうものにならざるを得ないんです。でも、これだけで成長できるわけではない。多くの国民が共有するビジョン、国全体から内発的に起こってくるダイナミズムがなければならない。


 










やっぱり定義の話に関係してくるんですね。今までのやり方が限界に直面しているからこそ「成長戦略」が必要だと感じている。そうであれば、今までと同じことをやっていたら、あるいは同じ発想でプランを立てたら、トレンドは変わらないんですよ。
 でも、この事実、つまり「変わりたければ、自分たち自身が変わらなくてはならない」ということさえみんなで共有できれば、あとは内発的に変わっていきます。それぞれの分野でダイナミズムが起きる。英国海軍のネルソン提督じゃないけれども、「総員各人の持ち場で全力を尽くせ」と言うことです。これこそが「成長戦略」の真髄です。

 NHKで「坂の上の雲」(『坂の上の雲〈1〉』文春文庫)が始まりましたね。あれは面白いですね。この間、今回のシリーズの最後の時に、司馬遼太郎さんの本の中の文章を読み上げていたと思うんですけれども、「あの時代日本の近代化に向けて貢献した人の人数を数えてみたら、数十万人だったかもしれないし、ひょっとしたら数万人だったかもしれない。しかし、そのぐらいの人たちが、つまりそれぞれの分野で、『自分はこの分野の近代化をなさなくてはいけない』と思って取り組んだ結果として、近代日本があった」とナレーションが入っていました。まさしく、そういうことです。
 あの小説、そしてドラマは、たまたま秋山兄弟にスポットを当てていますが、司馬さんは、全体像を明確に認識して書いておられるなというのがよく分かる。
 僕は今も一緒だと思うんですよ。例えば、菅さんが凄い「成長戦略」を書けて「この内容に従ったら、日本は10年後にはまた『ジャパン・アズ・ナンバーワン』になる」と言う。それだけで、実際に成長が実現できるなら、菅さんをエンペラーにしなければいけないでしょうね(笑)。

NBO エンペラー(笑)

大塚 でも、そんな人はいないわけです。各自が今までとは違う努力をしないとダメなんです。

「2030年 日本国内ではEV FCVしか走れなくなる」政策?


 例えば、最近僕は、自動車業界の人に「温暖化ガス25%削減のために、この際、2030年には日本の国内にはEVとFCVしか走らせないということを業界全体で合意しませんか」と提案したりしています。これはどういうことかといえば、25%を達成するためにはガソリン車を走らせない方がいいわけです。そうするとEV、FCVはまさしく国家戦略として開発しなければならない話なので、技術開発コストも含めて、徹底的に政府がバックアップすればいいんです。

低価格化したEVやFCVは世界のデファクトスタンダードになって輸出にも貢献するし、外国産のガソリン車は入れない。

NBO 走らせられない、というわけですね。“例え話”としては走りすぎているけど(笑)。メーカーと政府の役割という意味では分かるお話です。(笑)

大塚 そう。だから、「それで合意しましょう」と水を向けても、日本のメーカーは「EVはあそこのメーカーさんは進んでいるけど、うちは進んでないのでそれを言われると困る」とか、「うちはプラグインハイブリッドだからちょっと待ってくれ」とかまとまらない。気持ちは分かりますが、そこが限界ですね。「坂の上の雲」の時代は、欧米諸国に追いつく、近代化を進めるということに関して、「ちょっと待ってくれ」という選択肢はありえなかったわけです。

NBO なるほどね。

大上 どこかで強引にやってしまうというのが1つあるけど、当然猶予期間みたいなものを置いて、そこに一緒にいこうよ」と。そういう「各員みんな頑張れ」と言ったときに、ネルソン提督であればいいんですけど、みんな間違った認識のもとに各人勝手にやり始めると、それはそれで危険です。

大塚 それは、「坂の上の雲」的に言えば、「日本は近代化のために欧米の制度や文化を導入しなければならない」という、極めて誤解の少ない大方針が共有されていたわけですね。 だから、バラバラにやっていたのではない。

大上 共通のビジョンがあったわけですよね、そこにコモンビジョンがあったわけです。

大塚 そうです。「成長戦略」で出すべき内容は「コモンビジョン」。「ディテイル」まで出すべきだという議論になっているのは、個人的にはむしろ危なっかしいし、日本はまだ限界を突き破れないなと思っています。
 あるいはさっき申し上げたように、「ディテイル」までみんながもっともだと思うものを提示できるような人がいたら、もうその人に総理大臣を20年ぐらいやってもらった方がいいですね(笑)。

大上 まあ、そういう人はいないというですよね。

大塚 いない。

大上 だから、トータルシステムなんていうものの幻想はもう捨てた方がいいのかもしれない。
(次回につづく)

2010年2月16日火曜日

Webマーケティングによる営業の売上アップ・コスト削減勉強会~貴社の売上アップ・コスト削減余地が明らかに〜

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Webマーケティングによる営業の売上アップ・コスト削減勉強会~貴社の売上アップ・コスト削減余地が明らかに~


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そう、これが、2010年のWebマーケティング。
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売上拡大の"裏技"が完全公開されるセミナー。なんと、
1人様1,500円。今回限りです。

今回のセミナーでは、Webマーケティングを遂行していくための、具体的なツールまでおしみなく公開します。

これだけ学びの多い今回のセミナーですが、参加費は1500円です。
ただし、会場の都合上15社様しかご参加いただけません。
ご好評につき30社様まで増員いたしました!
さらに私どもの既存のお客様にも一部ご案内をしているため、ご用意できる席はさらに限られてしまいます。

経営者・役員・部長の方々の時間を投資していただき、不況を乗り越えるヒントや解決策を得ていただきたいと思っております。
是非、この機会にご参加ください。

■講演内容          
【第一講座】~これだけ押さえれば成功する!~
エム・アイ・コンサルティング株式会社 小島美佳
Webマーケティングを成功させる4つの条件
 ・ Webマーケティングの全貌と時流
 ・ これからはじめる企業、現段階でうまくいっていない企業が今、抑えるべき考え方


【第二講座】~今だから語れる...失敗と成功 ? 
株式会社富士通ビジネスシステム 石見誠一
事例紹介:Webマーケティング成功への道のり
 ・ SaaS型アプリケーションへの問い合せ件数を3ヶ月で45倍にした秘訣とは!?
 ・ ターゲット選定からクロージングまでの流れを大公開!
 ・ Webマーケ推進体制の鉄則!


【第三講座】~御社にも起こるかもしれない!? ~ 
エム・アイ・コンサルティング株式会社 小島美佳
事例紹介:他社の失敗から学ぼう
 ・ 先進好事例、失敗事例の公開とルール化!
 ・ 成功事例から学ぶ、想像よりもはるかに少ないWebマーケ必要投資額


【第四講座】~疑問に全てお答えします!~
質疑応答:Webマーケティング実践現場ノウハウ大公開

■講師:
エム・アイ・コンサルティング株式会社 
Webマーケティング部統括ディレクター 小島美佳
慶應義塾大学で経営論を選考。アクセンチュアに入社し、企業における事業開発や営業分野を中心とした数々のコンサルティング・プロジェクトを遂行。エム・アイ・コンサルティング・グループの立上げに参画し、自ら事業開発、営業を展開。現在は、海外における営業・マーケティングノウハウを日本国内に展開する各種活動に従事。企業に対するコンサルティング支援をする一方、営業トレーニングの講師としても活躍している。

株式会社富士通ビジネスシステム 
ビジネスイノベーション推進部 プロフェッショナル部長 石見 誠一

■開催概要             
日時:2010311日(木)14:0017:00(受付は13:30~)
主催:エム・アイ・コンサルティング株式会社
共催:株式会社富士通ビジネスシステム
会場:株式会社富士通ビジネスシステム 2階 東京都文京区後楽 1-7-27
定員:3015名(*先着順とさせて頂きます)ご好評につき増員いたしました!
参加費:1,500

2010年2月10日水曜日

「ニッポンの成長」について話し合いませんか? 【ゲスト講師】大塚耕平・内閣府副大臣

 日本がいま「課題先進国」として、様々な問題を抱えていることは、皆様、共通認識としてあろうかと思います。では、課題先進国としての“成長”はどんな形になっていくのでしょう。恥ずかしながら現政府が掲げる「成長戦略」がいまいちよく分からないのです。皆様どうなんでしょう?この際、読者の方々が考えていること、疑問に思っていることも一緒に現政府にぶつけてみてはどうだろう。そこから新しい成長像が見えるかもしれない・・・。そんな趣旨で始める連載です。
 ゲスト講師として現内閣府副大臣、大塚耕平氏に参加して頂きました。NBOで「戦略立案のプロ」などのコラムを書いていただいた大上二三雄氏にはこのNBO勉強会の“まとめ役”をお願いしました。今後、読者からの意見をもとに、大塚さんらとの議論を深めていく予定です。皆様のコメント次第で内容が変わってくる“先が読めない”連載です。
(編集部瀬川)
大塚 では・・・今回は「日経ビジネスオンライン」読者と「成長戦略会議」を継続的にやるイメージなんですね?
NBO はい。昨年の年末、日経ビジネスオンラインで「10年後の日本のシナリオを考える」という読者参加型の勉強会をこっそり開催しました。その時、大塚耕平副大臣には“一個人”として参加していただきました。あの勉強会も今後公開する予定ではあるんですが、あの勉強会で印象的だったのが、大塚さんが「現政府には成長戦略がないというマスコミの批判には、僕はちょっと不満がある」と言って、大塚さん自身が書いた経済リポートをもとに、日本経済の現状を説明してくれたことでした。あれはいい機会で、参加された読者の方々にも「とても勉強になった」と喜んで頂けました。
 ところが・・・その後、現政府が発信する情報をいくら積み上げていっても、現政府の成長戦略が伝わってこないんですよ。というよりも、現政権にはアイデアがないのではないか、と思ってしまう話題が実に多い(笑)。それで、この際、読者と一緒に「成長戦略」について話し合う場ができないかと思ったんです。


大塚 耕平(おおつか・こうへい)氏
1959年名古屋市生まれ。83年早稲田大学政経学部卒業、日本銀行入行。在職中の2000年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程を修了し博士号を取得(専門はマクロ経済学、財政金融論)。同年、日本銀行を退職。2001年参議院議員に初当選、現在2期目。鳩山由紀夫内閣にて内閣府副大臣を務める。著書に『公共政策としてのマクロ経済政策』(成文堂)、『ジャパン・ミッシング 消えた日本、再生のカギを考える』(オープンナレッジ)など
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大塚 それは、いい提案です。今は日本経済が危機に直面していると思っています。そのような状況ですから、日経ビジネスオンラインの読者の意見を聞いてみたいですね。政府が年末にまとめた日本の成長戦略に関しても、僕なりにちょっと言いたいことがありました。実際、菅(直人)さんにはいくつかコメントしたんです。

NBO どんなことを?

大塚 一言でいえば、紙で「成長戦略」と書けばそれが日本の成長戦略になるのかということです。「何パーセント成長を目指します」と数字を掲げたらそれが成長戦略なのか。皆さんも、そんな単純なものではないと思っているでしょう。成長戦略とは何か、皆さんが考える成長戦略を「定義」から一緒に話したらいいんです。それを、徹底的に議論しておかないといけない。
 たぶん、今回発表されたものも、このままでは表層的なニュースのひとつにすぎず、政治の側からの一方的な発信で終わってしまうでしょう。 そうならないように、もちろん僕自身も努力します。

NBO まず、知りたいのは各分野の目標もさることながら、皆さんが「日本の成長」をどう考えているのかだと思うんです。「課題先進国」(『「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ 』)として、様々な問題あることは承知しているとは思うんですよ。
 でも、その上で、日本の成長は何かというと皆さん思い描いている姿が違うと思うんですね。ですから、皆さんが考えていること、疑問に思っていることを、この際、政府や企業の方々も一緒に突き合わせてみたいんです。
 ただ、一方的に意見を言っていても展開がありませんので、まとめ役としてNBOで「戦略立案のプロ」などのコラムを書いていただいた大上二三雄さんに“ファシリテーター”になってもらおうと思ってます。










大上二三雄氏

大上 最終的な結論は読者の方々各自が引き出すことになると思います。ただ、この話し合いの場がある意味、「塾」のように学びの場になれば理想です。その場の講師として、一緒に考えてくれる相手として大塚さんに出ていただくというのはすごく楽しいんじゃないかと思っています。

大塚 大上さんが塾長?

大上 一応。で大塚さんはこの塾の講師であり、政治家、政治の政界の窓口。

大塚 いやー、それよりも“大上塾長の友達”という立場がいいな(笑)。

NBO 自由な場にしたく思ってますので、肩書きはご自由に選んでくださって構いません(笑)。肩書きはともかく内容については責任をもってお願いします。なお、登録読者からのご意見をもとに、4回目以降の連載を続ける予定ですので、皆様、どうかよろしくお願いします。

「日本の成長戦略」に対する評価は?

大上 今日は、大きく分けて、2つのことについてお聞きます。まず、報道などでいわれている「日本の成長戦略」について。12月末に発表された成長戦略ですが、率直に言って、この内容について大塚さん自身どう評価されているのか。あと、もう1つがそもそも「成長戦略って何か」。これについてお伺いしたいんです。

今回の成長戦略に対して新聞は「財源の具体策見えず」との評価をしていましたね。しかしね、戦略立案の段階では、「具体策」がないことなどは当たり前じゃないかとも思うんです。掲げるビジョンと現状にはギャップがあるのが普通です。それを埋めていくにあたっての方針が「戦略」であり、それを実行するためのもろもろ具体策が「戦術」です。現政府がビジョンめいた目標を「戦略」と掲げたことがそもそもおかしい思うんですが、この戦略という言葉に対する定義も含めて、思うところを聞かせていただけませんか。




 
「10年後の日本のシナリオを考える」勉強会の様子
 
大塚 「成長戦略がない」という指摘を受けていた中で、政府として1つの考え方をまとめました。これがコミュニケーションの始まりになります。その意味では評価できると思います。実際にこの戦略を作り上げる過程では、僕も関連部分には関与しました。
 もっとも、2番目の質問である「成長戦略の定義」ですが、マスコミも経済界の皆さんも、なんだか「成長戦略とは政府から提示されて、与えられて、その通りにいくもの」という前提で聞いていないでしょうか?実は、日本の将来を考えると、その点が最も不安です。

「おいおい、どこまでが政府の仕事なんだよ?」


 今回発表したシナリオについて、「その通りにうまくいかせるのも政府の仕事ですか」と経済界の皆さんには聞いてみたい。やはり、このシナリオを形にしていくのは、政府だけじゃなくて、実際にビジネスにかかわる人たちも重要なメインプレーヤーです。そのことがあまり認識されてないんじゃないかという気がするんです。

大上 では、僕らも率直に言っていいですか(笑)。そもそも、この「成長戦略」は民主党の政権の初期段階のアジェンダにあったものなんでしょうか。というのも、私の見ている限りですけど、11月ぐらいから、急に経産省の人たちが成長戦略を作るんだ」とばたばたと動き始めて慌ててつくったような印象があります。あともう1つは「現政府、民主党政権は産業界とのコミュニケーションをちゃんとされているのか?」と思うことが本当に多いんです。
 私が非常に尊敬している経済人の方が、現政府の某氏と小人数でディナーをともにした折、「20分くらい話をしたら、もう話す気がしなくなった」と振り返るんです。それくらい、「産業界というものに対する認知やリスペクトが感じられなかった」と。
 これは、個人の問題ではありません。比較的、ビジネスセンスがありそうな某氏でそのような状況。それ以外にも、現政権の人たちはどうも産業界を低く見ていると思わざるを得ない、といった話題が多いのです。逆に、経済界の比較的良識がある人たちは現政府をエイリアン、進駐軍を見るような感じで遠巻きにみているような状況がありますよ。

大塚 それは、某氏が何の話題について話したかによりますけど、ただ、そういう政治や政府に対する不安感を早く払拭しなくてはいけないとは思います。
 その時、大事なポイントは、先ほどの話でいうところの「成長戦略」です。紙に書いて出すことは簡単ですし、それに書いたことを法律や制度にすることはできます。けれども、実際にプレーする人は、政策に関与する側もいれば、ビジネスにかかわる人たちもいるのです。そうしたプレーヤーとしての意識が今ひとつ欠けているのではないか。それが1つのポイントです。

「みんな、コンペティターの存在を理解してないんじゃないの?」


 もう1つは、日本のマスコミや経済界からの問い掛けを聞いていると、成長戦略をものすごく「静態的」なものとしてとらえている気がするんですね。そもそも、すべての経済行動、産業政策には必ずコンペティターがいるんです。ところが行政を含めて、コンペティターをあまり意識していない気がします。

大上 ダイナミックな3Cですね(3Cとは「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字自社の戦略に活かす分析をするフレームワーク)。

大塚 このコンペティターの問題を分解すると、注意すべき点がさらに2つある。「動態的であるがゆえに想定通りにはならない可能性がある」というのが1点。それから、もう1点は「世界の構造変化を十分意識できていない」ことです。
 そういう観点から、成長戦略の最終案をまとめる時に、僕もいくつか注文した点があるんです。
 例えば、日本のプレゼンス、立ち位置についてです。相変わらず「アジアに対して、欧米と日本がどのように働き掛けるか」という視点で検討されています。もちろん文章の中には「アジアの中の一員として」というフレーズは出てきますが、読後感は明らかに日本は・・・

“上から目線”では成長戦略はでてこない


大上 アジアとは別だと?
大塚 ええ、アジアとは別だという意識で書かれているわけですね。それで菅(直人)さんに「こういう意識は適切ではないのではないか」という意見を明記したペーパーを出しました。こういう意識はよくないですよ。菅さん自身はよく理解されていると思いますが、とりまとめ担当者はもっとよく考えるべきですね。


 
 実は、それと同じ気持ちになったことが金融庁のある有識者会議の際にありました。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などの清算機構をどうやってつくるかということを議論していたのですが、「決済インフラをアジアにも提供しなくてはならない」という表現で意見を述べる方がいました。
 「このまま放っておくとロンドンのクリアリングハウスが中心になるので、ロンドンに対抗してアジアに拠点をつくるべき」という意見自体は理解できますが、その方の発言はアジアを「上から目線」で見ている印象であり、「日本が提供してやる」というイメージに聞こえました。僕の思いすごしかもしれませんが・・・。 因みに、その方は元官僚で、今は業界幹部でした。

NBO なるほど。

大塚 そこで、僕は「そういう発想を放置していたら、ロンドンを意識しているうちに上海にクリアリングハウスができちゃいますよ」という話をしたんです。
 私たちより上の世代は、高度成長期までのG7が世界を引っ張っていた感覚が抜けていない。中国の存在についての認識も僕たちとは意識が違う。僕の子供の世代なんかは、中国は後進国だというイメージはないでしょう。当然、高度成長期世代はそうした子供たちとは全然認識が違います。世界の構造変化について、必ずしも適切でない認識の人たちが産業界や業界の幹部の中にもいることは、日本の成長戦略を考えるうえで根深い問題と言えます。
 つまり「そうした業界幹部の人たちが納得する成長戦略であれば、たぶん失敗する」ということなんですね。

大上 そういうことですね。

大塚 極めて「動態的」であるし、コンペティターがいるから予定調和のようにはならない。それが成長戦略の前提です。それと密接に関係する話ですが、「世界の構造変化をどうとらえているか」ということが重要です。アジアについても、いわゆる「上から目線」で見ていたら、今や成長戦略の体をなさない。「アジアの成長を取り込む」という発想ではなく、「アジアの国としてアジアとともに成長する」という意識が重要です。
 最初にプレーヤーの話をしました。次が、成長戦略は動態的であるという話。そして、最後の3点目は日本や世界の構造変化に対する認識の問題です。

成長戦略とは何なのか


大塚 僕はこのような作戦ペーパーをまとめなくとも、実はその定義に関してみんなが本質に気がつけば、放っておいても成長すると思っているんです。
 それは構造変化の話とも関係があります。「日本の成長が行き詰まっている」のは、各分野に「さまざまな原因がある」からでしょう。だから各分野の「その原因」を除去すれば、自ずと変化が生まれ、成長が始まるはずなんです。
 つまり、今までと同じことをやっていたら、今までのトレンドは変わらない。今までの何に原因があって成長が停滞し始めたのか。みんながそのことを自問自答し、プレーヤーとして各人がチャレンジしていくこと――それが成長戦略なんです。この意味さえ共有できれば、放っておいてもみんながそれぞれの動きをし始め、成長に向かって前進します。
 そういう観点で、今回最も評価すべき点は、責任者である菅さんが、環境問題や温暖化ガス25%削減目標について、「制約要因だとは思ってない」とはっきり言ったことですね。そこはさすがだなと思います。その目標に対処するために、今までと違うことをやらざるを得なくなるわけです。そういうムーブメントを起こすトリガーを引く。そういう行動を僕は正しいと思っています。今までと違う動きを始めなければ、何も変わらない。

NBO 目標を共有して、そこに向けて「じゃあどうすればやれるのか」と発想の転換を仕掛けていく、と。

大塚 そのとおりです。大事なのはそれなんです。日本のビジネスマンやこれから社会に出る若者が、「今までの日本のやり方はある時期まではよかったけれど、それぞれ時代に合わなくなっている。世界の構造変化に対処せず、今までと同じことをやっていたらトレンドは変わらない。良い方向にはいかない」という意識を共有できたら、後は放っておいても今までよりも良い方向に進むと思います。

大上 その通りですね。

大塚 アニマルスピリッツ。私の大学時代の恩師である伊達邦春先生は、安井琢磨さんとの親交も厚く、シュンペーターの第一人者でした。そこで、僕もケインズとシュンペーターをかなり勉強しました。その中に「アニマルスピリッツ」という言葉が出てきます。「アニマルスピリッツ」についてはいろいろな理解の仕方がありますが、要は、動物は人間よりも本能的に危険や限界を察知し、それを打破するための行動を取るということです。危険が迫っている、限界だということを日本経済とそれを支えるプレーヤーが認識できたら、「アニマルスピリッツ」が自然とわき出てくると思います。

大上 危機感を共有できれば、ですね。

中身からやり取りまでオールドパラダイム

大塚 おそらく、まだそこまでは共有できていない。だからこそ、私としては「成長戦略のペーパーだけ作っていればいいというものではない」という自責の念に駆られているんです。マスコミも「何かペーパーを出してください」みたいなことを言っているうちは・・・。

 
「10年後の日本のシナリオを考える」勉強会の様子
 
大上 数字を出してくださいとも言いますよね。でも結局、出てくるペーパーは小泉政権でまとめられたものに、作風がそっくりじゃないですか。あれも経済産業省の人たちの素案に、御用学者の方が構造改革=雇用の増加という味付けをして、結局、中身からやり取りまでオールドパラダイムなんです。
 言われるように、環境を制約ではなくて、環境を新しい目標として考えよう、というのは正しい。それはニューパラダイムです。例えば、アジアと西欧という2極で未だに物事を考えていたり殆んどがオールドパラダイムの中で、新しいパラダイムもあるのがまあ希望と言えるでしょうか。
 私が尊敬する横山禎徳さん(『アメリカと比べない日本』)が良く使う言葉に、オクシモロン(Oxymoron)という英語があります。日本語で言えば相反する両義性でしょうか。あの人は悪い人だけど、いいところもあるとかね。物事には両面性って必ずあると思いますが、日本以外ではどちらか旗幟鮮明にしなくてはいけない。元々は、南方熊楠が言い始めたのですが、あいまいさを許容する日本文化の核心は両義性であると。この特徴は生かすべきでしょう。“西欧の一員でありながら、アジアの一員である”というような、立場の取り方だとかね。
(次回につづく)
日経ビジネスオンラインでは「日本の成長戦略」について「屋上会議室」で意見を募集します。2010年2月10日16時に「日本の成長戦略」という会議室をオープンします。今回の講師である大塚さんが「できない理由を言うのは無駄です。そろそろ、その先の話をしましょう」と言うように、“未来の成長のためのご提案”をお願いします。なお、寄せられた意見をもとに、再度、大塚さんとファシリテーターである大上さんと4回目以降の連載を続ける予定です。どうかよろしくお願いします。
テーマ別に会議室を分けてみましたので覗いてみてください。
「需要創造(新事業や成長産業)」分室
「供給側の改革(=規制改革)」分室
「アジアの成長へ呼応」分室
「環境問題対応への同期」分室
「地方からの提案」分室